かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録11夏

2011-09-02 13:58:22 | 本と雑誌

3日前まで読書を勧めたい本が見当たらなかった。猛暑と節電で体調不良で全く読書意欲が湧かず、8月に読んだのは藤沢周平の時代小説だけ。この3ヶ月を振り返って余り良い本を選んでない。私の行く古本屋では、良い本を見つけるのが最近何故か難しくなったのも一因だ。

最低1冊は良書を紹介したいと考え「ソロスは警告する」を今朝まで読んだ。内容は経済に関するが彼の哲学的なアプローチが、より実生活に近く感じ実用的でさえあった。自然科学の進歩を社会科学に適用するのは誤り、人は間違える「可謬性」がありそれが対象に影響を与え又戻って来る「再帰性」だと説く。

世の中の事象は思考の不確実性と現実の不確定性の繋がりから成り立つと説き、彼の経験した金融市場の具体例で示す。市場の動きは自然科学の法則の延長上にはないと前々から私も感じており、著者の目眩がするほどの投資実績はこの再帰性理論の実践結果か、それとも彼の柔軟な物の考え方だろうか、とても納得できる内容だった。

個人的好みでだけでもう一冊「デービス王朝」(Jロスチャイルド)の読書を勧めたい。名の知れた投資家ではないが、ウォール街で3代続けて成功を続け王朝と呼ばれるまでになった家族を描いたもの。質素な生活スタイルと巨額の資産を子に相続させないで社会に還元し、子供はその精神を引き継いで更に大きな成功をするという、是非学びたい生き方のお手本を描いた本だった。

2.0引き裂かれる世界 Sハンチントン 2002 ダイヤモンド社 名著「文明の衝突」の余韻と9.11の衝撃で出版社に無理やり書かされた印象を受ける。付録的な著作。米国の遺伝的体質である「強欲」資本主義の認識の欠如が、その後に起こる世界同時不況を予測してない一方で、日本経済の問題を指摘するあたりに著者の限界を感じる。

2.5+ソロスは警告する Gソロス 2008 講談社 人間は元々間違う前提に行動しその影響を受けて不確定な変化が起こると主張し、自然科学の法則性を当てはめた従来経済学の需給均衡の理論では説明できないバブル生成を説明している。サブプライム焦付きでベアスターンズ破綻直後の20083月の微妙な時期に、その後の展開を明快に予測している。

2.0-経済財政諮問会議の戦い 太田弘子 2006 東洋経済新報社 小泉政権の構造改革の発信元になった経済財政諮問会議5年間の全活動を描いたもの。政治任命された著者が議事録を要約し若干の私見を付け加えた感じで新味はないが、構造改革の全貌を伺い現在もまだ未解決の課題が多いことを理解する手助けになる。田中直毅氏の「2005年体制」程楽観的でない。

1.0+FBIはなぜテロリストに敗北したのか 青木冨貴子 2002 新潮社 9.11の実行犯19人の足取りを、リーダー格のモハメド・アタを中心に追跡したもの。FBIに事前に情報が入っていたにもかかわらず見逃した経緯を指摘しているが、内容的には新聞・雑誌報道の領域に留まっている。

1.5+ロシア・ショック 大前研一 2008 講談社 ロシアは世界最大の資源国で急成長を遂げていると同時に、教育程度が高く親日的でもっと経済関係を拡大すべきと説き、一方で官僚は腐敗していると警告し旧ソ連衛星国との軋轢があるというもの。月並みで周知の事実を並べた内容。

2.5デービス王朝 Jロスチャイルド 2003 パンローリング社 3代にわたってウォール街で成功を続けWバフェットに次ぐ投資家といわれるデービス家の生き方と成功と失敗を描いたもので、登場人物がドラマティックではないが生き生きと魅力的に描かれている。質素な生活から投資哲学を生み、成功しても子供に資産を残さず社会に貢献する価値観が好ましく描かれている。

2.0-士業再生 反町勝夫 2009 ダイヤモンド社 弁護士や行政書士・弁理士など国が認定する資格を総合して「士」業と呼び、各資格の権限や関係を説いたもの。経済活動が3次産業から知的財産に変化する中、それを評価・権利化し売買する為に士業が新たな役割を果すというもの。

*隠し剣風月抄 藤沢周平 1983 文藝春秋 酒・偏屈・女癖などで軽く見られている剣の使い手が土壇場で意地を見せる短編集。私が好きなのは最後に酒に助けられる酒剣石割とか、映画化された(武士の一分)もので妻を手篭めにした元上司を討ち果たす盲目の侍の話だ。

*喜多川歌麿女絵草紙 藤沢周平 1982 文春文庫 美人画で知られる喜多川歌麿はこういう浮世絵師だったろうという著者の想像で描いた、当時の時代背景のもとでモデルと画家の関りを描いたもの。

*冤罪 藤沢周平 1982 文春文庫 剣の使い手の中下級武士が色々な状況で精一杯生きる時代小説短編集。主人公と関る武士階級の女性は概して一途で可憐な印象にステレオタイプ化されているが、私のような年配の読者には好きなタイプではないかと思う。

*臍まがり新左 藤沢周平 1981 文藝春秋 これも短編傑作選(1巻)で、主人公の県の使い手より、娘の一途な気持ちが描かれた「紅の記憶」と「夢ぞ見し」などが私の好みだ。

脳みそが沸騰しそうなくらい暑くても藤沢周平の短編小説は楽しく読めた。その理由は良く分らないが、著者の簡明な文章と感情多寡にならないで淡々と描く短編小説のスタイルを私が好きなのかも知れない。■

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