経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

設備投資予測その後

2013年12月01日 | 経済(主なもの)
 設備投資は景気の原動力なので、それを予測することは景気動向を察知するのと同じである。11/10に、1994年から2007年までの間は、半年前の外挿需要の動きで、ほぼ完全に予測できていたという話を書いた。当時は、GDPの1次速報より正確だったことさえあり、筆者も驚いたほどだった。残念ながら、リーマンショック以降、そうした予測力はなくなったが、いろいろと裨益することもあるので、参考までに記しておこう。

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 まず、図を見てもらうと分かるように、最新のGDPデータを用いた重回帰分析の予測値(橙色)は、ほぼ完全に民間企業設備(青色)にフィットしている。ちなみに、エクセルの「補正R2」は0.94である。これが変化したのがリーマンショック後の2008年1-3月期で、輸出の半年後を追っていた説費投資が、輸出減と同時に落ちだした。異変を感じた時に、投資を直ちに中止することは可能だから、ラグが短くなるのは自然なことである。

 そして、設備投資は、輸出と同時に底打ちしたのだが、どのくらいのレベルになるかを判断するのに、予測値は役立った。この後、設備投資は、予測値の後を再び追うかに見えたが、2010年7-9月期に、早くも失速が始まった。これは、いつもの摘芽型財政が始まり、エコポイントなどが打ち切られていったことがある。公共事業も減り始めたことも、図から読み取れよう。

 その上、2011年3月に大震災があり、設備投資は難しくなって停滞した。その復旧過程で10-12月期にジャンプアップを見せたものの、2012年後半には、円高に伴う輸出不振のために、やはり同時に設備投資は落ちている。そして、現時点では、輸出回復と公共事業の伸びで、設備投資が上向いていくという予測が示されている。

 ただし、注意が必要なのは、輸出は、未だリーマン超えを果たしておらず、その意味で、設備は余り気味であって、異次元の金融緩和で円安にしたから、設備投資が急伸すると考えるのは安易に過ぎるということだ。また、予測値は、復興事業で持ち上げられており、この需要は一時的であって、供給力を増強すべきものとは、誰も思っていないことがある。
  


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 さて、改めて図を眺めると、世間のイメージと、数字が物語ることに、随分、差があることも分かってくる。典型は、公共事業の動きだ。1998年から一貫して景気の足を引っ張り続けて来て、リーマンショックの際には、大盤振る舞いしたような印象があるが、1年前の水準に戻した程度になっている。

 さかのぼると、ハシモト・デフレ後の小渕財政も、急減させたものを元に戻したに過ぎないというのが事実だ。しかも、早々に撤退している。1995年の阪神大震災と2011年の大震災との公共事業の動きの違いも興味深い。阪神の際は迅速に反応しているのに、今回は、復興増税を絡めたために遅延した。財政運営の危機への対応能力が劣化しているのである。

 また、1997年の消費増税のショックを、年内は輸出と設備投資の伸びが支えていたことも見て取れる。筆者が来春の消費増税に危機感を抱くのは、今回は、これすら望み難くなってきたからだ。消費増税で所得を抜くショックの影響は、住宅投資が物語る。KitaAlpsさんが指摘するように、住宅は影響が端的に表れる「耐久財」の最たるものだからだ。その落ち込みの大きさと長引きぶりは、心配しない方がおかしかろう。

 今回は、公共事業が伸び切っている状態にあり、消費増税によって景気が急降下した場合、これを補おうとしても、執行不能で空回りするだろう。法人減税は、緊縮財政の下では効かないことが露呈するだろうし、打つ手なしの事態に追い込まれかねない。消費税を5%に戻せないのなら、年金保険料の還付といった非常手段も必要になるだろう。

 少なくとも、危機管理として、消費増税で景気を瓦解させた際の策を用意しておいたほうが良い。「事故があり得ると言って備えることは、信頼性を批判されるから、検討してはいけない」という失敗は、もう繰り返してはなるまい。

(今日の日経)
 中小の再挑戦、私財の一部残す。原発の追加安全策1.7兆円。児童手当上乗せで1450億円。中小の苦境、景気回復下で格差広がる・志田富雄。リーマン・銀行救済が国家沈める。読書・途上国の旅・開発政策のナラティブ、グーグルに負けない著作権法。
コメント (1)
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