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実戦柔道第15回

2014年11月13日 | ブログ
絞め技

 素人の方がちょっと柔道をやってみて、一番嫌がるのがこの絞め技で攻撃されること。恐怖が先に立つらしい。

 また、試合で絞め落とされて負けるほど悔しいことはない。私も社会人一年生の時、田舎の大会だったが、寝技で上になって攻めようとしていた時、相手に下から絞められていたようで、気付いた時は絞め落とされて、活を入れられた後だったということがある。蘇生後さらに攻めようと攻撃の姿勢を取り、審判に「もういい」とつれなく言われて敗戦を知ったが、その悔しさは言葉にならない。寝技は得意だったのに、試合慣れしておらず、自身の試合の攻防を外から見る(イメージする)訓練が出来ていなかった。

 絞め技の非常に上手な選手が、大豪相手に一瞬の隙を衝いて絞め落とすことも有り得る。現在では体重別で争われる試合がほとんどで、その醍醐味は少ないが、重量級の選手を軽量の選手が寝技に誘い絞め落とすことは、柔道の醍醐味のひとつだ。投げ技は、体格差のハンディが大きい。特に長身で手足の長い相手は懐が深く投げにくい。しかし、絞め技では体格差のハンディがないのだ。

 しかし、絞め技も小兵選手の専売ではない。往年の山下泰裕選手(現、ハ段、東海大学教授)など、重量級ではあるが見事な絞め技を持っていた。もっとも立ち技も攻守に非常にバランスがとれており、ほとんど非が見当たらない選手だった。山下選手の師匠の佐藤宣践(さとう のぶゆき)九段(昭和49年全日本選手権者)が寝技に定評があり、その指導の賜物ではなかったかと見ていた。師と弟子の関係が非常に良好で、そのことで師も弟子も優れた業績と活躍を残した柔道界の好例ではないかと思う。

 本当に強くなる選手は素直で謙虚である。概して少し上手くなったり強くなったりすると天狗になって、横柄な態度をとる者が少なくない。そうなるともう誰も教えてくれなくなる。柔道は、試合や練習で勝てる相手からも、その得意技に学ばなければならない点が多い。師匠や先輩となれば尚更である。武道が師を敬い、年配者を労わり、先輩を立てることを特に重視するのは、流派継続のために弟子には素直に育って欲しいため義務付けた知恵と思える。

 山下選手などは、小学4年生で柔道を始めたというが、子供の頃から良き指導者を得たと云う本人の弁もある。良き指導者を良いと判断し素直に従った氏の感性が、氏を世界一の柔道家に育てたとも言える。

 山下選手は現役時代、内外のトップクラスの大会ばかり戦いながら203連勝という途方もない記録を残した。当時ソ連の選手など相当手強いのが多かったけれど、外国人には一度も負けていない。まさに柔道界歴代でも最強の達人の一人である。

 柔道家には、鬼と呼ばれる系譜の達人たち、すなわち横山作次郎、徳三宝、牛島辰熊、木村政彦。一方は、嘉納治五郎を祖とし三船久蔵のイメージに代表される玄妙の技を持った名人の系譜。山下泰裕は両者を併せ持っていたのではないか。(この項敬称略)

 ところで絞め技であるが、小田常胤九段(当時六段)が昭和4年に出された「柔道大観」の下巻によれば、裸絞に始まり横三角絞まで21の絞め技がある。もっともこのうち三角絞だけで、甲種、乙種、丙種、丁種、戊種(ぼしゅ)、己種(きしゅ)、反対、後、横まで9種類にのぼる。一応残り12種類の絞め技の名称だけ紹介する。裸締、送襟絞、片羽絞、並十字絞、逆十字絞、片十字絞、首絞、襟絞、突込絞、袖車、肩固絞、反対肩固絞。

 因みに講道館固めの形にある絞め技は、片十字絞、裸締、送襟絞、片羽絞、逆十字絞の5種に過ぎない。

 実戦的な絞め技としては、片十字絞が比較的容易で効果的である。上から攻める相手に対して、片方の手を相手の襟に深く差しこみ、他方の手で相手の頭越しに後ろ襟を掴み、襟に差し込んだ手の逆方向に回して絞めるのである。また片羽絞に持ち込む場合、相手の片方の手にこちらの足を絡めて回転して絞める技を、「地獄絞」などと呼んでよく使った。絞め技に限らないけれど、研究し繰り返し練習し、熟達しないと試合では通じない。しかし、素人相手なら勿論油断は禁物であるが、首を狙うのは存外容易である。一対一の勝負なら実戦的には絞め技は有効である。




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