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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

酒で片づけないで!

2011-06-16 22:25:18 | 健康・病気

お待ちかね、
6月のメディカル・ミステリーのコーナーです~。

6月14日付 Washington Post 電子版

Medical Mystery: Alcoholism didn’t cause man’s diabetes and cirrhosis
メディカル・ミステリー:男性の糖尿病と肝硬変はアルコール依存症が原因ではなかった
By Sandra G. Boodman,

Alcoholism

 それまで他の医師たちが主張していたJanet Janas さんの双子の兄の突然の重大な病気の原因をそのレジデントが繰り返して言ったとき、彼女はついに感情を抑えきれなくなった。
 「その診断を考え直していただきたいと思います。なぜならそれが証明されていないからです」、そう言ったのを普段は冷静なこの臨床看護師は覚えている。彼女によれば、そのレジデントはじろっと横目でにらみ明白なことを否定しようと決意しているかのように自分のフラストレーションを発したという。
 2008年1月、オレゴン州 Portland の病院の集中治療室に集まった Janas さんとその家族に対して、せん妄状態で攻撃的になっている彼女の兄の Jeff Williams が進行したアルコール依存症によるものであると医師たちは告げていた。彼は肝硬変、消化管出血、さらには新たに診断された糖尿病からケトアシドーシス(インスリン不足で昏睡や死に至りうる医学的緊急事態)に陥っていると医師たちから告知されたのである。
 元来健康であったこの46才の電子工学技術者 Williams 氏が付き合い程度にしか飲酒しない人間であったのは間違いないと家族から異議が唱えられたが、スタッフは意見を異にした。「そういう人たちは実にうまく隠すのです」看護師の一人が彼女にそう言ったと Janas さんは言う。
 2週間の入院中もその退院後も同じような不信に直面していたと Williams 氏は言う。「『私は一日にビール一缶ほど飲みますが、その程度では肝硬変を起こさないでしょう。ですからそれが原因ではありません』と私は言いました」繰り返し医師に話したことを彼は思い出す。「彼らは私を無視する感じでこう言ったのです。『ですが、それが現実です』」
 結局のところ、彼の家族全員、特に彼の双子の妹に影響を及ぼすことになる診断にたどつけたのは、真の原因を見つけ出そうとする Williams 氏の強い決意だった。

Worsening eyesight 悪化する視力

 2007年11月、Nothern Virginia の Janas さんの自宅に一週間滞在していた。本来なら活動的な兄が、いつもより“柔和”に見え、毎日午後には昼寝までしたのだが、それは彼が休暇で気が緩んでいるためだろうと彼女は考えていた。Portland に戻って数週間後、彼は突然目がかすむようになった。Janas さんは主治医に電話をするよう彼に言った。彼の保健維持機構(HMO:米国民間保険の一つ)は彼を検眼医に紹介し、初めてかける眼鏡を処方した。
 しかし数日のうちに彼の視力は悪化した。Janas さんは兄に主治医に電話をするよう促したが、結局彼は同じ検眼医のもとに送り返された。なぜ視力がそんなに急に悪化したのか彼は質問した。「そういうこともあり得ます」と彼女は答え、彼が希望した眼科医への紹介を拒否しさらに度の強い処方を施した。
 数週間後、Williams 氏は重症のインフルエンザに罹ったのではないかと思った:彼は疲労困憊となりあちこちが痛んだのである。12月28日にはベッドから起きられなくなり、ひどい脱水状態となって“ゲータレード”を大量に飲み、HMOの緊急医療センター(urgent care center)を受診した。彼の血糖値は371mg/dl と驚くほど高かった。これは糖尿病の診断を考える閾値の2倍に近い。医師は糖尿病の薬を処方し彼を帰宅させた。
 Williams 氏によると、家に帰ったことを覚えていなかったが、近所に住んでいる20才になる娘に何とか電話をかけたという。「私はこう言いました。『調子が悪い。もしよくならなければ私を病院に連れていってくれ』と」彼は言う。翌日、彼女は見当識障害を起こしほとんど意識がない状態にある彼を発見し、急いで病院に連れて行った。彼の血糖値は500以上で腹部は復水で腫れており、脾臓は腫大していた。そして彼はコーヒー残渣のようなものを嘔吐していたが、これは消化管出血があることを示していた。
 「もし12時間来院が遅れていたら私は死んでいただろうと彼らは言いました」と Williams 氏は言う。彼は集中治療室に収容されたのである。
 太ってもなくこれまで健康で筋骨逞しいこの男性に認められたこれらの症状の原因を探るために、医師は感染症、C型肝炎、およびその他の疾患を除外し、最も可能性が高いとみられる疾患にたどり着いたのである。アルコール依存症である。彼の錯乱や昏迷は禁断症状と見なされ、ケトアシドーシスは1型糖尿病の合併症だったが、これは46才においてはまれな診断である。というのもそのほとんどが小児や若年成人において発症するからである。
 病院のカルテには、Williams 氏はアルコール依存を強く否定したが、『若いころかなりのアルコールの乱用があったことを率直に認めている』と書かれていた。彼の兄弟や娘は、彼がどれくらい飲んでいたかを知らないと言ったが、病院のスタッフに対して、ルームメイトと共同で使っていた家の地下室には kegerator と呼ばれるビールのディスペンサーがあったと話していた。Williams 氏の父親は、息子がアルコール依存者であることを頑として否定した。Janas さんも同じようにそのことに懐疑的だった。
 「私たちはきわめて親密な家族なのです」と彼女は言い、双子の兄が何年間もそのような秘密を持っていたという考えは不可解だった。彼女の家で過ごした1週間も、彼はたまにビールを飲むだけだったのだ。
 Janas さんによると、自分の疑念について看護師の一人に話したところ、その反応は冷たく見下す態度であり、Williams 氏もまたそんな態度に直面していたと言う。「入院するまでの2週間一滴も飲んでいませんでした。というのもあまり体調が良くなかったからです」と彼は言う。「そんな状況でどうして禁断症状になるというのでしょう?まったく理にかなわないことでした」

‘That’s what I have!’  『それだったのか!私の病気は』

 その後数ヶ月の間に Williams 氏は少しずつ回復し、高度の肝障害を抱えながらインスリン依存性糖尿病患者としての生活に適応していった。しかし自分の病気の原因を見つけ出す決意をし、彼は長年の友人である引退した病理医 Delbert Scott 氏に電話をかけた。5月、オレゴン東部にある Scott 氏の大牧場で彼は数日を過ごした。
 「私たちは彼の病歴と糖尿病について検討しました。そしてひょんなことから Merck Manual(メルクマニュアル)を取り出し、考えられる肝不全の原因を調べたところ、それがあったのです」と Scott 氏は思い起こす。肝硬変と糖尿病の原因一つに hereditary hemochromatosis(遺伝性ヘモクロマトーシス)があり、これは過剰な鉄の吸収と蓄積を起こし、その結果臓器障害をきたす遺伝性の病気である。
 「それを読んで私はこう言いました。『ああ、私の病気はそれだったのか!』」Williams 氏はその時のことを思い出す。しかし Scott 氏に確信はなかった。確定的な症状である銅色の皮膚が彼の友人には見られなかったからだ。「私がそれまで見た患者はかなりブロンズ色を呈していました」と Scott 氏は言う。
 米国で最も多く見られる遺伝性疾患の一つ、遺伝性ヘモクロマトーシスは約100万人と推定される米国人が罹患しており、そのほとんどは Williams 氏のような北ヨーロッパの子孫であるカフカス人である。National Institutes of Health によると、1996年に発見された鉄調節遺伝子である HFE 遺伝子の欠損の2つのコピーを受け継ぐ人たち(米国人1,000人に約5人の頻度で見られる)で最もリスクが高いが、彼らのすべてがヘモクロマトーシスを発症するわけではない。欠損した遺伝子を片親からのみ受け継いだ人たち(これは人口の約10%)はキャリアとなる。彼らは知らないうちにその遺伝子を子供たちに受け渡すが、欠損遺伝子2コピーを受け継いだ人たちに比べると発症する頻度は低い。
 進行するとヘモクロマトーシスは肝硬変や糖尿病、さらには心不全を引き起こす。本疾患は血清中のフェリチンの測定をはじめとする血液検査で発見されるが、フェリチン値が上昇していた場合、遺伝子検査を行うことになる。
 多くの遺伝的疾患と違って、有効な治療法があり、それは単純である。鉄量を減らすため、通常の1パイント(473cc)前後の瀉血と、鉄量を抑えた状態を保つための維持的放血である。
 Williams 氏はすぐに HMO に電話をかけ関連する検査を求めた。彼のフェリチン値は 2,350 ng/ml であり、男性の正常上限と一般に考えられている 300 ng/ml をはるかに越えていた。まもなく彼が問題の遺伝子の2コピーを受け継いでおり、彼の推測が正しかったことがわかった。アルコール依存症ではなくヘモクロマトーシスこそが、彼が入院することになった一連の病気を説明してくれたのである。つまり、突然の視力障害で始まった肝硬変や糖尿病、実際にはケトアシドーシスだったインフルエンザ様の症状までもそれによるものだったのだ。
 「私はとにかく相当腹立たしく思っていました」と、Williams 氏は言う。早速、毎週の瀉血治療を開始した。双子の一方と同じように Janas さんも同じ遺伝子の2コピーを受け継いでいて、この疾患の早いステージにあることをすぐに知ることとなった。彼女はただちに毎週の瀉血を開始し、8ヶ月後には彼女のフェリチン値は安全域に低下していた。彼らの長兄はキャリアであることがわかり、Janas さんの10代の息子もそうだった。二人とも現在経過観察中である。
 「彼女は回復しています」Janas さんに診断が下されて以来治療を行ってきた Northern Virginia の血液内科医 Lee Resta 氏は言う。2009年5月、Williams 氏は自身の病院カルテを手に入れた。彼の退院サマリーの中に彼を動揺させる内容が隠されていた。医師は実際に彼の血清フェリチン濃度を測定しており、2,098 ng/ml と“著しく上昇”していることを知っていたのである。彼らはこの値が肝硬変の結果であり、原因ではないと考えたため遺伝子検査を行わなかったのだ。
 Resta 氏によるとこの不可解な異常所見を追求しない決定がなされているのを彼は見つけているという。「肝臓疾患と2,000 ng/ml 以上のフェリチンレベルでありながら、なぜそれをチェックしなかったのか?」と、彼は指摘する。
 満足のいく説明を決して受けていないと Williams 氏は言う。この誤診が害をもたらしたことを証明しようがないことから、医療過誤訴訟を起こさないことに決めたと彼は言う。恐らく彼の肝障害が入院よりずっと以前に発生していたということもある。
 彼は自身の怒りを、この疾患の認識を高めることやスクリーニング検査の推奨に向けようとしてきた。彼が一緒に働いている人たちの中に彼の経験の結果から問題の遺伝子を持っていることがわかったものがいると彼は言う。Williams 氏によれば彼はきちんと自分の身体に気を配る方であり、忠実にインスリンを注射し、糖尿病をコントロールするために毎日4回血糖値を測っているという。不可逆的な肝硬変の経過として肝臓癌の懸念が彼の頭から離れないでいる。毎週瀉血を行い彼の鉄を安全域に下げるのにほぼ18ヶ月を要した。
 「私が元気でいられる理由はただ一つ、彼が身体を壊したからです」と、Janas さんは言う。彼女は後ろめたさを感じるとともに感謝もしていると言う。「彼がいなければ知らないまましばらくは幸せな気分でいたでしょう。しかし、彼が耐え抜いた苦痛、私の家族が味わった苦難を思うと…」と彼女は続けたが、その声は次第に小さくなっていった。
 「彼女は物事が正しく行われたときに見られる事例であり、私は正しく行われなかった事例です」と Williams 氏は言う。医師たちが現実を無視して彼がアルコール依存症であると決めつけたことに今でも怒りを覚えており、真実につながる発見がなされなかったならどうなっていただろうかと考えている。「これをそのままにさせなかったのは技術者としての私だったのです」

常染色体劣性遺伝の遺伝性ヘモクロマトーシスは
本邦ではきわめてまれであり、
欧米の3分の1以下の頻度と言われている。
ちなみに本邦で多くみられるのは
頻回の赤血球輸血に伴って起こる
続発性ヘモクロマトーシスである。
遺伝性ヘモクロマトーシスでは
記事中にあるように
HFE 遺伝子の変異によって
トランスフェリン受容体と結合して血中の鉄の輸送を
調節しているHFE たんぱくが機能異常を生じ
生体に鉄沈着症を引き起こすと考えられている。
その結果、鉄は肝臓、膵臓、心臓、皮膚、関節など諸臓器の
実質細胞内に沈着し、それぞれの臓器の機能障害を
もたらす。
月経などで鉄が失われやすい女性より男性の方が
発症しやすいと言われている。
4主徴として、肝硬変、糖尿病、皮膚色素沈着、
および心不全が挙げられるが、
内分泌障害や関節症状なども認められる。
治療は臓器に沈着した鉄を除去する方法として
瀉血療法と鉄キレート薬の投与がある。
前者はヘモグロビン値 11g/dl前後を目標として
毎週約400mlずつ瀉血する。
肝硬変が進めば肝移植が必要となることもあり
肝臓癌の発生リスクが増してくる。
肝障害が進む前に発見し早期に治療を開始することが
重要である。
それにしても、
記事中で悪者にされている医療スタッフたち、
どうしてあそこまでアルコール依存症に
拘泥したのだろうか?(単なる脚色?)

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