新田次郎の小説の書き方

小説を読んでいると、
「これはいったいどうやって書いたんだろう」
と、思うことがある。
作者の肩ごしから、書かれている小説をのぞきこみたくなってくる。
そんなことをしたって、どうやって書かれているかはわからないのだけれど。

新潮社からでた「新田次郎全集」に、「私の小説履歴」という月報がついていて、新田さんが小説の書き方を開陳している。
これが面白い。
全集の第15巻(武田信玄の第一巻 1974)、月報5、「小説構成表を創る」というタイトル。

新田さんはもともと気象庁につとめる公務員だった。
測器課長補佐、という役柄だったという。
そこで、新田さんいわく、
「私は役人と云ってももともと技術屋であり、計画を立案し、仕様書を書き、進行表通りにことを進めて行くのが仕事だった。この私の本業のやり方の一部がそのまま小説の方に移行した時期があった」

短編長編にかぎらず、こんな作業順序をこなしていたという。

1、資料の蒐集
2、解読、整理
3、小説構成表
4、執筆

小説構成表というのは、筋書きをグラフ化したもの。
横軸が時間軸であり、ページ数。
縦軸には、人物、場所、現象などを配したという。

この小説構成表をつくったのは最初のころだけ。
つくらなくても書けるようになったからだ。
「いまになって思い出すと、このころのことが懐かしい」

さらにこんなことも。
気象庁の仕事では、多種多様な気象器械に関する仕事をしていた。
新しい器械を発注すると、入札ののち、器械を製作するが、
「契約通りに納入する会社は稀で、多くは納期になって泣きごとを云って来た」

しかしなかにはきちんと納入する会社もある。
そういう会社は、はじめから慎重で、仕様書についてじつに細かいところまで追及してきた。
そんな会社は、目ざましく伸びていったが、納期にだらしない会社は、何年たってもその習慣は直らず、けっきょく町工場に毛の生えた以上にはなれなかった。

そこで、
「私は、引き受けたからには納期は絶対に守るべきだという信念を押し通した」

小説は一種の製造物で、売り物なのだから、メーカーとして納期を守るのは義務。
このため、無理な仕事ははじめから引き受けない。
1ヶ月に最低1週間の余裕をつねに保持するようつとめた。

「私は小説を書き始めて20年以上になるが、たったの一度も原稿を遅らせたことはなかった。これは、約束を履行するために安全率を掛けた仕事をやっていたことを示す以外の何ものでもない」

じつに、製造業的発想による小説の書きかただ。


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