経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

改革の順番を考える

2013年02月09日 | 社会保障
 今日は「北欧モデル・何が政策イノベーションを生み出すのか」の3章から5章を取り上げてみよう。北欧モデルは、とても参考にもなるが、政策をバラバラにマネても機能するものではなく、ワンセットで考えなければならない。それが本の著者の主張でもあるし、筆者も同感だ。それでは、どういう順番で改革は行うべきなのか、政策論は、そこまで考える必要があるだろう。

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 3章は、北欧の特徴として、法人税の低さとR&D比率の高さが指摘されている。これだけ見ると、日本も法人税を下げ、研究開発投資を優遇すべきと思うかもしれないが、ここは、北欧の資本所得への課税の高さにも注目したい。日本と比べれば、法人税率が低い代わりに、資本所得の税率を高くしてバランスを取っているのだ。

 日本は巨額の公的債務を抱えているため、金利上昇時に財政赤字が拡大すると不安視されている。もし、スウェーデン並みに30%もの税率であるなら、日本の金融資産の大きさからして、支払金利以上に税収が増し、財政が好転するだろう。政策をセットで考える重要性は、こんなところにもある。日本のナイーブさとは大きな違いだ。むろん、仕込みは金融緩和でバブルが膨らむ前にしておくべきものだ。

 R&Dについては、日本のGDP比は、北欧とそん色ないレベルにある。問題は、大学などでの公的なものが少なく、それは教育費比率の低さもに表れている。しかも、日本の科学技術予算の分野別トッブを占める「エネルギー」というのは、その実は原子力であって、こうした偏りが本当の課題と言えるだろう。

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 3章で興味深かったのは、北欧が高税率と健全財政を実現できた理由の分析だ。執筆した湯元さんは、日本が失敗しているのは政治に責任があるとお考えのようだが、もう少し深めておきたい。日本が公共事業を支持基盤とする政治になったのは1980年代のことで、これは、公的年金が無理に大規模な積立を行ったために消費不足となり、これを補う必要悪として登場したものだ。このとき取るべき政策は、社会保障、特に現役世代向けの充実で国民に還元することだった。そうしておれば、北欧と似た道を歩んだかもしれない。

 民主党政権に代わって「コンクリートから人」になったものの、彼らがしたかったことは、公共事業などの「利権政治」を叩きたかっただけであり、小さな政府を望み、福祉国家の建設とは違った方向だったと思う。票集めに使った子ども手当の財源は、結局、年少控除廃止などで全部が賄われたし、政権交代の最大の改革は、公約にない消費増税となった。

 需要不足という経済的な課題を、公共事業や企業優遇で解決しようとすれば、多くの国民にとっては、利権政治に見えてしまい、政治への信頼が欠けてしまう。そうかといって、否定するだけでは、一向にデフレから抜け出せない。政治の信頼と社会保障は、鶏と卵の関係にある。

 湯本さんは、スウェーデンの財政管理の仕組みを紹介してくれていて、それらは非常に参考になる。ただし、そうした仕組みも、一定程度の成長があってこそだ。日本も財政構造改革法のような仕組みをつくったが、無理な緊縮財政で成長を失速させ、放棄せざるを得なくなっている。

 スウェーデンと日本の大きな違いは輸出比率の差だ。高比率のスウェーデンは、通貨安による外需で成長を確保できる。ドイツが2007年に消費増税ができたのも輸出に支えられてのことだ。大国の日本は、輸出は助けになるものの、それだけでは不十分で、内需が伴わないといけない。その分だけ財政による需要管理は難しくなる。財政への縛りは、需要管理の柔軟性を失わせることにもなりかねない。

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 こうして眺めてみると、改革の順番は、子育てや教育などの現役世代への社会保障の充実から始めるべきであろう。それによって需要を確保し、成長を徐々に高めていく。そうした公共事業や企業優遇に頼らない経済政策が政治への信頼を厚くし、所得再分配の充実は地方分権の必要性と可能性を強めるだろう。アベノミクスも景気を良くしてくれるなら、それで構わないが、旧来の手法になる。残念ながら、社会保障を軸にして政策を展開する「北欧モデル」を掲げる政治勢力は、日本には存在しないのが現状だ。 

※おっと、3章について書いただけで終わってしまったね。続きは、また改めて。

(今日の日経)
 縮む黒字・円安後押し。レーダー照射の捏造に反論。街角景気改善続く。地方公務員給与で相互不信。エジプト負の連鎖。韓台スマホ一服。EU中期予算は初の減額。

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