旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

柳井 白壁 独歩 

2009年02月16日 23時32分57秒 | Weblog
所用があって玖珂経由で柳井まで出かけた。用事が済んでもなお日が高かった。その昔、当地に般若姫と用明天皇が滞在した際に、般若姫が井戸のほとりに楊枝を置いたところ、その楊枝が柳に成長したという伝説がある。柳井という地名の由来である。柳井見物を決め込んだ

たまたま般若寺で「火渡り」をやっているというので室津に向かった。観光バスまで乗り入れるような大勢の人出だ。展望台から境内を見下ろすと白い煙が上がって人の列が続く。「火渡り」の場では山伏姿の行者4、5人が檜を焚きつけている。その中央を裸足の観光客や地元の人たちが通り抜ける。火というよりも煙の中を次々に通り抜けてゆく。深い山に響く案内のマイク声が興ざめだ。

室津半島を下って、柳井の白壁通りを散策した。竹原の白壁よりも清楚でこじんまりした漆喰塗の和風建築が続く。雛祭りが近いので企画として各屋にお雛様が飾ってあった。赤い雛壇に漆喰塗の白のコントラストがいい。町や商工会が力を入れているのであろう。駐車場は無料だし掃除も行き届いて清々しい。

国木田独歩ゆかりの住宅に足を延した。独歩は裁判官をしていた父親の転勤に従って柳井で中等教育を受けた。上京して神田の某法律学校に籍を置いたのち東京専門学校の文科で学んだ。何故に神田の某法律学校なのかが気にかかる。硝子戸超しに掲示物を見ていると青年が話しかけてきた。

なんでも松山から周防大島経由で柳井に来たのだそうだ。見るからに文学好きそうなので話に乗ってみた。国木田独歩や二葉亭四迷の愛読者だ。柳井にあるこのゆかりの住宅とは別に、大分県の佐伯市にも同様の住宅が残されていて、そちらの方が展示品が整っていること、柳井の住宅は前日までに市の教育委員会に申し出ておくと中にはいることができることを教わった。

それから20分ばかりふたりのうまくかみ合わない文学談義が続いた。青年は明治時代の文学の愛読者であり、わたしがイギリスやフランスの翻訳文学の愛読者であるというどうしようもない好みの差があって、英語の明快さが好きだと言ったら「太宰が嫌いでしょ。」、35歳を過ぎた頃、三島の「金閣寺」を読んで文学に開眼したというと「じゃ、大江は嫌いでしょ。」といった妙な会話しか成り立たなかった。

肝心の国木田独歩はその昔、受験勉強で記憶していた代表作「武蔵野」の題名を知るばかりである。しかも、エコ関係の著作で引用されていた部分しか読んでいないので、当方に、独歩の足跡を訪ね歩くような青年との間で独歩論を闘わせるだけの素養がない。「何かの縁だから『武蔵野』は読んどくね。」と言って別れた。思えば誠実そうな好青年であった。

1 コメント

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高血圧は大丈夫? (ひろし)
2009-02-27 09:19:52
 しばらく論考が出ないと、「はやと」の健康が心配になる。高血圧から来る発作で倒れたのではないか、などと。
臨川書店から「ヘルマン・ヘッセ全集」の続刊、「エッセイ、評論集」の刊行が始まった。小説編も楽しみましたが、ヘッセは評論の方が面白いと思う。
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