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経済学のすすめ7

2011年06月19日 | Weblog
生産者の理論

 通常、財(物やサービス)を生産しようとすれば費用が必要となる。生産者が供給価格を決める場合、費用を最小にして利潤を最大化するようにしたい。しかし、長期的に見た場合生産者に有利な価格では需要量は少なくなり、小規模企業が無数にあると考える完全競争市場においては、需給の均衡点に収束した価格は平均費用と一致し、超過利潤はなくなる。この理論を持って経営学の領分に踏み込めば、生産者は常に経営革新につとめ、付加価値の高い新商品開発を目指さねばならないということが分かるのである。

 生産に要する費用には大別して固定費用と可変(変動)費用があるが、固定費は土地や機械など固定的に必要な生産要素あり、変動費とは、供給量(生産量)に応じて増減する原材料費や労務費である。

 固定費は生産量に関わらず一定であるため、生産量の増加に伴って生産単価当たりの費用(平均固定費用)は低減する。一方可変費用は、生産量に伴ってその効率が異なり、生産量が少ない場合は効率が悪く、ある程度生産量が増加した所で効率的となる。但し、同じ設備の制約の中では、生産量が限度を超えると急速に非効率(投入した労務費等の割に生産が伸びない)となる。すなわち費用と数量のマトリックスで見るその平均可変費用は、初期に漸減し、最小点を経て再び上昇する。

 平均総費用は平均固定費用と平均可変費用の合計費用であるため、平均可変費用の曲線と同様の形状を成すが、数量が少ない所では固定費のウェイトが大きいため両線の開きが大きい。また平均固定費の数量増に伴う漸減により、平均総費用の最小点の数量は、平均可変費用の最小点数量より多くなる。

 初めに戻って、費用の最小化を図り有利な価格を設定するために、総費用曲線から生産数量毎の限界(生産量を1単位増加させるために要する費用=総費用曲線の接線の傾き)費用と価格の関係をみると、限界費用より価格が高ければ利潤をさらに増加させるため生産量を増加し、価格が限界費用より低ければ生産量を減少させることで利潤の回復を図ることになる。すなわち価格と限界費用が同じになる生産量が生産者の利潤最大となるのである。

 この限界費用線を平均総費用および平均可変費用線と重ねると、限界費用線はそれぞれの最小点を通り、数量増加と共に増大していることがわかる。なぜ、それぞれの最小点を通るかは、費用と数量のマトリックス上に描いた総費用曲線の原点からの接線が平均総費用の最小点であり、固定費を除く可変費用への接線が平均可変費用の最小点となるため、それらの接線の傾きこそがそれぞれの数量における限界費用そのものであるからである。

 総費用曲線に総収入(生産量×価格)直線を重ねると、(総収入-総費用)が最大になるポイントがある。それは総費用線の接線の傾き(限界費用)と総収入直線が平行になるポイントである。このポイントにおける数量が生産者にとっての利潤最大生産量となる。

 限界費用曲線と平均総費用曲線の交点が損益分岐点であり、限界費用曲線と平均可変費用曲線の交点が操業停止点となる。すでに市場に参入している生産者にとっては、固定費はすでにサンク*23)されており、収入が可変費用を上回る限り、幾分でも固定費を回収するために市場から退場しないのである。しかし、新規に市場参入しようとする生産者はこれから固定費投資の必要があるため、損益分岐点以上の収入が見込まなければ参入しないことになる。そして生産者の供給曲線は、操業停止線より数量の多い部分での限界費用曲線となる。

 経済学に言う理屈を書いた。ただ現実にも言えることは、企業の財務管理にとって、損益分岐点分析*24)は重要で、その比率を低く抑えることで、不況時の売り上げ減少に備える必要がある。そのためには、日常のコストダウンによる変動費、固定費の削減に努め、営業努力による売上高の増大と可能であれば販売価格の引き上げも考慮すべきである。







*23)生産に必要な固定費用である機械やテナント料などは、機械のように撤退後売却して回収可能な場合もあるが、ここでは回収不能と考える。回収不能の場合にサンクされていると言い、その費用をサンクコスト(埋没費用)と言う。
*24)損益分岐点分析には、勘定科目の費用項目を固定費と変動費に分けることが必要であるが、その方法には①勘定科目法、②高低点法、③散布図法、④最小二乗法などがある。

本稿は、多和田眞編著「経済学講義」(株)中央経済社(1991年)刊、TACおよび日本マンパワー中小企業診断士講座「経済学・経済政策」、「財務会計」テキスト等を参考にしています。
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