谷崎潤一郎の小説「細雪」は、大阪船場で古い暖簾を誇る蒔岡家の四人姉妹、「鶴子」「幸子」「雪子」「妙子」の昭和初期頃の生活を描いた小説です。・・・その細雪の一部と、京都府立植物園早春の草花展を紹介しましょう。今年の会場は、樹木に囲まれた大芝生地にありました。
細雪の中には、京都の花見のことが描かれています。下の< >が小説に出てくる部分です。・・・今年の早春の草花展の開催期間は、2月15日~3月20日まで、内部は春の花で一杯です。
蒔岡家の花見の<常例としては、土曜日の午後から出かけて、南禅寺の瓢亭で早めに夜食をしたため、毎年欠かしたことの無い都踊を見物してから帰りに祇園の夜桜を見、>長いのでここでカット
<その晩は麩屋町の旅館に泊って、あくる日嵯峨から嵐山へ行き、中の島の掛茶屋あたりで持ってきた弁当の折を開き、午後には市中に戻って来て、平安神宮の神苑の花を見る>・・・チューリップも満開でした。
<そして、その時の都合で、悦子(次女幸子の娘)と二人の妹たちだけ先に帰って、貞之助(幸子の夫)と幸子はもう一晩泊ることもあったが、行事はその日でおしまいになる>・・・リビングストンデージー
<彼女たちがいつも平安神宮行きを最後の日に残しておくのは、この神苑の花が洛中における最も美しい、最も見事な花であるからで、円山公園の枝垂桜がすでに年老い、年々に色褪せて行く今日では、まことにここの花を措いて京洛の春を代表するものはないと云ってよい>
<されば、彼女たちは、毎年二日目の午後、嵯峨方面から戻って来て、まさに春の日が暮れかかろうとする、最も名残の惜しまれる黄昏の一時を選んで、半日の行楽にやや草臥れた足を曳きずりながら、この神苑の花の下をさまよう>
<そして、池の汀、橋の袂、路の曲がり角、廻廊の軒先、等にあるほとんど一つ一つの桜樹の前に立ち止まって歎息し、限りなく愛着の情を遣るのであるが、>
<芦屋の家に帰ってからも、またあくる年の春が来るまで、その一年じゅう、いつでも眼をつぶればそれらの木々の花の色、枝の姿を、眼瞼の裡に描き得るのであった>
昭和初期、芦屋で暮らす裕福な家族が京都に花見に出かけて楽しむ姿が丁寧に描かれ、今も良く知られている京都の名所が次々と出てくるので興味が尽きません。
つづく