去年のことは思い出せても、2年前となると、季節がかぶるせいで、かなりぼやけてくるものだ。消費増税で痛めつけられた記憶が生々しい頃なら、その悪影響は論ずるまでもなかったが、今時分になると、本当にそうだったのかと言い出す人もいる。しかし、時間が経った今にして、分かることもある。この間に、増税は、リーマンショックを超える大打撃を消費に与えたことが数字で明らかになってきている。
………
消費増税は、物価を引き上げることによって、消費を減らす効果を持つので、影響を判断するには、消費の動きを見るべきと考える。GDPでは、最新の2015年10-12月期は528兆円であり、2年前の同期と、ほとんど変わらないから、「影響はなかった」と言えなくもないが、消費は10兆円減り、純輸出が7兆円、設備投資が3兆円増えた結果である。「増税なしに、輸出や設備投資は増えなかった」といった主張をするのでなければ、消費増税を無罪にできないと思われる。
そこで、消費総合指数を改めて見ると、消費増税のショックの重大さが分かる。駆け込みの2014年1-3月期と反動の4-6月期の差は-5.5もあるのに対し、リーマンショック前のピークである2008年1-3月期とショック後の底の2009年1-3月期の差は-3.9に過ぎない。興味深いのは、駆け込みの1期前と反動の1期後の差と、リーマン前のピークの1期前と底の1期後を比較しても、-2.7と-1.5となって、消費増税の落差の方が大きいことである。
実は、消費増税の打撃の深刻さは、落差もさることながら、影響の持続性にある。リーマンの場合、消費の底は2009年2月頃で、以前のピークへの回復は、2010年3月頃だった。1年で戻っているわけである。ところが、消費増税は、2年近く経った今年1月になっても、増税の半年前の2013年10月と比較してさえ、-1.9も低い。回復どころか、2015年に入ってからは、逆に差が広がっている有様だ。
(図)
………
こうした長く続く消費の低迷は、図で分かるように、かつてないものである。通常なら、増税が消費に構造変化をもたらしたと見ても良いくらいだ。1997年の消費増税の例でも、駆け込み前の消費水準への回復は、1年半後くらいで達成したが、今回は、まったくメドが立たない。今後、増税前の力強い伸びに戻ったとしても、2017年10-12月期までかかるだろう。次の消費増税の予定までの回復は絶望的である。
このように、1997年の消費増税やリーマンショックと比較して、大きく回復が遅れている大きな理由は、危機感のなさであろう。1997年の場合は、金融破綻が発生し、1998年4月、11月と続けて大型の経済対策が打たれた。2008年の際も、やはり、2008年10月、翌年4月と矢継ぎ早に策定されている。今回は、消費増税を2014年度にした上に、2015年度も大規模な緊縮財政を敢行しており、これが結果を分けたと言えよう。
つまり、1997年も、2008年も、その後に景気回復の努力をしていたのに、今回は、異次元緩和Ⅱの円安株高で自己陶酔し、まったく無策だった。変化したのは、消費構造ではなく、経済状況への感度だったのだ。確かに、金融緩和は、輸出や設備投資に貢献し、雇用も、増えつつある。ゆえに、GDPは、ゼロ成長状態で済んでいる。
しかし、それは、消費の深刻さを甘く見ることにもつながり、災厄を過去最大級のものに拡大してしまった。国民にとっては、消費イコール生活である。政権が金融緩和で得た成果を声高に叫ぶほど、生活の苦しさが身に沁み、欺瞞を疑うことになる。そして、年初来の円高株安でミニバブルの幻想が弾けた今、政権は慌てて経済対策へと走りだしたのである。
(今日の日経)
もたつく景気に内憂外患、消費息切れ、中国調整なお。
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消費増税は、物価を引き上げることによって、消費を減らす効果を持つので、影響を判断するには、消費の動きを見るべきと考える。GDPでは、最新の2015年10-12月期は528兆円であり、2年前の同期と、ほとんど変わらないから、「影響はなかった」と言えなくもないが、消費は10兆円減り、純輸出が7兆円、設備投資が3兆円増えた結果である。「増税なしに、輸出や設備投資は増えなかった」といった主張をするのでなければ、消費増税を無罪にできないと思われる。
そこで、消費総合指数を改めて見ると、消費増税のショックの重大さが分かる。駆け込みの2014年1-3月期と反動の4-6月期の差は-5.5もあるのに対し、リーマンショック前のピークである2008年1-3月期とショック後の底の2009年1-3月期の差は-3.9に過ぎない。興味深いのは、駆け込みの1期前と反動の1期後の差と、リーマン前のピークの1期前と底の1期後を比較しても、-2.7と-1.5となって、消費増税の落差の方が大きいことである。
実は、消費増税の打撃の深刻さは、落差もさることながら、影響の持続性にある。リーマンの場合、消費の底は2009年2月頃で、以前のピークへの回復は、2010年3月頃だった。1年で戻っているわけである。ところが、消費増税は、2年近く経った今年1月になっても、増税の半年前の2013年10月と比較してさえ、-1.9も低い。回復どころか、2015年に入ってからは、逆に差が広がっている有様だ。
(図)
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こうした長く続く消費の低迷は、図で分かるように、かつてないものである。通常なら、増税が消費に構造変化をもたらしたと見ても良いくらいだ。1997年の消費増税の例でも、駆け込み前の消費水準への回復は、1年半後くらいで達成したが、今回は、まったくメドが立たない。今後、増税前の力強い伸びに戻ったとしても、2017年10-12月期までかかるだろう。次の消費増税の予定までの回復は絶望的である。
このように、1997年の消費増税やリーマンショックと比較して、大きく回復が遅れている大きな理由は、危機感のなさであろう。1997年の場合は、金融破綻が発生し、1998年4月、11月と続けて大型の経済対策が打たれた。2008年の際も、やはり、2008年10月、翌年4月と矢継ぎ早に策定されている。今回は、消費増税を2014年度にした上に、2015年度も大規模な緊縮財政を敢行しており、これが結果を分けたと言えよう。
つまり、1997年も、2008年も、その後に景気回復の努力をしていたのに、今回は、異次元緩和Ⅱの円安株高で自己陶酔し、まったく無策だった。変化したのは、消費構造ではなく、経済状況への感度だったのだ。確かに、金融緩和は、輸出や設備投資に貢献し、雇用も、増えつつある。ゆえに、GDPは、ゼロ成長状態で済んでいる。
しかし、それは、消費の深刻さを甘く見ることにもつながり、災厄を過去最大級のものに拡大してしまった。国民にとっては、消費イコール生活である。政権が金融緩和で得た成果を声高に叫ぶほど、生活の苦しさが身に沁み、欺瞞を疑うことになる。そして、年初来の円高株安でミニバブルの幻想が弾けた今、政権は慌てて経済対策へと走りだしたのである。
(今日の日経)
もたつく景気に内憂外患、消費息切れ、中国調整なお。