語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【南雲つぐみ】色彩の工夫 ~マンションを住みやすく~

2018年02月19日 | 医療・保健・福祉・介護
 「家の修復のためにマンションに仮住まいをしているが、どうも居心地が悪くて」というAさん(70)。どうやら、鉄筋コンクリート造りのマンションの部屋と白い壁になじめないようだ。
 高齢者住宅の色彩設計に詳しい色彩コンサルタントの飯田暢子さんによれば、家の中で過ごす時間が長い高齢者にとって、マンションにありがちな単調で人工的な色合いは、気持が休まらないという。同じ白色でも、障子紙の白とマンションの壁紙の白では、人の心の受け止め方は全く違うそうだ。砂壁や障子紙の乳白色や、柱の木目には自然の温かみがあり、その中でゆとりや安らぎを感じられる。しかし、ペンキの白色は反射率が高く、視神経を刺激して安らげないそうだ。
 賃貸マンションでは、内装を勝手に作り替えるわけにもいかない。飯田さんは「カーテンやタペストリー
布の壁掛け)を使ってピンク、黄色、淡いオレンジなど温かみのある色を取り入れて、家具を木目調のものにしたりグリーンの鉢物を置いたりすること」などをすすめている。

□南雲つぐみ(医学ライター)「色彩の工夫 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年5月27日)を引用
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【本】塩野七生、最後の歴史大長編 ~『ギリシア人の物語3』~

2018年02月19日 | 批評・思想
★塩野七生『ギリシア人の物語3 新しき力』(新潮社 3,200円)

 (1)今、塩野七生氏と小泉進次郎衆議院議員の対談(「月刊文藝春秋2月号」に掲載)が評判になっている。
 塩野氏/「長編歴史エッセイはこの本が最後」
 小泉氏/「年末年始はこの本にどっぷり浸かりました」

 (2)本書で描かれるのは、アレクサンドロス大王(紀元前356~同323年)だ。20歳でマケドニアの王となり、東方に遠征してペルシャ帝国を打ち破った。エジプトからインダス川までの巨大版図を打ち立てたが、33歳を目前にして病に倒れた。死後に分解した王国では、ギリシャとオリエントが融合したヘレニズム文化の花が咲いた。
 幾多の逸話の中でも、「ゴルディオンの結び目」は、その真骨頂だ。ペルシャの街、ゴルディオンには、「この結び目をほどいた者はアジアの王になる」と伝えられるぐるぐる巻きのひもがあった。アレクサンドロスは、長剣を抜き、結び目を一刀両断。
 ここから「複雑な問題の解決には、断固とした意志と果断な対処が必要」という教訓を導き出すのが塩野七生流だ。そんな資質を持つリーダーは、めったに居ない。ただし、現世で見当たらなくとも、歴史を繙けば
事例が豊富だ。

 (3)塩野作品は、歴史書ではない。脚注はなく、著者の独断も目立つ。「民衆が描かれていない」という批判もある。学者が見たら、あらが目立つだろう。塩野氏は、まるで惚れた男ののろけ話のようにカエサルやアレクサンドロスの生涯を語る。長年の読者には、それが魅力だ。
 かつて、司馬遼太郎が戦国時代や幕末を身近なものにしてくれたように、塩野作品は地中海世界の魅力的な男たちを紹介してくれた。アレクサンドロス大王の短い生涯も、本書によって多くの日本人が知るところとなるだろう。

 (4)ところで、冒頭で紹介した「塩野・小泉対談」は、年長者が見どころのある若者に助言し、若き政治家はそれを拝聴するという今どき稀有な対話となっている。
 歴史とは、ただ史実を正確に知ればいいというものではない。誰かと共に語り合うことで、歴史はその価値を増す。世代を超えた歴史談議や人物月旦(げったん)は、人生を豊かなものにしてくれる。塩野作品は、その格好の入り口となるはずだ。

□吉崎達彦(双日総合研究所チーフエコノミスト)「充電後の執筆再開を熱望する/塩野七生、最後の歴史大長編  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2018年2月24日号)
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 【参考】
【本】日本銀行はどのようにして政治的に追い込まれたのか ~『日銀と政治 暗闘の20年史』~
【本】最悪の選択は現状維持と分析 ~黒田日銀の5年間を問う好著~
【本】麻薬撲滅のための経済学思考 ~アピールと説得の理論と方法~
【本】モンゴルのユーラシア制覇 ~『モンゴルvs.西欧vs.イスラム 13世紀の世界大戦』~
【本】歴史はどう繰り返すのか ~『歴史からの発想』~
【本】社会変革のヒントを得る ~『フィンランド 豊かさのメソッド』~
【本】時流に流されないために ~『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』~
【本】戦争の矛盾がよく理解できる/存在自体が珍しい軍事技術書 ~『兵士を救え! (珍)軍事研究』~
【本】北朝鮮核危機を描く労作 ~『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』~
【本】スウェーデンの高福祉で高競争力、両立の秘密 ~『政治経済の生態学』~
【本】ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか ~『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを
【本】1920年代の経済報道に学ぶ ~『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』~
【本】朝日新聞・書評委員が選ぶ「今年の3点」(抄)
【本】著者の知的誠実さに打たれる日韓問題を深く理解できる書 ~『「地政心理」で語る半島と列島』~
【本】人の判断はなぜ歪むのか/2人の研究者の友情物語 ~『かくて行動経済学は生まれり』~ 
【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』

【佐藤優】プロテスタンティズムと資本主義は関係ない ~『なぜ私たちは生きているのか』~

2018年02月19日 | ●佐藤優
 <加えて、ヴェーバーには、話者の誠実性の問題があります。つまり、本当に心底から自分が書いていることに納得しているかどうかわからない。おまけにキリスト教の知識もあやしいものです。資本主義が生まれたイギリスの宗教事情ですが、イングランド国教会はヘンリー8世の離婚問題を契機にカトリックから分離しただけで、プロテスタント的な考えはあまり強くないのです。ヴェーバーは、資本主義にカルヴァン派の発想を後知恵でつけているだけなので、神学的な考証に堪えうる言説ではありません。
 日本人はキリスト教の知識があまりないので、神学的な思想を乱暴に単純化したヴェーバーの本を読んで、勤勉・禁欲につとめればいいと思ってしまうのですが、キリスト教的な文化圏においては、救済が目的です。その救済のために、すべてが手段になってきます。>

□高橋巖×佐藤優『なぜ私たちは生きているのか シュタイナー人智学とキリスト教神学の対話』(平凡社新書、2017)の「Ⅱ資本--お金と働くこと」の「プロテスタンティズムと資本主義は関係ない」から一部引用
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 【参考】
【佐藤優】個別主義・全体主義・普遍主義 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】ルター派教会とナチズム ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】キリスト教は「絶対他力」の宗教 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】『なぜ私たちは生きているのか シュタイナー人智学とキリスト教神学の対話』目次