ループする時間が告げる──
知っていたはずのこと、だれよりも知っている、だれよりも深く胸に刻んでいたはずのことが、
ほんとうはまったく知らないことでしかなかったこととして明らかになる。
だれよりもそのことに敏感なつもりが、つもりでしかなかったこととして。
ただの思い上がりにすぎなかったことが告げられる。
いま、そのことを思い知る以外のなにごともなしえないことを。
手を振ることができない時間。失われた時間ではない。
見過ごし、見逃し、見捨てていた時間。あとの祭りの手あてするすべのなさ。
巻き戻せない時間。引き返せない、二度と帰れない、出会うことのない場所。
絶対に帰れない場所へ帰りたいと願う架空の願いだけが心を埋めていく。
なにより貴重で大事だったはずの時間の貴重さ大事さに気づけないでいたこと。
あたりまえのようにそこにいてそのように感じ、ふるまい、生きたこと。
そのように生きる以外になにもなかったことがそうではなく生きられたはずだというふうに。
決定的に足りないものがあったこととして。
あたりまえのように過ぎた時間が取り返しようのない貴重なものに変異する。
そしてそう考えること自体が思い上がりでしかないこととして。
もの苦しさは時制を狂わせる。かつて-いま-これからという構成が崩れていく。
前に進むことを許さないように時間がかぎりなくループする。
ここを一歩超えると気が狂うかもしれないという強度で異常さが満ちてくる。
なぜか。未来によって埋めるしかないものであるとしても未来がそこにはない。
読みかえる方法はない。ただそのことを味わいつくす以外になにごともない。
しかしそうすることができないことに身をよじる以外ないとき、
気を狂わせるという道がすぐそばに開かれている。
時間を必要とする。
意味を変換することではない、その意味をまっすぐに受け入れる位相が生まれるまで。