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■科学技術ニュース■理研、スパコン「京」を使い世界最高速の固有値計算に成功しソフトを公開

2013-12-12 10:45:57 |    情報工学

 理化学研究所は、大規模コンピュータシミュレーションや、ビッグデータにおけるデータ相関関係の解析などに必要な行列の固有値を高速で計算できるソフトウエア「EigenExa(アイゲンエクサ)」を開発した。

 EigenExaを用い、スーパーコンピュータ「京」で100万×100万の行列での固有値計算を行った結果、これまで1週間程度必要だと考えられていた計算を、わずか1時間で計算することに成功した。

 これは、理研計算科学研究機構大規模並列数値計算技術研究チーム(今村俊幸チームリーダー)を中心とする研究チームによる成果。

 行列の固有値計算は、その計算量が行列の次元(1行当たりの要素の個数)の 3乗に比例して増加するため、これまでのコンピュータでは能力不足であった。ところが、「京」の登場によりコンピュータの能力不足の面は大幅に改善されたが、「京」の能力を生かし切る固有値計算用の数学ソフトウエアは存在しなかった。そのため、大規模な固有値問題は非常に難しい問題のひとつであった。

 同研究チームはこれまでの変換アルゴリズムとは全く異なる新しい計算アルゴリズムを考案し、それを基にEigenExaを開発した。今回、「京」の全663,552プロセッサ(理論ピーク性能10.6ペタFLOPS)とEigenExaを用いて計算し、世界最大規模の100万×100万の密行列(行列を構成する要素がゼロでない行列)の固有値を求める計算が1時間以内で可能なことを確認した。

 この時の「京」での実効速度は1.7ペタFLOPS(理論ピーク性能比16%に相当)という極めて高い数値を記録した。EigenExaは2013年8月1日より、オープンソースソフトウエアとして一般に公開されている。

 現在「京」で固有値計算を実施している主な分野には量子物理や量子化学があります。今回の研究成果を応用することで、今後、多くのシミュレーションの規模を大幅に拡大することが可能となる。例えば、数万原子からなる大規模な分子の量子化学計算では通常省略される全系軌道計算が短時間にできるようになり、反応性などのより詳細な議論が可能となる。他にも、新物質の性質を調べるための大規模な量子スピン系の3次元シミュレーションが可能になる。これらを通じて、半導体デバイス設計や新材料開発、新薬設計に大きく貢献すると期待できる。

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