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真理は醜い。私たちが芸術をもっているのは、
私たちが真理で台なしにならないためである。(ニーチェ『権力への意志』原佑訳)
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知っている、わかっている、わすれてはいない
おれたちは真理に愚弄され、ずっとたぶらかされてきた
真理はつまらない、クソのにおいがする
おれたちは真理にたどりつくために生まれてくるわけではない
真実ってなんだ、カミか、ホトケか
世界のはじまり、すべてのおおもとか
そうじゃない、その逆だ
むしろ生みの親はおれたちだ
おれたちが先に生まれ、真理を産み落とす
子は母を産むことができない──
これは真理ではない、原理さ
真理は人間の数と同じだけ生まれる
産み落とし、それを真実と名づける事実があるだけだ
あとから生まれながら
おまえたちを生んだ、従えとのたまう
おれたちの生は真実に台無しにされてきた
台無しにされっぱなしでいいわけがない
わかるか、わかれよ
真理に目がくらむクソが星の数ほど生まれてきた
大量発生してクソのことばで世界を埋め尽くす
この逆転の構図、逆規定のからくり
それがすべての惨劇をつくってきた
要請-命令-操作-制御-専横-蹂躙-絶対支配
すべては真理の僭称と独占と脅迫からはじまる
おれたちは知る必要がある、知って暴かなければならない
したり顔で、わけ知り顔で、真理を語るクソの動機を
そのうらに隠されたほんとうの目的を
おれたちの心がたどりつきたいのは真理ではない
おれたちの生はそんなふうにはできていない
真理に沸き立つ生は存在しない
からだは別の原理で動いている
ステップの踏み方はからだが決める
ステップもジャンプもそのつど
からだが沸き立つ方角へ向かう
それを知り、決めるのは真理ではない
おれたちのからだだけがそれを決める
ただ一つ、真理の適切な用法がある
星の数ほどある真理を串刺しにする真理
支配と専横に走る真理の本質を知り
そのことを決して許さない、そう心に決めた
からだを守ることに徹した、つつましい反-真理
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からだのメッセージは明示された言葉としては現われない
ざわめき、もやもや、いらだち、ためらい、ふるえ、ゆらぎ
それはつねに真理として確定されることを拒む表情をしている
ノイズとしてすべて切り捨てることもできる
耳をふさいで〝自由を呪う道〟も人間世界には開かれている
いやだね、からだはいつもそう断言する生を生きている