はなバルーンblog

藤子不二雄や、好きな漫画・アニメの話がメイン(ネタバレもあるので要注意)

『宇宙少年団 ロケットくん』の実際に迫る

2009-05-06 20:11:21 | 藤子不二雄
 今年のゴールデンウィークは完全にカレンダー通りなので、連休はとりあえず今日で終わり。
 連休中、どこにも出かけないのではつまらないし、かと言ってあまり遠くへ行く気もしなかったので、今回はお手軽に2日から4日まで実家に帰省してきた。

 実家に帰るとなると、外せないのは国際児童文学館だ。昨年も、ゴールデンウィーク帰省時に寄っている
 ここのところ、藤子作品以外の漫画やアニメの調査に利用する事が多くなっていたが、今回は久しぶりに単行本未収録の藤子作品をチェックしてきた。収穫は、以下の通り。



・『宇宙少年団 ロケットくん』(「ぼくら」1956年5月号~1957年12月号、第2回までは『宇宙少年団』)
 →1956年5,6,7,9,10月,1957年2,3,4,8,9,11,12月号
 (1956年8,11月,1957年1,4,5月号は付録,1956年12月,1957年10月号は所蔵無し)

・『はりきり首相』(「たのしい四年生」1961年4~12月号)
 →別冊付録の5月号を除く全話

・『ゴリラ五郎くん』(「たのしい三年生」1968年1~3月号)
 →別冊付録の3月号を除く全話

・「どれいがり」(「別冊少年サンデー」1964年正月号)

・「宇宙特急21世紀号」「もしぼくが校長先生だったら……」(「ぼくら」1957年夏の増刊号)



 以上、今回は藤子A作品に狙いを絞った。F作品は「藤子・F・不二雄大全集」の収録内容次第で、図書館で未収録を集めても無駄になる可能性があるので、今は手が出せない。

 今回借り出した作品は、上に書いたように別冊付録を除けば児童文学館だけでほぼ全話が揃うが、別冊付録は1回あたりのページ数が多いので、作品全体に対する割合では付録が2,3回あるだけでかなりの欠落になる。
 『宇宙少年団 ロケットくん』は5回も付録になっているので作品全体の半分くらいは抜けているし、『ゴリラ五郎くん』も肝心の最終回が付録なので読めないのは残念だ。この2作と比べると、『はりきり首相』は付録が1回のみで、しかも本誌連載も毎回20ページ前後と比較的ページ数が多いので、全体の8割ほどは読む事が出来るので、おすすめだ。



 とは言え、付録分の欠落はあっても『宇宙少年団 ロケットくん』を比較的まとまった形で読む事が出来たのは収穫だった。
 この作品は『第二部まんが道 春雷編』と『愛…しりそめし頃に…』で作中に登場するので、藤子ファンには名前はよく知られているが、『まんが道』『愛しり』では一部の回が引用されているに過ぎないので、以前から気になっていた。
 本誌連載を読んでみると、『まんが道』『愛しり』と一致する部分や異なる部分が色々と見つかって興味深かった。それを、紹介してみる。


 まず、連載第1回は『まんが道』作中で全ページが載っているが、これは現物とほぼ同じ内容。
 柱のアオリ文句「宇宙は、だんだんせまくなってきている。これは、満才先生が腕によりをかけて書かれた空想科学まんが!」「第一回めから、むねのすくようなおもしろさ!ロケットくんはどうなる?まて、次号!」も、ほぼ初出通り。もっとも、当然「満才先生」は現物では「藤子先生」だし、「まて、次号!」も現物は「まて、六月号!」なのだが。後者は、何月号か時期をはっきりさせると、後々つじつま合わせが面倒になるとの判断で変えられたのだろうか。
 『まんが道』では続けて第2回の一部、第3回の全ページ、第4回付録の冒頭部分が載っている。第2回・第3回については現物通りだし、第4回付録は児童文学館にはないが、付録になった点は事実に即している。

 事実と違うのはその後で、『まんが道』作中では別冊付録が大人気のため翌月が巻頭カラーになったとされているが、現実には連載第5回は巻頭カラーではなかった。
 では、この時に満賀と才野が描いていたカラー原稿は何だったのかというと、実はこれは1957年4月号掲載分の連載第12回なのだ。間に別冊をはさんだとは言え、いきなり「目玉ごけ族」なる敵が出てきて話が飛びすぎだと不審に思われた人もいたのではないかと思うが、真相はこうだった。
 現実でも『まんが道』作中でも、巻頭カラー回の次が付録なので、それに合わせたのだろう。

 『まんが道』で本作が登場するのはここまでで、以降は『愛しり』に引き継がれている。
 『愛しり』では最初に別冊付録の一部が登場するが、これは内容的に『まんが道』の最後に登場した付録と被っている。
 そして、次に登場するのは最終回。これは全ページ掲載されているが、内容も実際の最終回と同じだ。『愛しり』序盤では本作が「ピークを過ぎて人気が落ちてきた作品」として扱われていたので、作中ではこの程度しか紹介されなかったのだろう。


 今回、現物を読んで気になったのは、実際には連載終了はいつ頃決まったのかと言う事だ。
 『愛しり』作中では、満賀が打ち切りを告げられて最終回を描いているので、最終回1話前まではまだ終了は決まっていなかった事になるが、実際はどうだったのか。『トキワ荘青春日記』には同時期の『わが名はXくん』連載終了については書かれているが、『ロケットくん』には触れられていない。
 だから、あくまで作品から推測するしかないのだが、謎の人物「流星探偵」(実はロケットくんの父)が登場する1957年8月号以降を読むと、流星探偵の正体について特に伏線は張られておらず、最終回で覆面をとって正体を明かす場面は唐突に感じられる。
 無理に深読みをしても、流星探偵の正体の伏線と言えるのは、1957年11月号で父に会いたいと言うロケットくんに対して「そうか そんなにあいたいか……」と、ちょっと含みがある一言を話す場面くらいだ。

 この、1957年8月号以降のラストエピソードでは、ロケットくんと流星探偵が、ロケットくんの父がいると言われる「ゆうれい星」へと向かうのだが、最終回でゆうれい星は爆発してしまう。
 もし、ここで打ち切りにならず連載が続いていたら、二人がゆうれい星に降りて話が続いていたのではないだろうか。その場合、流星探偵とロケットくんの父は別人になっていたかもしれない。
 打ち切りだと先入観を持っているせいもあるが、この最終回はそれまでの流れを知った上で読むと、半ば無理に終わらせたように見える。おそらく『愛しり』作中だけでなく現実でも、連載終了が決まったのは最終回直前か、早くて残り2回の時点だったのだろう。
 それでも、ロケットくんが第1回から口にしていた「父探し」には決着を付けて終わっているので、きれいにまとまっている。記念すべきA先生初の長期連載作品なのだから、いつか付録部分を含めて完全復刻で単行本を出して欲しい。『まんが道』『愛しり』で大きく取り上げたくらいだから、A先生にとっても愛着のある作品なのだろうし。


 あと、『まんが道』や『愛しり』での扱いとは関係なく、純粋に作品として一番印象に残ったのは、赤星の「イヤな奴」っぷりだった。
 A先生が性格の歪んだ嫌な人物の描写を得意とする事は、『魔太郎がくる!!』のゲスト陣や『まんが道』の日上などでよく知られているが、それが初期作品『宇宙少年団 ロケットくん』の時点で、すでにかなり完成されていた事が分かって、実に興味深かった。
 赤星がイヤな奴である事は『まんが道』で紹介された部分でも描かれているが、それ以外にも何度も敵に寝返ってロケットくんを窮地に追い込んでおり、それでも赤星を告発しないロケットくんの人の良さは、読んでいてもどかしく思えるほどだ。
 もし赤星の相手がロケットくんでなく魔太郎だったら、連載第3回の時点で赤星は命を落としていたかもしれない。


 なお、『宇宙少年団 ロケットくん』は『まんが道』『愛しり』の作中以外にも、一部の話が復刻されているので、紹介しておく。


 ・「ゴルゴンの巻」(「ぼくら」1956年夏の増刊号)→藤子不二雄ランド『魔太郎がくる!!』第12巻
 ・「宇宙線爆弾事件の巻」(「ぼくら」1957年正月増刊号)→『愛…しりそめし頃に…』単行本第2巻
 ・連載第15回(「ぼくら」1957年7月号)→『愛…しりそめし頃に…』単行本第1巻


 以上の3話も初出誌が国際児童文学館に所蔵されているが、復刻を持っていればコピーを取る必要はないだろう。


 それにしても、いつもの事なのだが、図書館での一日はあっという間だ。
 毎回、訪れる前に「今回はこれとこれをチェックしよう」と準備をしておくが、その通りに全部チェックできたことは一度もない。今回も、余裕があれば他にも確認したい雑誌はあったし、漫画作品だけでなくアニメ誌で『ドラえもん』の放映データも再確認したいと考えていたが、思ったよりコピーのページ数が多かったせいもあって、かなり積み残しとなってしまった。

 大阪府知事の打ち出した方針の為に、いつまで児童文学館が使えるか分からない状態だから、利用できるうちには出来るだけ使っておかなければ。国会図書館などと比べると、本の貸し出しのレスポンスがよくて効率よく借り出せる点は大きな価値がある。
 また、近いうちに一度訪れたい。