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経営分析入門第4回

2013年08月10日 | Weblog
続、財務分析のポイント

 文藝春秋今年の8月号に、池上彰さんの「政界リーダー連続インタビュー」という記事があり、前東京都知事の石原慎太郎さんとの対談もあった。その中で石原さんが『この国の会計制度はいまだに大福帳まがいの単式簿記なんですよ。単式簿記だと何がいけないかといえば、その年のことしか考えなくなるから、何にいくら要るかという予算ばかりに目が行くようになる。予算というのは、余れば翌年に持ち越すことも可能なのに、資産と負債の発想がないから、その年度内に使い切らなくてはいけないという、馬鹿げた単年度主義の発想になってしまう。・・・こんなことをやってる先進国はありません。どこの国も発生主義*8)の複式簿記なんです。僕は都知事時代、平成18年から新しい複式簿記の財務会計システムを取り入れた。すると期末における財産の残高や増減の原因までわかるようになりました。予算の繰り越しもできるし、コスト削減につながる。・・・』と述べておられるが、企業ではたとえどんな小さな企業でも税務署へ青色申告届さえしておれば、この複式簿記が適用される。なぜ国や地方の行政機関の財務管理が未だ問題意識を持った所以外単式簿記でいいのか「さっぱり分からない」。

 複式簿記によって、前回の稿に述べた、「自己資本比率がマイナス」になるということの説明がつく。決算書はその年1年間の営業成績を表す損益計算書(PL)と決算日の資産状態を示す貸借対照表(BS)であるが、1年間の決算でPL上赤字の場合、その赤字分はBS上において純資産(自己資本)の減少になるのである。赤字が続き自己資本を食いつくすと自己資本がマイナスとなり、従って自己資本比率はマイナスとなる。「債務超過」すなわち資産のすべてをなげうっても負債をカバーできない状態となる。

 財務分析のポイントの2番目に収益性があるが、前述の通り収益性が悪いと安全性も悪くなるのは当然であり、それぞれ関連する指標である。すなわち財務分析は決算書をいろんな角度から見つめる作業だ。多くの視点から問題点を探り改善につなげる。または当該企業の評価によって融資や投資、取引の開始を判断する指標とするわけだ。

 収益性は、PLでみれば、売上高対総利益率(粗利益率)に始まり売上高対営業利益率、売上高対経常利益率が代表的で、BSの総資産(=総資本)をベースにとれば、総資本対経常利益率や営業利益率、また自己資本利益率などがある。この場合、資本については期中平均をとるのが原則であるが、当年度数値しか分からない場合など簡易的に当年度末額で計算する。

 計算法は兎も角、従来企業業績は売上高対経常利益率で診ることが中心であったが、近年総資本に対する利益率が重視されるようになった。本稿第2回の「企業の健康指標」に述べた通りである。また、投資家の視点からは自己資本利益率(ROE)も注目される。これが高ければ多くの配当が期待できるし、株価も上がる可能性が高くなるからである。

 診断士の勉強以前に関連セミナーで、売上高対総利益率(粗利益率)は50%程度は欲しい。と聞いていたが、その後担当した中小製造業の多くは20%台である。原材料、エネルギーコスト高に加え、製品価格を叩かれ、利益を下げざるを得ない現状がある。粗利が低いと、製品開発に始まり広告・宣伝、ブランド育成などマーケティングにお金が掛けられない。成長戦略が立たない負の連鎖に入る。従って売上高対営業利益率、経常利益率もマイナスの企業が多い。わが国には4百数十万社の企業があるが、その75%は赤字決算といわれている。最近はさすがに税理士会なども黒字決算を推奨しているけれど、企業は自ら経営分析を行うことで収益の改善を図り、黒字決算を目指して欲しいものである。


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