或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

フォーライフ(11)

2006-04-15 07:01:06 | 020 小説「フォーライフ」
◆高台寺
広之と美和子は京都の東山にある高台寺の階段の上り口にちょうど着いた。あたりはもう暗い。めぐり合わせというのは不思議なものだ。美術館で初めて出会ってから、まだ1週間も経っていない。新製品開発でトラブルが発生したので金曜日から出張する、解決すれば帰るが少なくとも1泊はすることになると、美和子が夫から聞いたのが一昨日。そして広之にOKのメールを送ったのが昨日。あまりにもタイミングが良すぎて少し恐ろしかったが、誘われるままに夜桜見物についてきてしまった。

ここは豊臣秀吉没後、その菩提を弔うために秀吉夫人の北政所、ねねが出家して高台院と名を改め、慶長11年(1606年)に開創した寺。京都の紅葉のライトアップは有名だが、その中でも特に人気が高い。竹藪にすっぽりと包まれた長く急な階段を登っていくと、所々で竹にライトの光が反射して妖しい空間を演出していた。

「この竹藪、なんか時代劇に出てきそうな感じだなあ」「ほんとね」「美和子さん、ここの夜桜初めてですか?」「ええ、実はライトアップの話はよく聞くけど、実際に来るのは初めてなの」「へえー、やっぱり地元だと身近すぎてなかなか来ないものなのかなあ」「広之さんは?」「いや、僕も初めてです」

長い階段を登りきると、ぼんやり幾つかの灯りが見えてきた。本堂前の「波心庭」の白砂にオブジェが並べられている。その幻想的な雰囲気は異次元の世界に誘っているかのよう。二人は時代を遡ってタイムスリップしたような錯覚に陥った。美和子はいつの間にか広之の手を握っている。

「なんか体が今にもどこかに飛んでいきそうな、ふぁっとした不思議な気持ちだわ」「そうですね、僕もそんな感じだなあ」「こんなに素敵だとは思わなかった、来て良かったわ」

二人はそれから寺の境内をゆっくり周った。肌寒さとは裏腹に美和子は少し熱くなっていた。

「ライトアップも楽しんだし、寒くなってきたから食事にでも行きましょうか」「いいけど、何処に行くんですか?」「東山のウェスティン都ホテル、ご存知ですよね、あそこに美味しい鉄板焼の店があるんですよ」「都ホテル?ホテルなんてなんだか危険な香りだわ、アブナイ、あぶない」「いや、ただ食事するだけだから・・・」

そう言いながら二人は駐車場へ向かった。美和子は口ではそう言ったものの内心嬉しかった。もう胸の高鳴りを押さえられないでいる。広之はそんな美和子の表情を見ながら、まだ自分の正体に気づかれていないと内心ホッとしていた。


◆For once in my life
久しぶりに夫婦そろっての休日。真由美のマンションの居間にあるコンポステレオから懐かしい音楽が流れていた。この声はフランク・シナトラ。実は昔OLをしていた頃、飲みの2次会で、当時上司だった脂ギラギラ系の中年オヤジが、じっとこっちを見ながら唄ったのがトラウマになっている。演歌でも歌ってりゃカワイイのに、あろうことに”My way“、しかもマイクを持つ手の小指を立てながら。自分は音楽の趣味がいいなんて勝手に思ってるから始末が悪い。思い出しただけでも背筋がぞっとする。

良かったのは違う曲だったこと。かつてはトニー・ベネット、そしてスティービー・ワンダーが歌って大ヒットした”For once in my life”。亭主と結婚する前によく聴いたものだ。「長いあいだ私が求めてきた理想の人に本当に私を必要としている人に生まれて初めてめぐり会えた・・・」なんて歌詞が当時のシチュエーションにピッタリ。乙女心がときめいた。

それが今はどうだ、亭主の入浴中に携帯電話をチェックして不審なメールを見つけ、それを今から追求しようとしている。どうしようもなく情けない。そんな気持ちをゴクンと飲み込んで無理やり笑顔を作り、おもむろに亭主に話しかけた。

「ねえ、浮気してるでしょ?分かってるんだから」「何の話?」「この間のケータイのハートマークは何よ?」「ハートマーク?憶えてないなあ」「あんたが風呂に入っている時にケータイが鳴ったから見たら、画面いっぱいハートマークだったよ」「知らないよ、それ三宮か何処かのテレクラの広告メールじゃないの、でも勝手に見るの良くないと思うよ」

真由美は亭主の浮気を確信していた。最近やけに機嫌がいい。家にいると頼みもしないのに妙にいろいろと手伝いをしたがる。女を甘く見ちゃいけない。男には分からないかもしれないが、うまく隠しているつもりでも、女の本能がそれを見つけるんだ。つまらない細工しやがって。全部お見通しだ。

「ねえ、浮気してるよねえ?」「してません」「今正直に言えば許してあげてもいいよ」「いや、してません、しつこいなあ」「ホントはチョットだけしてるでしょ?」「いや、してません」「白状したほうがいいと思うよ」「いや、してません」「あのさー、この間の日曜日の朝、私の代わりに町内会主催の公園の掃除、ちゃんとやってくれてたじゃない」「いや、してません」

最後のコメントを聞いて、もう亭主に質問する意味がないと真由美は思った。

My WayMy Way

佐伯祐三(8)

2006-04-13 06:22:22 | 300 絵画
今日は佐伯祐三の紹介の番外編。その第1回。前回、彼がどうしてあれ程早く死んだかは、私生活に立ち入らないと見えてこないという話をしました。これについては約10年前に勃発した“贋作事件”と、それに関連した情報がヒントになります。公式には否定されているけど、根強いのが“妻の米子の加筆説”と“米子との不仲説”。

-佐伯は世間知らずでずぼらな性格であり、当初から米子に頭があがらなかった。
-第1回の渡欧時に、佐伯が絵の仕上げをキチンとしないため、米子が加筆を始めた。
-佐伯本人は妻の加筆がいやだったが、世間の評判が良かったのでしぶしぶ了解した。
-第2回の渡欧時に、佐伯は加筆に嫌気がさし、米子と対立したため溝が深まった。
-佐伯は、大富豪婦人の薩摩千代子に想いを。米子は佐伯の後輩、萩須高徳と親密に。
-佐伯は、自己嫌悪等で精神的に錯乱し、ついには刹那的に死を望むようになった。

これでも柔らかく無難にまとめた方で、佐伯について、娘の父親違い、国家スパイ、毒殺等、過激な説はいくらでもあります。真偽の程は今となっては全て藪の中ですが、もしこれらが真実とすれば、なんとも波乱万丈の凄まじい人生ですね。

“愛がなければ憎しみは生まれない”という言葉があります。かつて「愛と哀しみのボレロ」という映画がありましたが、佐伯の場合は言わば「愛と憎しみのコラボ」。素顔が美しい女性を佐伯が創り、それに米子がうまく化粧を。男と女の情念のブレンドがパリの華やかさに絶妙にマッチ。なんともやるせない話ですね。でも芸術家と作品、そのつながりを改めて考えさせてくれます。

上の写真は佐伯の作品、「人形」(1925年)。実は米子の作との疑惑もあります。下の写真は、当時パリの社交界で絶大な人気があったと言われる薩摩千代子。佐伯の絶筆は彼女の肖像画だったとの説も。こうしてみると、男と女に焦点を当てると彼の人生が見えてくるような気がします。


チルドレン

2006-04-11 06:23:45 | 010 書籍
今日は伊坂幸太郎の連作短編集「チルドレン」(2004年)の紹介。小説現代に2002年から2004年にかけて掲載された短編をまとめたもの。2005年度本屋大賞の第5位。上の写真はそのPOP。ミステリー色は少なく、伊坂のほのぼのとしたロマンティシズムが見え隠れするヒューマン小説。

“バンク”、“チルドレン”、レトリーバー“、”チルドレンⅡ“、”イン“という5つの物語から構成されていて、伊坂本人は、「短編集のふりをした長編小説です。帯のどこかに“短編集”とあっても信じないでください。」とコメントを。登場人物は共通しているんだけど、話の中身は独立。登場人物の人間性のつながりという意味でたぶん長編なんでしょうね。

それで今回も出てきました、ジャズの話が。テナー・サックスの巨人ソニー・ロリンズの名盤中の名盤「Saxophone Colossus」(1956年)。主人公の陣内が、「死体からは臭気が出るだろう?埋めたって出てくる。それをジャズで誤魔化したんだな」「“モリタート”が流れてたんだろ?あれはもともとは、犯罪者を主役にしたオペラ用の曲だよ。“マック・ザ・ナイフ”とかいう別名もあるんだ。…つまり、母親は刺殺だな。…」、なんてアバウトな推理がノー天気でイカしてる。

まあ確かに「三文オペラ」(1928年)というドイツのオペラ・ミュージカルの主人公の名前がマック(Mack)で、彼の通称がマック・ザ・ナイフ。ロリンズもひっくるめてギャグにしちゃうとは、さすが伊坂。でもねえ、素人ロックバンドの歌手は、こんな“うんちく”知らないんだけどなあ。

面白かったのは、”チルドレンⅡ“の離婚調停の話。「夫婦の揉め事を突きつめていくと、たいていが同じ原因にぶつかる。意地と我慢だ。」なんて武藤が言う所。まあ遠からずだけど、伊坂にはまだ無理、この領域は。最近熟年離婚が流行ってるみたいで、正直ちょっとコワイ。日頃の行いが行いだけに、慰謝料はたぶんハンパじゃない。金持ちじゃないのでとてもそんなことできません。(笑)

チルドレンチルドレン

Saxophone ColossusSaxophone Colossus

桜見物

2006-04-10 06:08:13 | 900 その他
この土日、ようやく広島でも桜が満開になりました。絶好の花見日和。気象庁によると、東京の満開は28日で、1953年(昭和28)年の観測開始以来3番目の早さ。だからよけい遅く感じてたんだなあ。

息子が東京に住んでいるせいか、寒い?暑い?とか、会うとそんな話をよくします。これまでは、位置的に南にある分だけは東京より広島の方が暖かいという思い込みで話をしてましたが、今回その辺に疑問に感じて調べた結果は次ぎの通り。データは平年の平均気温。

    1月 2月 3月 4月 5月 6月  7月 8月 9月 10月 11月 12月 年平均
東京  5.8 6.1 8.9 14.4 18.7 21.8 25.4 27.1 23.5 18.2  13.0 8.4  15.9
広島  5.3 5.7 9.0 14.6 18.9 22.8 26.9 27.9 23.9 18.0  12.3 7.5  16.1

これを見て認識を新たにしました。つまり東京と広島でほとんど気温は変わらないということ。厳密に言うと、確かに6月、7月、8月、9月の夏は広島の方がやや気温が高い、でも逆に11月、12月、1月、2月は広島の方がやや気温が低い。だから東京の方が桜の開花が早くてある意味当たり前。これはホント意外でしたね。でもなんかいい勉強になったなあ。

それで昨日は久しぶりに山口県の岩国市にある錦帯橋(きんたいきょう)に桜見物に行こうかと思ったら、娘が一昨日に友人と行ってました。話を聞くと、なんと駐車場が2時間半待ち。これで一気に気持ちが萎えちゃって。結局図書館の帰りに、近所にある上の写真の桜並木をちょっと寄って見ただけ。でもどうしても心残りで、夕食がてら平和公園に夜桜見物にでも行こうかとカミさんと娘を誘ってみたけど、花粉症ぎみだからいやだと拒否されて。

どうも近年まともに桜見物ができていない年が続いてます。(笑)

そして天使は歌う

2006-04-08 06:47:50 | 010 書籍
今日はジャズ評論家でエッセイスト兼作家である久保田二郎の著書紹介。もう第5弾。気合い入ってるでしょ?何故かって?彼と感覚が近いというのが一番だけど、1970、80年代の空気に浸りたいというのもあります。

今回は「そして天使は歌う」(1980年)。これは1970年代に婦人画報社が発行した「メンズ・クラブ」に掲載された彼のエッセイを抜粋したもの。ベニー・グッドマン楽団のトランペッターが作曲した"And the angels sing"(1939年)からタイトルをつけたらしい。残念ながら聴いたことはありません。でも日本語の響きが良いので、結構いろんな所でパクられてるみたいです。

内容は、飲む、打つ、買う、食べる等、まあそういった五感の悦楽関係。興味を引いたのが料理の話。彼は食通だったみたい。自分でも料理をやっていて、道具にもこだわりが。その中で出てきたのが日本とゾーリンゲンの包丁の話。具体的なブランドとしては木屋(きや)とヘンケルス(Henckels)。

調べると、ヘンケルスは会社の正式名がZwilling J.A. Henckelsで、双子を表すドイツ語”Zwilling(ツヴィリング)”と、ヘンケルス中興の祖である人名”Henckels(ヘンケルス)”の名前で構成されているんだとか。もともとはこれら2つのブランドを持ってたんだけど、世界戦略の一環としてブランドをツヴィリングに統一したそうです。そう言えば最近じゃ赤い双子のマークしか見ないかなあ。

実は私も一応料理は趣味の一つ。なんでも外堀から埋めてくタイプなので、料理も道具から。持っているのは上の写真の2本の包丁で、木屋の出刃と刺身。最近は資格の勉強でおろそかになっていて、使うのはもっぱら釣った魚をさばく時。でもね、これがスグレもの。気に入ってます。

とにかく刺身の身の締まりが違う。日本料理の有名店とかで食べると一味違いますよね。あれってネタもあるけど包丁と板さんの技がかなり効いている。楽器もだけどやっぱり道具は大事ですね。

そして天使は歌うそして天使は歌う

追悼 Jackie McLean

2006-04-06 06:23:09 | 200 ジャズ
今日はちょっと哀しい話。ジャズのアルトサックス奏者、ジャッキー・マクリーンが3月31日に死去。享年73歳。実は新聞記事を見逃していて、知ったのは昨日。マクリーンはアルトの中では一番のお気に入りだったのに。

彼が最も輝いていたのは1950~60年代。レーベルでいうとプレスティッジとブルーノート。あのくすんだ音色とエモ-ショナルでくねくねした後ノリのフレージングがぐっとくる。彼はモードやフリーもやったけど、根っからのバップ屋。有名盤もたくさんあります。リーダーアルバムだと、ワンホーンのスタンダード集「Swing, Swang, Swingin'」(1959年)あたりが聴き易い。

想い出に残っているのは「McLean's Scene」(1957年)。その中のバラードナンバー”Old folks”。いきなりテーマを淡々と吹き始める素朴さにマクリーンらしさが漂います。この曲はいろんなミュージシャンが取り上げているスタンダードの隠れた名曲。自分でもよく演奏しました。この曲を演奏する時は、何故かいつも彼のアルトが頭の中に浮かんできましたね。

それとブルーノートでの活動停止後、約5年ぶりのアルバム「Live at Montmartre」(1972年)。コペンハーゲンでのライブ盤。ピアノのケニー・ドリューとのセッション。前打合せなしって感じ。これがラフでイカしてる。特に”Parker’s mood”の退廃的な雰囲気がたまらない。上の写真はジャケットの拡大版。何かしら最盛期が過ぎた物哀しさが滲み出ていて味がありますね。

最後に面白い話をひとつ。彼がサイドメンを務めたアルバムで有名なのは、何といってもピアノのソニー・クラークの「Cool Struttin'」(1958年)。学生時代、バンド仲間と飲んだ後に当時名古屋の今池にあったジャズ喫茶「グッドマン」へ。行ってみると客は我々だけ。完全に貸切状態。そんな中で誰かがこれをリクエスト。タイトルチューンがかかると、誰となくフロアで盆踊り?を始めて。なんとテーマだけでなくマクリーンの細かいアドリブまで大合唱。マスターは何も言わずニコニコ笑ってました。

Swing, Swang, Swingin'Swing, Swang, Swingin'

McLean's SceneMcLean's Scene

Live at MontmartreLive at Montmartre

Cool Struttin'Cool Struttin'

バカラ タリランド

2006-04-05 06:16:32 | 520 アンティーク
バカラのグラスを何度か紹介してますが、今日は一番のお気に入りで1937年に作られた写真のタリランド(Talleyrand)。特徴は大胆なフラットカット。使っていると他のグラスと違うのがよく分かります。透き通るような白さ。まるでダイアモンドのよう。すぐに気がついたのがカミさん。いつもはこんなものにお金をかけてとあきれてますが、このグラスには一目置いている様子。

私が気に入っているのは、この光はもちろんですが実際の使用感。持ってしっくりくるから。バカラにはMとLと2サイズあります。でも、もともと外国人がつくったものなのでMといっても普通の日本人にはやや大きめ。それと種類によって同じMでも大きさが違う。例えばマッセナなんかはMでもえらくでかい。そんな中で一番小ぶりなのがこのタリランド。日本人向きでオススメです。

この名前は、フランスの外交官タレーランに由来してるとか。調べてみると、彼が最も活躍したのが1814年のウィーン会議。ナポレオンがライプツィヒの戦いに敗れて退位したあとのヨーロッパをどうするのか、国境線、政治体制・・・。各国の代表者が集まって議論したけど半年以上も続き難航。だけど一番立場の悪かったフランスは、タレーランがうまく立ち回って領土を確保。

彼はフランスを守るために「正統主義」という理屈を持ち出してたそうです。フランス革命以前のヨーロッパの姿が「正統」、つまり正しい状態。全てを革命前の状態に戻そうと主張。各国はこれに見事にだまされた。当時彼につけられたニックネームが、「変節と嘘と汚職の天才」、「冷徹で偉大な現実主義政治家」。でも外交官としては褒め言葉なんでしょうね。

それでこのタリランド。ウィスキーを飲む時によく使うんだけど、最近知らない間にグラスの周りが数箇所欠けてるのを1個発見。かなりショック。今悩んでます。捨てるべきか、捨てざるべきか、なんかハムレットの心境。ちょっと古いか。今日は感覚がどうも昔にタイムスリップしているようです。(笑)

Chris Connor

2006-04-03 06:06:48 | 200 ジャズ
最近ハマっているのがオールドファンにはお馴染みの白人女性ジャズシンガー、クリス・コナー(Chris Connor)。きっかけはレンタルCD屋で彼女の近年のアルバム「バードランドの子守唄」(2002年)を見つけたから。

女性ヴォーカルのアルバムでは、本人の写真がどこかにレイアウトされてるのが一般的。勿論男性の目を引いてジャケ買いさせるのが狙い。ところがこれには何気ない米国の風景写真。ちょっと考えてすぐに気がついたのが彼女の年齢。1927年生まれだからレコーディングの時はなんと75歳。がーん。私の親父とほぼ同じ?いやあ、ある意味ショック。(笑)

実際に聴いてみると確かに相当よれよれ。日本の現役歌手で言えば、島倉千代子が1938年、都はるみが1948年の生まれ。彼女達よりひとまわりもふたまわりも上。だからこれは仕方ない。でも声質とかノリが好みのタイプと惚れ直してCDを数枚購入。実は若い頃のものしか持ってなかったんです。

女性ヴォーカルって相性があります。上手い下手以前の問題として。私の場合黒人だと、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、この辺りは声質がどうもね。カーメン・マクレーぐらいかなあ、大御所で好きなのは。白人はけっこういます。アニタ・オデイ、ヘレン・メリル等。でもクリス・コナーはどういう訳かこれまであまり真剣に聴いたことがなかった。

今回購入した中のお気に入りが「Lover come back to me」(1981年)。これは彼女が54歳の時の作品。NYにあったジャズクラブ、“スイート・ベイジル(Sweet Basil)”でのライブ。彼女の声が醸し出す品の良さと、ほんのり漂う色香、それに加えてライブ独特のリラックスした雰囲気が実にいい感じ。

それで若い頃から年代順に、上の写真の「Chris in person (live at The Village Vanguard)」(1959年)、「Chris Connor at The Billage Gate」(1963年)、そして今回購入したのとライブ盤を通して聴いてみたけど、時の流れがしみじみと感じられて、これまた格別でした。

クリス・イン・パーソン
ヴィレッジ・ゲイトのクリス・コナー(紙)ヴィレッジ・ゲイトのクリス・コナー(紙)

Lover Come Back To MeLover Come Back To Me

バードランドの子守歌バードランドの子守歌