MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

思わぬところにあった原因

2015-01-30 18:36:43 | 健康・病気

1月のメディカル・ミステリーです。

日本人とは縁がなさそうなお話ですがご参考までにお読みいただけたら幸いです。

 

1月26日付 Washington Post 電子版

 

Medical Mysteries: It seemed like a heart attack, but the tests said no.

メディカル・ミステリー:心筋梗塞のようだったが検査では否定された

By Sandra G. Boodman,

 Pamela Meredith (パメラ・メレディス)さんが居間のソファーに身体を沈め、訪ねてきていた孫と一緒にアクション映画を見ていたとき、彼女は自分たちの忙しかった一日が終わったことにいつになく安堵していた。活発な12才の子に遅れずについていかなければならなかった速い歩調と相まって 8月のワシントンのうだるような暑さは、この数週間弱っていた彼女の活力をさらにむしばんだ。足を上げて横になっていたとき、Meredith さんは、いつもなら細いはずの自分の足首が腫れており、周辺のむくんだ皮膚のため足首の区別がつかなくなっていたのを見て驚いた。

 この元ナース・プラクティショナー(診療看護師)は恐る恐る足首を指で押さえた。その圧迫によって皮膚に明らかな窪みを生じたが、これは pitting edema(圧痕性浮腫)と呼ばれる状態を示す明確な兆候であり、身体の組織内の液の貯留によって生ずるものである。

 考えられる原因を探し求めて Meredith さんが心の中で2013年8月1日のこのできごとを思い返すと、悪化していた倦怠感が何か不吉なことの前兆となっているのではないかと急に心配になった。彼女は最近動悸が散発していたが、それは健康に害がないとされた30才代のとき初めて経験した症状が再発したわずらわしい出来事と片付けていた。しかし、圧痕性浮腫と組み合わせると、悪化する倦怠感や動悸は一つの方向を示しているように思われた:心筋梗塞である。

 数時間後、Northern Virginia hospital で行われた検査でMeredith さんの最大の懸念はすぐに除外された。彼女は心筋梗塞ではなかった。しかし、血流の調節や腎機能に非常に重要な彼女のカリウム濃度が危険なほど低く、またいつもは低い血圧が危険レベルに高かった。Meredith さんは集中治療室に入院したが、そこで4日間かけて医師たちは彼女の異常の原因が何であるか、そしてどのように治療するのが最善であるかを明らかにした。その答えは単純かつ驚くべきものであることがわかり、看護雑誌の元編集者である Meredith さんすら知らなかった疾患が明らかとなったのである。

Pamela Meredith さんの倦怠感は、親族の集まりから戻って間もなく始まった。

 「これは間違いなく認知度の低い疾患です」彼女には関わっていない病院勤務の内科医 Hesham Omar 氏は言う。「これらのケースは入院し治療されるでしょうが、その原因を突き止められることはありません。ただ幸いなことにあまり多くないのです」

 倦怠感は、当時70才だった Meredith さんがアイオワ州 Atlantic で行われた毎年恒例の夏の親族の集まりから戻って間もなくの7月に始まった。このイベントはチリからも親戚が参加した。

 習慣的に行っていた、起伏のある Alexandria の近隣をめぐる毎日の2マイルの歩行を完遂することが難しくなり始め、短時間出現する動悸に気付いた。しかしそれらの症状が彼女を心配させることはなかった。30才代のとき、ストレスを感じると起こる同じような不整脈を彼女が経験していたからである。当時の検査で重大な疾患は除外されていた。「私はずっとそういった症状を心配事に関連づけてきていたのです」と Meredith さんは言う。彼女は不安に感じていなかったが、「ちょうど旅行から帰ってきたばかりでしたが、外は華氏100度(摂氏37.7度)だったのです」

 彼女の孫が一週間家に泊まりに来ており、その夜には映画を見てリラックスしながら、親戚の集まりのとき初めて口にしたオランダの塩リコリス・キャンディー・コイン(salt licorice candy coins)を食べていた。

 8月1日、その日の午後、Meredith さんは肩の疾患を治療するための理学療法(PT)の予約をしていた。2年前、彼女は乾癬性関節炎と診断されていたのだ。これは鱗状の皮膚病変を持つ患者に見られる関節の痛み、腫脹、およびこわばりを引き起こす自己免疫疾患である。

 PT の予約時間の最初に学生が彼女の血圧を測定した。測定値は異常に高く 168/90 だった;普段 Meredith さんの測定値は100/60 前後だった。そのためその高い測定値は学生の経験不足を反映しているのだと考えたと Meredith さんは言う。

 「私は彼女にこう尋ねました。『あなたのモニター装置はちゃんと働いてるの?』」そう聞いたことを彼女は覚えている。

 

A foolish move 思慮のない移動

 

 Meredith さんがむくんだ足首についてどうすべきかを考えたときその血圧の測定値を思い出した。彼女はアスピリンチュアブル錠を噛み砕いたが、これは心筋梗塞が疑われる患者が、血小板の凝集によって動脈が閉塞するのを防ぐために取るべき処置である。それから近所に住んでいる娘に電話をかけ孫を迎えに来るよう伝えた。「できるだけ早く病院に行かなければならないと考えました」と彼女は言う。

 それから彼女は今にして思えば無茶なことをしたのだが、それは孫を動揺させるのを避けるためだった。

 行うべきだった 911 への電話はすることなく Meredith さんは自分の車に乗り、午後10時に Inova Alexandria Hospital までの3マイルを運転して行ったのである。彼女は車を停め、暗い駐車場を歩き緊急室に向かった。「夜のあんな時間に駐車場で倒れていたら夜明けまで見つかっていなかったかもしれません」と彼女は言う。

 ER では、別の患者が手のケガのことを話している間待ち、それから妙に堅苦しい口調でトリアージナースにこう言った。「心臓に何かが起こったと思います」。Meredith さんはすぐに車椅子で検査部門に連れて行かれた。

 数時間後、検査で心筋梗塞が除外されると彼女はようやく落ち着いた。「私は意外に思いましたが、喜びました」と彼女は言う。彼女はカリウムの入ったいくつかの静注用バッグが彼女の数値を改善させるだろう、そして投薬によって血圧も下がるだろうと考えた。

 しかし Meredith さんの主治医は憂慮していた。心臓が拍出するときの動脈の圧である収縮期血圧が一時は200近くまで上昇しており脳卒中の危険が増していたからである。そして彼女のカリウム濃度は 2.6 前後で推移していたがこれは低カリウム血症と呼ばれる状態であり、内科的緊急事態と考えらえた。なぜなら、致死的となりうるきわめて不規則な心拍、すなわち心室細動を引き起こしかねないからである。

 非常に高い血圧と低カリウム血症の原因を医師らは苦慮していた。低カリウム血症には多くの原因がある。その中には(高血圧の治療に用いられる薬剤である)利尿剤の使用がある;その他の原因として、腫瘍、代謝疾患、腎疾患、あるいは脱水につながる嘔吐や下痢がある。血圧や腎の機能を調節する酵素である Meredith さんの血漿レニンと、副腎から分泌されるホルモンであるアルドステロンの測定値は異常に低かった。

 「低カリウム血症で死亡することもあります」Meredith さんを治療した医師団の一人で腎臓の専門家である Irmindra S. Rana 氏は言う。

 Meredith さんは、医師や看護師たちから、利尿剤を飲んでいないか、あるいは最近一連の嘔吐や下痢がなかったかどうか、繰り返し尋ねられたという;しかしそれらの質問に対する答えはノーだった。

 入院 2日目か3日目に2人目の腎臓専門医が新たな質問をしたが、それが彼女の注意を引くことになる。

 「最近リコリスを食べていませんか?」と彼は尋ねた。

 「私はベッドから身体を起こしてこう言いました、『はい!それとどんな関係がありますか?』」

 すべてが明らかになった。

 

An unexpected culprit 予想外の原因

 

 Meredith さんはブラック・リコリス・コインをちょっとどころではないくらい食べたと主治医らに告げた。生来リコリスの愛好者である彼女は、キャンディー・コインを非常に多く摂取していたので、例の集まりのあと彼女は2ポンド(907グラム)入りの袋を2つ注文していた。そして自宅に戻ってから約1週間のうちに彼女はそのうちの一袋を一人で食べていた。「おいしいものが禁じられると私はできるだけ早くそれらを食べてしまうのです」と彼女は言い、そのためそれらがいつもそこにあって彼女を誘惑するということはない。

 Meredith さんが食べた種類は塩リコリスと呼ばれるもので北ヨーロッパでよく食べられている。それには glycyrrhizin(グリシルリジン)が含まれており、そのおかげでこのキャンディは甘く感じられる。この原料はリコリス(甘草)の根から作られ、これを摂取すると腎臓に過剰なカリウムの排泄を促し、心機能を悪化させ、時に動悸を引き起こす。

 「私たちは彼女の症候を説明できる一元的な仮説を探していました」そう言うのは今回他の腎臓内科医や同病院の内科医と協力して診断を行った Rana 氏である。非常に高い血圧、倦怠感、高度の低カリウム血症があり、リコリスの大量摂取があった患者は、他の所見がない場合にはリコリス中毒であると推定される。そして短時間に2ポンド入りの袋を食べることはそれを引き起こすに十分であるのは明らかである。

 「重要なことは患者から十分に病歴を取ることです」と Rana 氏は言う。彼はリコリス中毒を他にも一例経験していると言う。

 2011年のハロウィーンの直前、米国食品医薬品局はブラック・リコリスの過剰摂取を避けるよう消費者に警告した。短期間に集中して過量にブラック・リコリスを摂取する40才以上の人は心拍リズム障害や筋の脱力のリスクがあると同局は通告した。グリシルリジンに対する感受性は様々であり、性別や年齢だけでなく遺伝的要因に影響される可能性がある。

 リコリスと代謝障害の関連性は何十年も遡ると指摘するのはリコリス中毒について2本の論文を書いているアイオワ州のホスピタリスト Hesham Omar 氏である。

 エジプトの医学校を卒業している Omar 氏は、この疾患はラマダーン中のイスラム教徒ではめずらしいことではないと言う。この間人々は毎日12時間以上飲食が禁じられる。一部の人たちは喉の渇きを紛らわすために非常に大量の液状のリコリスをしばしばお茶の形で摂取するが、ついには病院に送り込まれる結果となってしまうと彼は言う。利尿剤を内服している患者も特に、リコリスを大量摂取する人と同様、不慮の中毒に陥りやすい。

 4日間 ICU に入室した後、Meredith さんは同病院を退院した;退院時点までに彼女のカリウム値は正常に復していた。血圧はゆっくりながら確実に低下したが数ヶ月は高いままだった。これはリコリスの過剰摂取例にはよく見られる経過だ。

 「私はあっけに取られていました。そのことを聞いたことがなかったからです」Meredith さんは言う。

 彼女は自力で緊急室まで運転していったことを後悔している。「もし私の家族の誰かがそうしていたなら、その人の頭を叩いていたでしょう」と彼女は言う。

 Meredith さんは退院後、血圧と腎機能の経過をみてもらうために数回 Rana 氏のもとを受診しているが、多くの患者と同じように悪い影響を残さず完全に回復している。以来彼女はリコリスには触わっていないがオランダのキャンディ・コインの2つめの大きな袋は台所の戸棚に残されたままだ。

 「なぜかはわかりません。たぶん注意を喚起するためでしょう」

 

ここに出てくるリコリスとは licorice のことであり、

彼岸花のリコリス(lycoris)とは異なるものである。

リコリスはマメ科カンゾウ属のスペインカンゾウ(甘草の一種)の根から

取られる甘味料・ハーブで、これから作られるのがリコリス菓子である。

北米やヨーロッパでは古くから親しまれているという。

グミのような歯ごたえのものや、飴のような硬い製品もあるようだが

アンモニア臭や薬品臭がする上、

食べ物とは思えない真っ赤やグロテスクな黒色の外観から

日本人の嗜好にはとても合いそうにはない。

オランダのリコリス菓子(リクッシュ)はこちらをご覧あれ。

従って日本人がリコリスを過剰摂取する可能性はかなり低いと思われる。

本来、適量の摂取であればリコリスは、免疫力の増強、美肌・ダイエット効果、

肝機能の改善効果、解毒作用、胃粘膜修復作用など身体に良い効果をもたらすが、

過剰に摂取すると高血圧や浮腫、頭痛、嘔吐などの副作用が見られる。

これはリコリスの主成分グリシルリジンが

副腎皮質ホルモンの一つであるアルドステロンに似た作用を持つことによる。

アルドステロンは腎臓でナトリウムの再吸収を促進する作用があり、これに伴い

カリウムの尿中排泄量が増加、さらに水分の再吸収も起こるため体液量が増える。

このためアルドステロン作用の亢進状態が続くと高血圧や低カリウム血症が進行し、

高血圧から脳・心臓・腎臓などの臓器障害、

低カリウム血症から不整脈、四肢の脱力や易疲労感が増悪する。

アルドステロン自体はむしろ低値のためこれを偽性アルドステロン症という。

アルドステロンの過剰分泌による原発性アルドステロン症でも、

偽性アルドステロン症でも血漿レニン活性が低いのが特徴となっている。

前述のように日本人ではリコリス菓子を過剰摂取するケースはまず考えられないが、

甘草を含む漢方薬(漢方ではウラルカンゾウの根が用いられる)の長期連用でも

似た病態が引き起こされる可能性があるため注意が必要である。

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