片側の大脳の広範な病変による難治性てんかんは
治療が困難で外科的治療が選択されることが多い。
そんな症例に有効とされる治療に
脳の半分を切除する半側大脳切除術がある。
成人にこれを行えば、
間違いなく脳の機能は著しく障害されてしまう。
しかし、3才までのてんかん患児に行うと
発作が抑えられるだけでなく、脳の機能は向上し
後遺障害は最小限にとどめることができるという。
小児の脳の可塑性、おそるべし、である。
Taking out half a kid's brain can be best option to stop seizures, research confirms 子供の脳の半分の切除がてんかん発作を止める最善の選択肢となりうる~研究で実証
Aiden Gallagher 君(右、10才)は身体を消耗させる発作があり、幼児の時に脳の半分を切除する手術を受けた。現在彼は弟の Evann 君と一緒に走ったり遊んだりできる。
JoNel Aleccia,
Pete Gallagher とMichelle Gallagher の夫妻が、医師から3才の息子の脳の半分を切除したい旨が告げられたとき、オハイオ州 Attica に住むこの両親は恐怖に襲われた。しかしこの究極の手術が、一部の子供たちにとって正常の生活を送る最善のチャンスを提供するものであることが新しい研究で示された。
「私たちはうろたえました」 Pete Gallagher 氏は7年前の自分たちの反応を思い出して言う。
この夫婦は、毎日十数回以上起こるために Aiden 君から正常な生活を送る能力だけでなく学習する能力までも奪っていた重症のてんかん発作を止める唯一の有効な選択肢が、大脳半球切除術を呼ばれるこの衝撃的な手術であることもわかっていた。
「彼は自分のアルファベットを忘れていました。数の数え方も忘れていました。すべて機能が障害されていたのです」と父親は言う。
現在 Aiden 君は赤毛の健康な5年生で、通常の学校に通い、野球とバスケットボールをするのが好きだ。行われることがまれなこの手術を受けて以来彼には発作はなく、この少年は、この手術が深刻なてんかんを持つ子供たちに現実的な成功をもたらすことを明らかにした新しい研究のシンボル的存在となっている。
オハイオ州 Attica に住む Aiden Gallagher 君は、ほぼ持続的なてんかん発作を止める目的で、3才のときに脳の半分を切除する手術を受けた。
「脳には、失った機能を克服しようと努める驚異的な能力があります」と Cleveland Clinic の小児てんかん科部長の Ajay Gupta 医師は言う。
大脳半球切除術を受けた子供たちの日常の能力を調べた初めての大規模研究で、Gupta 氏らは1997年から2009年までに彼らのセンターで行われた186件の手術を検討し、115人の患者を詳細に調べた
彼らは、発作傾向を示す脳の患側半球を切除することで患者が、学習し、成長し、一部のケースでは通常の生活を営むことができるという医師たちの知見を確認していたが、支持する実際的なデータをほとんど持っていなかった。
「それは親たちが抱いていた疑問に答えるものです。つまり、子供は話すことができるのか、見ることができるのか、読むことができるのか?という問いです」Gupta 氏は NBC News にそう語る。
大脳半球切除の適応となるのはてんかんを持つ300万人の米国民のうちほんの一部だけであるが、この手術には、脳の半分全体の切除のほか、一部の切除や半球間の連絡を離断する手技が含まれる。この手術がどのくらいの数行われているのかについては知られていないが Gupta 氏は患者の多いセンターで年間15、16件の手術が行われていると推定する。通常、脳を荒廃させる電気的な嵐をもはや抗けいれん薬で鎮められない場合にそういった手術が行われる。
Aiden 君は生後10ヶ月のときに最初の発作があった。医師は薬剤で発作を抑えたが、3才のとき、薬の効果が見られなくなり、ほとんど一日中発作を起こすようになった。ほどなく手術が唯一の選択肢となってしまった。
「彼の右側の脳のほとんどすべてが切除されました」と Pete Gallagher 氏は言う。
Epilepsia 誌に8月23日に発表された最新の研究では、Aiden君の他、2 才から28才までの Cleveland Clinic の患者の記録が検討された。そのほとんどが3才までにてんかんを発症した子供たちである。研究によると、患者の4分の3は毎日発作があり、残りの18%は毎週発作を起こしていたという。
手術後、患者の半数以上(56%)で発作が消失した。36%では発作が残ったが、約15%の人で頻度が90%以上減少した。
研究者によると、患者の83%は歩行が自立しており、70%で満足できる言語能力が保たれていたという。子供たちの60%近くは介助を要するものの普通の学校に通うことができ、6才以上の子供たちの42%は十分な読解力を有していた。手術を受けた成人 24人のうち5人は定職に就いていた。
これらの結果は功罪相半ばする結果のように思われるかも知れないが、ロサンゼルスにある University of California の David Geffen School of Medicine の神経外科教授 Gary Mathern 医師には違っていた。
「もしその治療を行っていなければそれらの子供たちの大部分は相当重度の障害者となっていただろうことを考えると、今回の結果は実際にはきわめて良好です」と Mathern 氏は言う。全国的に有名な彼の大脳半球切除プログラムは Cleveland Clinic のそれに匹敵するものである。彼は本論文の審査員であり、現在同誌の共同編集者となっている。
手術しなければ、重度のてんかん発作を持つ子供の IQ は50程度である。手術によりこの数字は70に上がる可能性があると Mathern 氏は言う。
この新しい研究の知見はことさら驚くべきものではないが、それらは重要な目的に適うものである。特に、手術の危険性と有益性を評価しようとする親たちには貴重である。
「それは彼らに一定の期待を与えてくれます」と Mathern 氏は言う。
とはいえ、発作を止める可能性のあるこの手術を、さらにはそれ自身が身体を衰弱させる効果を持つ抗てんかん薬への依存を拒む親も少数いる。
父親によると、Aiden 君の場合、手術から目を覚ました瞬間に改善が認められ、それまで使えなかった左手を父親の方に伸ばしたという。一週間後、彼は近くの運動場を走っていた。
「あの時点で回復がすぐそばにあるとは思っていませんでした」と Pete Gallagher 氏は言う。
Aiden 君の手術の成功と、家族の生活に平静が戻ったことで、この両親はもう一人子供を作る気になった。現在5才になる Evann 君である。
「Aiden は私たちのヒーローのような存在です。なぜなら彼は様々な困難をくぐり抜けてきたからです」と Gallagher 氏は言う。「彼には全く限界はないと思っています。彼にはできないことかもと思った矢先、彼はそれをやってのけるです」
重度のてんかん発作を繰り返す子供が
いかなる薬物治療でも効果が見られず、
次第に荒廃してゆく姿を目の当たりにするとき、
親たちは藁をもすがる気持ちになるだろう。
効果がすべての患児で得られるわけではないが、
間違いなく他に治療法がないというのであれば
チャレンジする価値のある治療といえるだろう。
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