会津への思慕は幕末史に起因する。
それは多分に、司馬遼太郎の小説やエッセイがベースになっており、史実に人間ドラマが加味されて、思いは募るばかりだ。そんな思いにかられ、歴史的現場を確認したいという動機で会津を訪問すれば、結果は間違いなく落胆する。
鶴ヶ城、武家屋敷、飯盛山・・・現実の会津は幕末史を売り物にする俗っぽい観光地でしかなかった。
会津若松を離れ、というより、幕末史を離れて、喜多方、塔のへつり、大内宿などの周辺観光地に足を運んだ。観光地そのものよりも、その間に垣間見る農村の風景に興味をひかれた。
茅葺をトタンに変えただけの古い住居が数多く散見され、狭い傾斜地で営む農業は職業というよりも自給のための農業に見えた。それは、時代に置き去りにされた農村の風景であり、そこでしか生きられない老人たちによって、かろうじて存続している集落のように思えた。
大内宿もそんな集落のひとつだった。
旧宿場の街並みが残っていたために、近代化から取り残された昔のままの生活が逆に評価されて、重要伝統的建造物群保存地区になった。今では、年間100万人以上の観光客が訪れる県内有数の観光地である。
日の当らないところに、大内宿と同じような営みが数多く残っている。やがて関心は、大内宿から奥会津へと移り、日本の原風景を色濃く残す農村の厳しい暮らしこそが、最も魅力的な会津の観光資源であることに気付くのである。
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