今月6日に投稿した「迫り来る民主化ドミノ停滞後の世界」で主張した仮説「米国の孤立主義への回帰」の続きである。前回、年頭の一般教書演説は具体策の無い空疎なもので米国民は冷めた反応をしている、その背景には中西部・南部の票田で厭戦気分が広がる一方で、戦争を支持した指導者・知識階級に迷いが出てきたと書いた。単にブッシュ大統領の支持率低下と捉えない変化がありそうだと感じたからである。
今回は何故そう感じているかもう少し詳しく議論したい。一つはブッシュ政権外交の理論的バックボーンになっていたネオコンの中に迷いが出てきたことだ。「歴史の終わり」などの著作で著名な政治学者Fフクヤマ氏はネオコンと見られているが、最近の著書の中で少数のネオコン主導で誤った戦争をしたと主張した(注:私自身は読んでない、NYタイムスのエッセイ、Slateマガジンの書評からの引用)。
Aサリバン氏は自分自身を含めネオコンは政府の能力を過信(誤った情報に基づく開戦)、冷戦終結大成功後の過信(イラク戦力逐次投入)、イスラム文化理解の欠如の3つの誤りを犯したと告白、米国保守派の代表的存在であるWバックレイ氏はイラク戦争の目的は明らかに失敗したと認めた(タイム3/13)。戦争を支持したネオコンが公然と戦争が誤りであったと認め始めている。
民意の変化を敏感に感じ主張を修正していく米国政治の動きはもっと露骨である。しかし、その動きは経済とか生活と連動して複雑なネジレとなって現れているように私には見える。その動きを理解するため、裏表の関係にあるグローバリゼーション側から見た姿について議論したい。
最近まで大論争になったUAEのドバイ港湾会社の米国主要6港湾会社買収はブッシュ政権の後押しにもかかわらず、共和党議員の反乱で挫折した。反対の理由は中東の会社に港湾業務を任せると国家の安全に支障が出るというものであった。しかし、これは現実的な脅威に対する理屈の通った反対ではなかったように見える。
UAEはイラクに軍隊を出し米国に最も忠実で信頼できる国の一つである。何故共和党議員は感情的とも思える反応をしたのか、勿論この秋に予定されている中間選挙を考え選挙民の反応をにらんだ結果である。であるとすれば、問題はブッシュ大統領が反対の真の理由を理解していない様に見えることのほうにあるかも知れない。
ここで私の仮説を繰り返す:テロから国を守る為のイラク戦争の大儀が米国民の心から離れ始めたのと同時進行で、米国民の心に化学変化が起こっている。連動してグローバリゼーションのコンセプトである自由市場の「神の手」は生活を守れず、安全をもたらしてくれないと考え始めたのである。イラク戦争兵士の供給源である中西部・南部の大票田、所謂レッド・ステーツで化学変化が起こっているから共和党にとって大問題なのである。
当然民主党にも微妙な変化が起こっている。報道によるとクリントン時代からグローバリゼーションを推進して来たが支持基盤の苦難を見て左シフトが起こり党内の対立が深刻になっている。次期大統領の最有力候補のヒラリー上院議員は元大統領の推進した自由貿易から立場を変えドバイ港湾会社の買収に反対した。行過ぎたグローバリゼーションは悪であるとの意思表示である。
仮説の延長として、米国政界全体にポピュリズムに流れる傾向が強くなったといわれるのは、11月の中間選挙対策としてだけではなく、背景として米国精神の変化のうねりの中にあるという事ではないかと推測する。きっかけはイラク戦争の行き詰まりであるが、振り子の向かう方向は孤立主義であり反グローバリゼーション、それは言い換えれば保護貿易である。
一方で困難な状況を抜け出すためには、イデオロギー色の薄いキッシンジャー流の現実主義的アプローチが議論され始めた。パワーポリティックが再来するかもしれない。孤立主義よりはマシかもしれないが、もしそうなると我国にはあまり得意とは言えない時代を意味する。この前は冷戦時代で日本はノンポリに徹することが出来たのだが。
今年初め一般教書ではブッシュ大統領は孤立主義・保護貿易の危険さを訴えたのは、今になって思うと世論の変化を正しく捉えていたのかもしれない。しかし、彼の主張は全くぶれてない、イラクがこうなった以上、ここでぶれると全ては空中分解してしまう。その意味では正しいのだが、彼の得意の演説も説得力を失い空疎に聞こえてくるのは私だけだろうか。■