2001 イッツ・オートマチックⅡ

だれかが仕組んだものでもなく
だれかの犯罪が導いたものでもなく
だれかとだれかの悪意や逸脱や計略が原因でもなく
だれかとだれかの呪いやルサンチマンが持続しているのでもない

みれば溢れる善男善女
街は分別の四則演算と
話せばわかる良識にむせかえり

「本当ですか？」

意を汲みあい
知恵を絞りあい
いまここに
類的進化の先端は生きられているのであり

だれか悪党をさがしだしてシラミ潰しに撲滅しよう！
そんなスローガンはもう誰も信じない

「Unbelievable！」

だれかが決めたシナリオがあるわけではなく
だれかが望んだ状況に収斂していくわけでもない

それぞれの由来と結末に線分され
偉大なエロスのうちがわに
それぞれの航跡を描いていく

状況と状況は肩を寄せ合いながら
情動の股と股をこすり合わせながら
時代の波頭に丸ごと呑み込まれながら
離合集散の転変に身を焦がす

「色即是空 空即是色」

意味をつかまえるまえに
状況は状況を追い越し
吟味するまえに
切迫と焦燥が導かれ
新たなコードがぞくぞくと名乗りを上げていく

感慨を刻むまえに体験はからだをすり抜け
名づけようのない場面転換の加速度に
存在はハトのようにからだを丸くして
呆然と風景に身を晒している

ここが歴史のフロントラインであり
霊長類の歴史の突端であり
進化の奔流に身を置くとはこのことにほかならない

「そんな意見も欲しかったんだよね」

思いつく限りの算段に照らして
伝統が磨いた知恵と経験の集積にかんがみて
おのれを取り巻く大状況小状況のすべて

だれかがどんなふうに取り組んでも
だれかがどんな理想や希望を描いても
すべからく事態はひとつの自然の営みとして推移し

抗えない必然にみちびかれ
物事はなるべくしてなるようになりつづけ
それ以外ありえないような風景の力学に圧倒され

「いやあ、それほどでも」

心は最後に学ぶことができるのは
ただ受け容れることだけにすぎなかったと

ああ、空の奥！海の彼方！
太陽と水平線が融けあう向こう側へ駆け抜けた
夢よ　ロマネスクよ
そこに流れた感情のかずかずよ

「Oh！イエスタデイ・ワンス・モア」

どこをどうさがしても
逆さに振り回しても
世界はあまねく永遠の大地に着地し
白々しくも目の前に広がる風景は
偉大な敵の不在を告げていた

「So what？」

病理は明らかなのに
特定すべき原因がどこにも見あたらない

すさんだ風景の感触は疑えないのに
視覚はそれを映しだすことができない

いまを抽出する言葉も文法も
ちからの創出も戦うべき相手も戦場も
勝利すべき最後のイメージも

ただ空を切る実感だけがあざやかで

この世の判例に照らして　おまえの所属はアレとコレ
この世のならわしに従って　おまえの与件はコレとアレ

じぶんを確定されたくない野郎たちが
いちばん他人を確定したがっている

「ニンゲンいろいろ」

ちいさな幸福や陶酔の小島が点在する
丸い惑星の辺境で
生誕と弔いの儀式が結節をつくり

厳しさや優しさが織り上げる
この世のならわしに手を引かれ
誘惑の律動に揺らぎながら

悲哀と悔恨と怒りと歓びが混ぜあわされた
固有の物語として
時間はあなたの生を埋めていった

「Is that enough？」