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■旧夕張市美術館収蔵作品展2022 (8月11~21日、夕張)

2022年08月22日 08時08分08秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル


 夕張市美術館は、市立では道内で網走に次いで2番目に古い美術館でしたが、夕張市の財政破綻に伴って民間に運営が移譲され、その少し後の2012年、屋根の上に積もった雪の重みで建物が倒壊しました。
 所蔵品がおおむね無事だったとは聞いていましたが、その行方については、これまであまり報じられてこなかったと思います。

 2022年8月、新しい施設「りすた」で、倒壊から10年ぶりに所蔵品の大規模な展覧会が開かれ、最終日にかけつけました。
 ただ筆者は、矢倉あゆみさんのツイートでたまたま知ったのであり、札幌では一度もポスターやちらしを見た記憶がありません。
 もう少し多くの人に見てほしかったという気もしますし、今後は、古い建物(夕張にはたくさんある)を活用するなどして、予算などの制約から、常設は難しくても、定期的に展示を行ってくれたらいいのに―と感じました。今回は、作品鑑賞ツアーや学習講座といった関連行事が多かったことから察して、市民がメインターゲットだったことは推察できますが。

 出品目録に掲載されているのは125点(このほか、ロビーに1点、記載のない絵がありました)。
 絵画(油彩や木版画、シルクスクリーン、絵巻、屛風)、写真、書が混在して並んでいます。彫刻もあるはずですが、今回は出品がありませんでした。
 並べ方はかなり窮屈でしたが、これも会場が多目的ホールという制約からやむを得ないでしょう。
 全体として、作り手が夕張ゆかりの画家・書家、もしくは夕張を題材にした写真・絵画がほとんどを占めていました。
 美術館は、夕張がらみの画家・書家や写真以外にもいろいろ蒐集していたはずなので、今度の展覧会は、地元重視の方向性をもったものといえそうです。

 
 ホール前のロビー的な空間には、ついたてが並んで、過去に同美術館が開いた展覧会のポスターやちらし、各種資料などが貼り出されて、来場者の理解を助けていました。

 「Finish and Begin 夕張市美術館の軌跡1979-2007、明日へ」のポスターもみえます。
 このときの出品作は今回と、思いのほか重なっておらず、そのことからも今回のラインナップが、倉庫からテキトーに出したものを並べたのではなく、ある方向性をもっていることがうかがえます。


 作家は次の通り。数字は点数。
 ジャンル名を記していないのは絵画。

大崎盛(写真) 22
畠山哲雄 21
小林政雄 16
ジャック・デ・メロ(写真) 15
雨森康男(写真) 6
佐藤時啓(写真) 5

土屋千鶴子 3
比志恵司 2
熊谷知之 2
松原攻  2
森熊猛  2
 
 (以下は1点ずつ)
木下勘二
中野層翠(書)
藤根凱風(書)
松江彩
三上〓〓(書。一つめは口偏に共、二つめはうかんむりに弓)
桑原翠邦(書)
藤野千鶴子
伊谷賢蔵
志村立美
田中正秋
手島圭三郎
大宮健嗣
楠野友繁
伊佐治講
大黒孝儀
高橋忠雄
藤根星洲(書)
安藤文雄(写真)
有村尚孝
西部恵一
富山妙子
安藤小芳(書)
渡部侃
(作者不明。「HIRO」のサイン)
白江正夫
倉持吉之助


 絵画は、やはり戦後に描かれた油彩画が中心になるので、当然同時代の影響を受けているため、たとえば小林政雄「捨石の山」はキュビスムのようですし、松原攻「花」は明るく軽快な抽象画になっています。その分、畠山哲雄が写実的に夕張の街並みや炭鉱を描いた作品が多く並び、美術愛好家ではない一般市民の鑑賞者の趣向にこたえている結果になっているように感じました。
 畠山さんの絵は保存状態も良好で、緑はついさっきチューブから出したばかりのように生き生きとしています。

 現代絵画のなかでは、入り口にあった木下勘二「氷上の椅子」が優品と思います。氷の上、ピンクから水色、青へとグラデーションでうつろっていく空を背景に、ぽつんと置かれたいす(グランドピアノの演奏用のような)は、人物を描かずに、人の孤独をじゅうぶんに表現しえています。上の方に描かれた白い半月が良いアクセントになっています。
 木下勘二は「入坑する人」という、図録にはない絵も、ロビーの壁にかかっていました。黒の太い輪郭線が、人々を力強く縁取っています。
 新道展会員の有村尚孝「早春の山麓」は、セザンヌに私淑したとおぼしき、震えるようなタッチによる緑が全面をおおっています。 

 写真は、大崎盛による、にぎやかだったかつての夕張を記録した「ふるさと夕張シリーズ」がある一方で、佐藤時啓が、画面のあちこちでライトをともして何度もシャッターを切ったシリーズもありました。
 書は、桑原翠邦の屛風「間中至楽」の、のびやかで悠々たる隷書など、優品が多く並んでいました。


 繰り返しになりますが、この展覧会は、ベスト・オブ所蔵品展ではありません。
 夕張ゆかりの美術家でいえば、金子賢義、江川博もいますし、岡部昌生の所蔵品もあるのではないでしょうか。
 入り口に展示してあった、1989年の美術館だよりを見ると、新収蔵品として小島真佐吉、田中祥三、西村計雄、伊原宇三郎、斉藤広胖らの名が挙がっています。
 斉藤広胖は全道展創立会員です。ただし、川上澄生や国松登らそうそうたる顔ぶれの中にあって、斉藤広胖は残された資料に最も乏しく、筆者も作品を見た記憶がありません(実作はおろか写真もない)。
 こうした作家の作品があるなら、所蔵品展の第2、第3弾も見たくなってきます。


 最後に、フライヤーにあったことばをコピペしておきます。

 夕張市美術館は2012年2月、積雪により倒壊し、その後廃館となりました。残された作品や資料などのコレクションは、市外への貸し出しやギャラリーでの小展示により展示鑑賞されてきましたが、夕張市内で一堂に公開されることはありませんでした。建物がなくなったことで、その存在を知る人も少なくなっています。

 このような状況の中、2020年3月に展示機能を備えた文化施設<拠点複合施設りすた>が開館しました。新型コロナウイルス感染症の影響で休館もありましたが、ようやく展覧会が開催できる社会状況となりました。
 最盛期には11万人以上の人が暮らした夕張。厳しくも豊かな山と谷の自然と炭鉱風土の中で文化は鍛えられ、育まれてきました。今回の展覧会は、できる限り郷土の作家を知ってもらい、コレクションの価値について皆さんに感じ考えてもらえるように企画しました。

 本展は、変貌し続けてきた夕張の歴史を次世代に引き継ぐための、記憶や想いを語る場にもなります。この会期中に見い出された地域の宝物を、展覧会後もじっくりと時間をかけて、皆さまと一緒に磨いていけたら幸いです。
 

2022年8月11日(木)~21日(日)午前10時~午後6時(入場5時半、最終日~4時)
拠点複合施設「りすた」(夕張市南清水沢4)

過去の関連記事へのリンク
チャリティ展 夕張市美術館コレクション~炭都・夕張の美術遺産 (2016)


夕張市美術館、正式に閉館へ
(2013)
夕張市美術館、今後のあり方は (2012年8月)
夕張市美術館、解体始まる(2012年4月)
夕張市美術館から収蔵品を搬出する作業が始まった
夕張市美術館が雪でつぶれた

道新ぎゃらりーオープン「夕張市美術館所蔵作品展」
Finish and Begin 夕張市美術館の軌跡1979-2007、明日へ(2007) ■その2 ■その3

夕張市美術館に単独入場券導入へ (2007)

夕張市美術館、存続へ
夕張市美術館、存続か
夕張市美術館の今後は…(上) (下)

ヤマのグラフィック 炭鉱画家の鉱脈展 (2006)
リレーション・夕張2002
古里ゆうばり百景 渡辺俊博展 (2002) ※リンク先の人名が間違っているようです。おわびします。


’文化’資源としての<炭鉱>展 II (2009)=東京・目黒区美術館の企画展


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