何故自動車メーカーばかり生産停止
新潟中越沖地震のため自動車メーカーは全国の工場で生産停止していたが、今日から生産再開したと報じられている。カンバンに代表されるトヨタ生産方式は、部品及び製品在庫を究極まで切り詰めた世界に冠たる高効率生産方式としてよく知られており、他の自動車メーカーも同じような生産プロセスを導入している。
今回は柏崎市にあるピストンリングのメーカーであるリケンが、地震の影響をもろに受けて生産が停止したためだ。このピストンリングは非常に特殊な生産技術力を要求されるハイテック製品であり、他に代わるものが無い為部品の切れ目が即生産停止になった。
私にとって驚異的だったのは、全自動車メーカーの生産が止まったことだ。これはどの自動車メーカーもこのピストンリングを使用し、その在庫が殆ど無かったことを意味する。まさに驚くべきことである。ある意味日本の自動車メーカーの凄さを証明したといってよい。
同質性が内包する脆弱性
しかしそれは又同時に日本企業の同質性を示すものであり、日本の自動車産業を俯瞰した時「一人こけたら皆こける」式の脆弱性があることを示すものでもあった。一国の産業における危機管理という観点からは決して褒められることではない。
高度情報化時代で効率を求めた結果として同質化し脆弱性を内包するようになるのは避けられない宿命のようなものを感じる。特にその有効性が実証されたものは、少なくとも競争に負けないために誰もが導入する。言い換えるとトヨタ生産方式はそれ程優れた普遍性のあるものといえる。
実は全くジャンルの違う「もの作り」とはかけ離れた金融の世界でも同種のことが今おこっていると私は感じている。それは前々からここで取り上げている米国の住宅ローンに関連した問題である。
住宅ローンのリスク分散の仕組み
それは信用力の低い(言い換えると低所得層の)人達の為に住宅資金を高利で貸し出すサブプライムローンである。昨年来住宅バブルが萎み、住宅価格の値上がりを当てにした返済計画が狂い、焦げ付きだした。しかし、それは返済できず持ち家を失う人達の社会問題のはずだった。
当初サブプライム問題は一部の投資家に限られた問題と思われていたが、エコノミストによればいまや打撃を受けた貸し手企業の数は97にのぼり、地域的には中西部諸州から人口の多いフロリダ州やカリフフォルニア州にまで広がった。
問題を複雑にしたのは金融技術が進歩した米国ならでは仕組みに関連している。サブプライムローンは住宅ローン担保証券(RMBS)に組みなおされ販売された。証券化された住宅ローンは数千あると言われている。更に、RMBSは分割されCDO(債務担保証券)という金融商品に組み込まれ販売された。
CDOとは他の証券と組み合わされ住宅ローンの焦げ付きリスク(デフォールト)が薄められ、うまく行けばサブプライムの高利を期待、行かなければ他のローリスク証券で損失をカバーする商品である。この仕組みが住宅ローンの損失を銀行が直接被らず、金融システム全体に痛みを分配する巧妙なプロセスであり、誰も問題の大きさに気が付かなかったというわけだ。
気がつけば金融システム全体に問題波及
何故気が付かなかったと言えば、CDOは流動性が低く時価が分からない状態だった。住宅専門会社が破綻し、ヘッジファンドの大損が表面化して初めて貸し手は問題に気がついた。しかし、いざCDOを処分するとそこで時価が帳簿にのり巨額の損失を計上、これが他の金融機関のCDOの時価暴落に波及し莫大な損失が表面カする恐れがあり身動き取れない状態になった。
そのため証券会社は売るに売れない状態になった。前にも報告したベア・スターンズ社は自己資金で損失穴埋めし、メリルリンチ社も担保売却を思いとどまらざるを得なかった。しかし、エコノミストによるとムーディーズは91のCDO(50億ドル)の格下げを検討中であり、証券の時価評価は時間の問題になりつつある。
私には、返済が極めてハイリスクの高利住宅ローンを見事にリスク分散させ、低所得層に住宅を持てるようにした金融の仕組みは、トヨタ式生産システムのような精緻さに共通するものがあったように思う。圧倒的な強みはまた弱みに変わる例という点で。
無駄を徹底的に省いたトヨタ式生産システムがロジスティックスの一部が破綻した時全体に影響が波及したように、リスクを徹底的に分散させた米国の金融システムも住宅価格が下がった時生じた綻びに対応できずシステム全体に問題を広げたことに、強者に共通する脆弱性を感じた。
補足) 国内大手銀行もサブプライムを含む証券を買っているらしい。今日の日本経済新聞によれば残高は1兆円に上るらしい。この程度であれば業績への影響は限定的という。リスク分散に一役買っていたわけだ。■