ぶな林の息吹となるや木の根明く
知人の「春を待つ」知事賞受賞作品 鍋倉山ブナ林の木の根明く
俳人の宮坂静生さんが、大変重要な仕事をしている。『語りかける季語 ゆるやかな日本』(岩波書店 2006年)俳句の季語は、古今集で成立した美意識を基礎に、連歌や江戸俳諧の言葉を吸収しながら、明治以降の近現代俳句に至っている。だが、俳句の季語・季題には、一つの空間的な前提がある。京都・江戸(東京)という文化圏である。列島は南北に長く、しかも、日本海側と太平洋側では文化的な色彩も異なる。地域の多彩な季節の言葉は、これまで歳時記に登録されてこなかった。されないままに、歳時記の言葉は、「日本人の」美意識と言われてきた。宮坂さんのこの本は、地方の季節の言葉を集めていて、大変興味深い。と、どなたかの記事がネットにあった。私の所属する俳句会「岳」の主宰の宮坂静生は「岳」四月号に「木の根明く」と題して書いています。信州では三月の下旬は僅かに春の気配が見える。ブナやハルニレの根の周りがまるくドーナツ型に明き、木の導管ががこくこくと水を吸い上げ初める。これを地元では「木の根明く」とか「根明き」と呼ぶ。雪国の早春の森で、この出会いほどうれしいことはない。従って主宰の言うその地方にしかない風景を「地貌季語」と称し、今俳句会では注目されている。主宰の句にこんな句がある。
逝く母を父が迎へて木の根明く
宮坂静生
酒下げて竹馬の友や木の根明く
正義