中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

経済学のすすめ6

2011年06月16日 | Weblog
市場均衡と調整過程

 財(物やサービス)の需要量と供給量が一致している状態を市場均衡と呼び、その交点を均衡点ということはすでに述べた。その時の価格が均衡価格であり、均衡数量となる。市場には、一般の物やサービスという商品だけでなく、株式や為替市場も含まれる。

 このような市場で超過供給状態や超過需要の状態、すなわち市場の需給量が一致していない不均衡状態にあるとき、それら市場需給量がどのように調整されるのかを検討する。

 代表的な調整過程としては、ワルラス的調整過程とマーシャル的調整過程がある。他にクモの巣調整過程だけをあげている本もある。中小企業診断士試験用テキスト(経済学・経済政策)からはこれら3種類の調整過程を学んだ。ワルラス*19)とマ-シャル*20)は共にその理論を掲げた経済学者の名である。

 ワルラスは、市場の取引形態として需要者と供給者の間に架空の競売人を置き、競売人の設定する価格に応じて、需要量ないしは供給量が決められ、その市場需給の差に応じて価格調整を行うという試行錯誤を経て均衡に到達すると考えた。

 一方マーシャル的調整過程は、数量を中心としたもので、需要価格(ある数量を購入するときに買手が支払う意志のある最高価格)と供給価格(その数量を売却する時に売手が買手に要求しようとする最低価格)の差に応じて供給量が調整されるというものである。

 但し、いずれの調整過程も一般の需給曲線*21)の場合には成立(安定)するが、一方の調整過程では成立し、他方のそれには適合しない(不安定=均衡状態に向かわない)場合がある。

 供給曲線は一般的な右上がりであるのに、通常右下がりであるべき需要曲線も右上がりである(その逆も考えられる)ような変則的な需給曲線の場合、交点(均衡点)の上部(価格が高い状態)において、需要量が供給量を上回るような場合(均衡点より価格が低い状態では供給量が需要量を上回る)はワルラス的に不安定となるがマーシャル的には安定であり、逆に均衡点より数量が多い場合に、需要価格が供給価格を上回るような場合(均衡点より数量が少ない場合は供給量が需要量を上回る)、マーシャル的には不安定となる。この場合にはワルラス的には安定である。

 このように、2つの調整過程による結論が必ずしも一致しないのは、各調整過程で対象としている市場が異なるからである。ワルラス的調整過程では、価格変化に対して需給量が瞬時に調整される、短期的な調整を前提とした市場を想定し、マーシャル的調整過程では、価格の需給調整速度に比べて、価格に対する供給量の反応は緩慢な市場であり、長期的な調整を前提としている。ワルラスの調整過程は、株式や為替などの市場が対象となり、マーシャルの調整過程は、在庫の持ちにくい住宅市場や農作物(野菜)のように、出荷数量を調整しながら取引の進む市場が対象となる。

 さらに時間をかけて調整がすすむ(価格と数量の調整にタイムラグがある)のがクモ巣調整過程である。前年の価格を基準に翌年の生産量を決めるような場合、前年の高い需要価格に合わせて生産量を決めると翌年には作り過ぎて需要価格は下がり、逆の場合は不足気味で価格を上げるという繰り返しで、長期的に需給が均衡する場合である。

 ただ、この調整過程が成立するのは、一般的な需給曲線の関係において供給の価格弾力性より需要の価格弾力性が大きい場合で、逆の場合や変則的な需給曲線の場合、クモの巣的調整は成立しない。

 経済学で需給の関係を知ることは、企業経営において重要なマーケティング要素である価格戦略などと関わりが深いと思われ、その基礎的な概念を形作ると考えられる。






*19) レオン・ワルラス(1834-1910)は、1870年代に古典派と呼ばれる経済学体系から新しい経済学を登場させた担い手の一人である。かれは経済諸量の相互依存関係を、数式を用い一般均衡関係として示した点で一般均衡論の開拓者であり、その考えはパレート*22)に引き継がれた。「現代経済学はワルラスに始まる」と考える人は多い。
*20)アルフレッド・マーシャル(1842-1924)。すでに紹介しているが、あらためて、19世紀後半から20世紀にかけてのイギリスを代表する経済学者で、ケンブリッジ大学教授。新古典派経済学の祖。彼の考えおよび主著「経済学原理」は長い間、英語で経済学を講じる国での標準的な理論であった。短期では需要が価格決定に大きな意味を持ち、長期では供給の側が意味を持つことを明らかにした。1930年代半ば以後の新しい経済学の建設者であるケインズ(1883-1946)は愛弟子。
*21)縦軸に価格、横軸に数量の需給曲線の傾きが、需要曲線は右下がり(価格が下がれば需要は増加する)で、供給曲線は右上がり(価格が上がれば供給量は増加する)であるもの。
*22)ヴィルフレド・パレート(1848-1923)パリ生まれのイタリア人。経済学者、社会学者、哲学者。ワルラスの影響から経済学の研究に入り、その研究実績が認められ、1893年にワルラスの後任としてローザンヌ大学で経済学講座の教授に任命された。経済学における一般均衡理論(ローザンヌ学派)の発展に貢献し、さらに厚生経済学(経済全体における分配の効率性と、その結果としての所得分配(所得分布)を分析する経済学の基礎的分野)という新たな経済学の分野を開拓した。

本稿は、多和田眞編著「経済学講義」(株)中央経済社 平成3年(1991年)刊、吹春俊隆著「経済学入門」新世社2004年刊および伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊などを参考にしています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする