経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

少子化要因の複合性

2013年06月11日 | 社会保障
 少子化は複合的な要因によって起こっている。このことが問題の理解を非常に難しくしている。少子化の最も重要なグラフは、合計特殊出生率のそれだが、1983年からダラダラと下がっているようにしか見えない。これでは「社会意識が次第に変化したから」くらいしか理由が思い浮かばないだろう。ここに経済の「補助線」を引く必要がある。

………
 ここで、いきなり専門的な話になって恐縮だが、合計特殊出生率は二つの要素で減少するものである。一つは、本当に生まれる数が少なくなることによって減り、もう一つは、1人の女性が生む数を減らさなくても、単に産む時期を遅らせるだけでも減る。後者の、ある意味、見かけ上の要素を取り除いたら、グラフはどうなるか。

 それが、下の「修正合計特殊出生率」の図である。年金のような社会保障の世代間負担を考える際に必要なので、そのために作成したものだ。算出は、平均出産年齢が当年で1歳上昇するとしたら、合計特殊出生率を2.07引き下げるものと置き、その分の効果を、本来の合計特殊出生率に上乗せして戻す方法で計算した。

 この図で重要なのは、水準より、動きである。人口学だけを勉強していては、動きの意味が分からないと思うが、KitaAlpsさんなら、ピンと来るはずだ。そう、これは景気動向を示している。高原状態からの屈曲点は1988年で、それ以降はバブル景気を示している。女性の社会進出が進み、出生率が低下した局面だ。

 次の屈曲点は1991年で、バブルの崩壊である。ここから、出生率の低下はやや平坦になる。出生率にはU字仮説というものがあって、女性の社会進出が進むと、いったんは出生率が低下するものの、それに応じて制度が整ってゆき、やがて回復に向かうというものだ。おそらく、日本も、この局面で社会保障を充実していれば、そうなっていただろう。 

 そこに大打撃を与えたのは、1997年のハシモトデフレである。修正出生率は1997年から急落し、2001年に大底を迎える。それ以降は、緩慢な景気回復が始まるわけで、修正出生率も上昇傾向を見せている。景気と言うと抽象的だが、不況は若年雇用を直撃し、若い人たちの経済状況を特に低下させるから、出産の減少も当然と言える。

 結局、時期を遅らせる要素を除き、出産減の要素だけに絞ると、出生率が景気で動く様子が見えてくる。特に、ハシモトデフレが深い傷跡を残しているのは、犯罪、自殺、離婚といった社会指標と同様である。また、ハシモトデフレは、財政も破壊し、その後の社会保障を圧迫することにもなったから、二重に罪深かかった。

(図)



………
 少子化の要因を知るには、人口学の知見と、経済動向の知見の両方がいる。出生率の低下は、別の理由から、好況と不況の両方で観測されるものだから、その弁別をする眼力も必要だ。正直に言って、一般の人に少子化の要因を十分に把握してもらうことは、とても難しい。データを読むのに鋭い目を持つKitaAlpsさんはともかく、多くの読者は、ここまで付いて来るのは大変だと思う。

 経済は少子化に大きな影響を与えるが、それ以外にも様々なものがある。すぐに思いつくような要因も、多少の影響はあると言う意味で、間違いとは言えない。そして要因が色々あると、議論は百出して前に進まなくなるし、「これが原因」と割り切る人たちを説得するのも大変である。

 その一つの例が「フランスの高出生率は移民のせい」というものだ。データについては、日大の神尾真知子先生の「フランスの子育て支援」(海外社会保障研究2007)を見ていただきたいが、確かに移民の出生率は高いものの、人口比は小さく、一般のフランス人も日本より遥かに高い。したがって、少子化は移民で解決できるとか、社会保障が無力とかと判断するのは早計ということになる。 

 フランスは、伝統的な人口減への危機感と若年層の高失業率から、スウェーデンは、女子労働力の確保から、しゃにむに社会保障を充実させてきた。日本は、それをしなければならないときに、稚拙な緊縮財政で時機を逸した。経済と財政の衰退で、議論も百出するようになり、意思統合と問題解決は一層困難になっている。 

 「雪白の翼」は、それを乗り越えようと、「負担増ナシにしたから、財源やら効果やら、うるさいことは言わすにやったらどうか」という策である。しかし、いかんせん難解である。合理的ではあっても、理解が難しいと、政策に行き着くには膨大な時間がかかると改めて思う。現金給付や非正規へ対応は、まず待機児童が一掃されてからの話なのかもしれない。

神尾論文 http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18529304.pdf

(今日の日経)
※読む暇がなかったよ。KitaAlpsさんのコメントに触発され、かんばって書いてみた。図表をアップする方法が分からず、往生したよ。

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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-06-11 11:44:34
少子化になる日本特有の理由として、dv防止法等の女性を保護する名目から始まった法律により男性で結婚を避ける人が増えたのも少子化の端ではないかと
返信する
この図はおどろきです (KitaAlps)
2013-06-13 11:31:32
>「修正合計特殊出生率」の図

 出生率が、こんなに経済と連動していたとは!

 経済変動と出生率の関係については、70年代のそれのほかは、大恐慌時の急低下くらいしか知りませんでしたが、目から鱗です。連動してておかしくないとは思っていましたが、データでは見えないなと思っていました。
返信する
Unknown (Unknown)
2013-06-16 07:01:59
「フランスの子育て支援」(海外社会保障研究2007)
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18529304.pdf

表2 親の国籍による子どもの出生数(本国,2005年)
(人)

                           子どもの数
                           総計   うち母親が外国人

婚姻していない親から生まれた子ども

             母親がフランス人   340,849
               母親が外国人 25,945 25,945

婚姻している親から生まれた子ども

  両親ともフランス人 311,842
  父親外国人・母親フランス人 27,354
  父親フランス人・母親外国人 25,912 25,912

両親とも外国人 42,453 42,453

総 計 774,355 94,310

ゆえに、婚外子/総計 は 366,794/744,355=0.49
約半分が婚外子ってまじ?自分の計算を疑う。

婚外子の出生率の推移のデータがあったらおもしろいね。
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不況と出生率 (KitaAlps)
2013-06-21 08:32:19
金融危機で出生率低下

「金融危機の社会的コスト」という論文が・・「himaginaryの日記」で紹介されています。

「危機後6年間において、平均寿命は9ヶ月縮み・・・出生率は5.5%低下する(ただし若者の出生率は4.5%上昇する)。」とのことです。

http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20130620/the_social_costs_of_financial_crises
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