午後は、河口の部屋に帰り、
小説を読んだ。
過日(12日)のブログに、
「猫の話」と題して投稿した。
それは、『猫が見ていた』という短編集に因んで書いたものだった。
読み終えた文庫本を書棚に片付けようとして、
私が、気に入った3編として取り上げた作家の一人、
井上荒野さんの単行本があるのに気づいた。
『切羽へ』である。(下の写真)
<第139回直木賞受賞作>とある。
それを求めた記憶が蘇らない。
若い時には、必ず芥川賞受賞作は読んでいた。
(近年は、興味がわけば買い求めるという姿勢に変わってきた。)
以前から、直木賞受賞作には、関心が薄かった。
それなのに、『切羽へ』がある。
不思議な気がした。
「凶暴な気分」が面白かったのなら、これも読んで! と、本が訴えかけているような気がした。
河口の部屋では、自由な時間がたっぷりある。
昨日持参し、早速読んだ。
人間の不確かな心の揺れが、よく描けている。
心の機微がうまく捉えられている。
人間とは絶えず揺れ動くものだ。
大地も揺れ、人間も揺れる。
不動の世界など存在しない。
それを作者の確かな視点で表現する。
それが、味のある小説と言えるのだろう。
解説文を書くつもりはない。
そのとおりだ! と、印象に残った一文を引用しておく。
過ぎていくときが目に見えないのは幸いだ。でも、だかといってときが過ぎないわけでないのだ、と私は考えた。
私が求めた本は、初版の2か月後に出た2刷めである。
きっと評判がよく、読んでみる気になって求めながら、そのままにしていたのだろう。
作者の父君が井上光晴であることも、関心を高めたのかもしれない。
「凶暴な気分」を経て、『切羽へ』。
縁とは、不思議なものである。