経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

負担論の先鋭的な理解とは

2012年01月28日 | 社会保障
 経済学的な社会保障論の第一人者である一橋大の小塩隆士先生の新著「効率と公平を問う」を読ませてもらった。第5章の世代間負担論については、正直に言って物足りない。6年前の著書「人口減少時代の社会保障改革」から大きな進歩がないように思える。日本のために、早く本コラムのレベルまで到達してほしい。これが切なる願いだ。

 むろん、以上のような評価は、最高のものを期待しているからであって、新著の価値を低めるものではない。むしろ、若手の研究者には精読してもらい、ここから研究を積み上げてほしいと考えるほどだ。小塩先生は、世代間の不公平について、賦課方式を積立方式に改めても意味がないことを明確に述べているが、「積立を増やせ」と未だに公言する若手がいたりするからである。

 現在の社会保障の危機の本質は少子化にある。そのことは、筆者と同様、小塩先生も熟知しておられる。そこが若手とは違う。小塩先生に求めたいのは、その理解を更に先鋭なものにしてもらいたいということだ。真に負担の公平を求めるのなら、子供のない人には年金を支給しないことにすれば解決するという、「常識」を超えた場所に来てほしい。

 「世代間の不公平」なるものは、少子化によって、親世代よりも子世代が少なくなることによって生じる。そのために、子世代は給付以上の負担をしなければならなくなる。もし、子供のない人には給付しないことにすれば、給付を受ける親世代の人数と、負担をする子世代の人数は一致し、給付以上の負担という「損」が解消されるのは、理の当然であろう。

 こうした論理による先鋭的正しさに、なかなか達しないのは、「子供を産めなかった女性」には年金を出すべきでないという、現状の社会倫理(ポリティカル・コレクトネス)に反する言辞になるからである。筆者自身も、これで何度も苦い経験をしてきている。しかし、制度設計は、ここを出発点にし、この弱点をどう補うかを考えねばならない。

 小塩先生は、著書の中で、「社会保障は自己破壊的である」としているのだが、理論上、給付をしてはいけない「子供のない人」にも、現実では「寛大」に給付しているわけで、これをしているから、フリーライダーが発生し、制度が自己破壊を起こしてしまう。社会保障自体に問題があるというより、理論を無視する制度設計に問題があるのだ。

 負担の理論に従うなら、子供のない人には給付しない、あるいは、子供のないひとにのみ「二重の負担」(2倍の保険料)を求めるのが正解である。あとは、それが社会倫理に反するというのなら、一定の給付したり、二重負担の軽減のために、誰が、どの程度まで、「税」で負担するのかという議論に進むことになる。

 諸外国の経験では、子供のない人の給付や負担をいじるのではなく、子育て支援をすることでバランスを取っている。日本は、小さな政府を信奉し、それを怠った。「フランスはカネを使っているのに少子化だ」と批判されたものである。ところが、まじめに取り組んだフランスは少子化の克服に成功し、日本は団塊ジュニアの出生率向上のチャンスを捨てた。

 小塩先生は、少子化の克服には、自信を持てないようにお見受けする。少子化の持つ、ゆっくりではあるが、破壊的な力を本当に理解すれば、費用対効果といったことは言っておれなくなる。プラトンは、行動に結びつかない知識は、真に理解しているとは言えないとする。日本に必要なのは、少子化対策に必死に取り組むほどの、負担論の先鋭な理解であると、筆者は考えている。

※具体的に、どう改革すべきかは、本コラムの「小論」の年金改革シリーズをご覧いただきたい。負担の不公平が、世代間ではなく、少子化にあるゆえに、政治的対立の構図も一般に言われるものとは異なることも分かるだろう。(政治学専攻の院生も見てほしい) また、負担論の詳細については、最近の「社会保障」をどうぞ。今日は、久しぶりに体力を使って書いたよ。

(今日の日経)
電力5社の赤字1兆円超。米2.8%成長に加速。黒字が消える・国債の信任維持を総力で。社説・特定看護師は時代の要請。原発稼動ゼロでも制限令回避。協会けんぽ保険料率は全国平均で0.5%上昇。ドルと円の弱さ競争。ホームセンター一人勝ち。

※健康保険料の上げ幅は、年金より大きい。負担増は医療保険全体で7500億円くらいかな。医療の場合、給付も増えるのでデフレ要因になるわけではないが、かなりの大きさだ。これを気にする人間が日本に何人いるやら。

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