ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/05/19 五月大歌舞伎昼の部③「鳴神」

2007-05-31 23:58:28 | 観劇

新橋演舞場五月大歌舞伎昼の部の幕開けの「鳴神」が最後になってしまった。吉右衛門が出ていないせいかも(^^ゞとにかくこの演目も今回が初見。
【歌舞伎十八番の内 鳴神(なるかみ)】
この演目の概要はこちらをご紹介→ウィキペディアの「鳴神」
二代目左團次の復活上演以降は、成田屋版、弟子筋の高麗屋版といろいろな演出があるらしい。もちろん染五郎は祖父譲りの型で演じるわけだ。
今回の配役は以下の通り。
鳴神上人=染五郎  雲の絶間姫=芝雀
所化白雲坊=吉次郎  黒雲坊=吉之助
まずは鳴神上人と弟子の白雲坊・黒雲坊とのやりとり。吉次郎・吉之助がベテランさん達ということもあり、染五郎の鳴神がこの弟子たちのお師匠様に見えない。声もお上人様らしい威厳がない。こんな青二才のくせにどうしてこの地位にまで登りつめられたのだろう。祈祷の力が強いというテクニックが評価されたのだろうか?というくらい青二才の鳴神上人。ちょっとイメージが違うなぁ。

花道に鉦をチンチンと鳴らしつつ芝雀の雲の絶間姫が登場。アレレ、雲の絶間姫の舞台写真で通常見る顔の拵えと違うぞ!紫帽子の下にかかる上がり眉じゃなく、普通のお姫様みたいな眉の書き方だ。こういうのもありなのか。そうか、「双面」のおくみの顔の拵えと同じにならないようにしているのかなぁ?などと思い巡らす。

語りが始まると、雲の絶間姫しゃべるしゃべる。こんなにしゃべる役なんだと驚く。雲の絶間姫は帝のお側近く使える官女だから気品もあり、その容色を見込まれて鳴神篭絡を図るように送り込まれた女の色気の両方を兼ね備えないといけない役なのだろう。さらに芝雀の持ち味の可愛さもある。予想を遥かに上回る芝雀の雲の絶間姫に目が引き付けられた。またまた見直してしまった。絶品!!こんな素敵な美しいオネエ様に現役の男が落ちないわけがない。

染五郎の鳴神上人と並ぶと青くさい若者が熟女の魅力にたぶらかされた感じがある。それも芝雀の熟女は色気がありながらも清潔感もある。だから鳴神に一度は自分を篭絡にきたのだろうと疑われたのを悲しんで滝に身を投げようとするところの説得力も増すような気がした。

姫を出家させる道具をとりに行けと弟子たちを下山させた後のやりとり。鳴神は姫の策にはまる。姫の身体にふれることになったことから姫が欲しくなり、破戒・還俗の覚悟を固めると姫に主導権を握られる。酒を飲まされて秘法を解く秘密まで言わされてしまい、酔いつぶれてしまう(今回のように舞台の中央でぶったおれた鳴神を赤い布で隠して次の準備をするのが古風な型らしい)。
姫は鳴神から聞き出したように滝壺に張った注連縄を切り、竜神を解き放つ。全世界の竜神を封じ込めたはずだが登っていくのはただ一匹(匹でいいのかな?)。まぁ象徴ということだろう。振り出した雷雨の中、姫はさっさと下山していく。

弟子たちが大勢かけつけてきて起こされた鳴神は鬘も顔の拵えも準備完了。騙されたことに怒ってぶっかえって姫を追いかけようとする。ここからの染五郎は奮闘する姿がなかなか好ましい。とめだてする弟子たちをぶんなげて荒れ狂う。気合十分の花道の引っ込み。指先まで力にあふれ、踏み鳴らす足音も高く引っ込んでいく!

このコンビだと最後はハッピーエンドになりそうな気がする。雲の絶間姫には文屋康秀という想い人がいてその男と添いたいためにこのお役を引き受けたということになっているらしい。それでも染五郎の鳴神上人がこんな迫力で追いかけてきたら、その勢いにほだされて一緒になってしまいそうな感じだ。そういうハッピーエンドで漫画にしたのが木原敏江の「轟く滝の下で」(ご紹介の記事はこちら)。最後は若さの勝利ということで(笑)

また、この染五郎の若さにあふれる鳴神上人についてのイメージを膨らませた「てぬぐいぶろ。」さんの記事もご紹介しておきたい(→こちら)。すごく納得できてしまうと思う。

予習のために買った本を観劇後に読了。前進座の亡くなった女方、嵐芳三郎さんの『役者の書置き』(岩波新書)。前進座の歴史もよくわかるし、「鳴神」の前進座での演出もよくわかった。嵐芳三郎・圭史兄弟による上演の写真が載っていた。今年5月の国立劇場公演(「毛抜」「新門辰五郎」)は残念ながら見送ってしまったが、来年は圭史の「鳴神」をやっていただければと思ってしまった。

写真は、今回公演のチラシより鳴神の染五郎の部分をアップで撮影。
以下、この公演の別の演目の感想
5/19昼の部①「鬼平犯科帳 大川の隠居」
5/19昼の部②「釣女」
5/22夜の部①「法界坊」「双面」
5/22夜の部②福助のお三輪