ニコ、酒場で戯言

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なべ presents

「Eclipse」 Yngwie Malmsteen 1990

2005-05-30 18:25:27 | 雑記
天才の憂鬱、とでも言うべきか。
このアルバムの沈鬱な作風は他のいずれの作品でも感じることができない。自他共に認める自信家体質。好きな日本語は「イチバン」。何かと何かが表裏で交錯するイングヴェイだが、この作品は実に人間らしく弱々しい。そして、なんとも言えず良い。

リリース時の彼を取り巻く状況をごく簡単に整理すると、「時代の寵児、天才ギタリストとしてもてはやされ遂にビッグネームのジョー・リン・ターナー(Vo)とコンビも組みポップな曲も作ったのにアメリカで不発」→「交通事故の後遺症でギターがうまく弾けない」→「俺がせっかく頑張って凄いプレーしてるのに超簡単なフレーズしか弾けないでも評価される野郎が出てきた」→「知らないうちに時代遅れのレッテルが俺様に…」→「(´・ω・`)ショボーン」である。ジョー・リン・ターナーも良きパートナー、ヤンス・ヨハンセン(key)も脱退してしまった。

「技術=魂の欠如」という陳腐な公式はロックというフィールドに時折登場する摩訶不思議な格言で、その度に「技術よりも魂」という曖昧な結論を押し付けようとするが、そもそも「魂を表現するのに技術がなければ、それはただの意気込みである」ということに気付かないのは大層困ったものである。肝心なのは、「どうやるか、ではなく、何をやるか」である。少し話が逸れたが、イングヴェイはかくして傷ついた。

その彼が穴に隠れるように舞い戻ったのは故国スウェーデン。メンバー全てをスウェーデン人で固めるという“ホームシック”ぶりは強気と成金でならす彼の人選としては異例。そして、“Motherless child”というらしくない甘えのあるタイトル。ソフトなプロダクション。全てがおいて彼の弱気を垣間見ることができる。

その弱気がメロディの憂いとなり、曲の輪郭が丸くなり、透明感が増す。これがなんともいえずいい…。

Voには元Madisonのヨラン・エドマン。ヒゲは濃いが女々しい歌声と軟弱道を極めたナヨナヨパフォーマンスがおおよそハードロッカーから程遠いのが特徴な彼だ。予定調和的にそのナヨナヨを理由に解雇されることになる。暴力を振るわれた上に家から追い出される不幸体質の女性のようですらある。

しかし、このか弱きエドマンがこのアルバムに見事にマッチした。天の配剤。歴代のVoでは誰もこのアルバムを歌えない。イングヴェイにとってリハビリのようなアルバムで、“Motherless child”と歌い、Motherのような役割を担ったというのは言いすぎか。

ベーシストにはオーケストラあがり、ヤンスの後任には起用になんでもこなすが、口は出さない技術屋マッツ・オラウソン。イングヴェイに優しく。それが合言葉であるかのように彼らは忠実だ。

イングヴェイの憂鬱と弱気。スウェーデンに偏った人選。ヨラン・エドマンのか弱い歌。それらが互いに共鳴しあうように、か弱いこの異端のアルバムに統一感をもらたした。そして、このはかなくも美しい雰囲気を私は特にお気に入りなのである。

全体に覇気が感じられないのは仕方の無いところだが(特にギタープレイは冴えが無い)、その中にもキラリと光る曲も存在する。いかにも不安定だが、その分輝きは増している。

イングヴェイ史上、最も優しく美しいメロディを湛える

“Motherless child”

は私の一番のお気に入り。ドラゴンや炎や剣が飛び交い、相手を必ず見下す視点で描かれることがほとんどの彼の歌詞の中で唯一といっていいほど弱気。

Sometimes I feel like a motherless child
Left all alone in the cold
Nowhere to go so I run like the wind
Stumbling,falling,crying,calling you ...

ってどっからどうとってもイングヴェイじゃない…(笑)

“Bedroom eyes”

において、「俺はバッハとジミ・ヘンドリクスから影響を受けた」の後者のアピールをはじめてするわけだが、当時は際物と思われたこの曲も今聴くとその後のジミヘンソングの中ではイチバンの出来。ただ、いかんせん、この曲ではヨランが溺れ死んでいる…。


“Demon driver”

は“Motherless child”と並ぶ聴かせ所。“Motherless child”とは一転強気な曲だが、ヨランの歌がそれをうまく中和する。限りなくRainbow、いや様式美HRファンが狂気する曲だろう。



イングヴェイが今後、このような作品をつくるということはありえないだろう。どんなにこき下ろされても、今なら居直ってしまうからだ。これからも「イチバンイチバン~」と豪快に叫びながらその暑苦しくも個性的なギタープレイを披露し続けるだろう。それらも素晴らしい作品になるだろう。だが、このアルバムにも彼の心象が見事に反映されている。それは他のアルバム以上であるとも言える。すなわち技術以上の魂が閉じ込められているのである。落ち込んでいても、彼は自分の力で見事にそれを表現してのけているのである。


余談だが、ヨラン・エドマンのスタイルを考えると、女性ヴォーカルであっても良さそうな曲が結構あると私は思う。それはキーの問題ではなく、やはりこのアルバムの性質のよるものだろうと思う。うーん、剃っても青いヒゲがうっすらと透けてみえるのになあ(笑)。



トレーニング中の選曲
“Bedroom eyes”
“Save our love”
“Motherless child”
“Devil in disguise”
“Judas”
“Demon driver”
“See you in hell(don't be late)”
“Eclipse”
計35分08秒

2回連続で気合入りすぎた~。次回はライトに。ライトツナ。

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4 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (アヴォカート)
2005-05-31 17:29:13
レヴュー乙っす。

このアルバムはたまにしか聴かないし、イングヴェイの

アルバムの中でもそれほど評価は高くないけど実は

結構いい曲が入ってますよね。



私はSave Our Loveのギターソロに涙しました。

この曲もヨランの女々しい(失礼)ヴォーカルが妙にはまってますね。
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Unknown (アシッド)
2005-06-05 02:46:35
>アヴォカートさん

亀レスになって申し訳ないです^^;



アヴォカートさんが食いついてくれてホッと

しました、の音楽ネタ。結構ストック

ありますので、また気になったのがあったら

是非読んでみてください^^



でこのアルバム。私は完成度の低さを補うに

余りある魅力が北欧臭さにあって大好きなアルバムです。

イングヴェイはアクが強いので、弱気なほうが

バランスとれてると感じられるのかもしれませんね。

彼にバランス求めるのがいいのかどうか知りませんが(汗
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はじめまして (シュウジ)
2005-06-07 01:39:27
レビューいいコメントですね。

私はインギーを初めて聞いたアルバムがこれで

しかもマザーレスチャイルドを友達に聞かされ

ぶっ飛んだ記憶があります。

私もこれはおすすめアルバムです^^

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ありがとうございます~^^ (アシッド)
2005-06-09 00:56:50
貴重な褒め言葉ありがとうございます!!

かなり浮かれてます~。



このアルバムいいですよねえ。ジャケットも

変なジャケットが多いイングヴェイの中でも

良いと思うし、何故不当に評価が低いのか

分かりませんよ。
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