A Challenge To Fate

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【地下ジャズDisc Review】ESPの眠れる猛虎が息を吹き返す~Tiger Hatchery タイガー・ハッチェリー/ Breathing in the Walls 壁の呼吸

2020年08月13日 02時01分27秒 | 素晴らしき変態音楽


Tiger Hatchery:
Mike Forbes, saxophones
Andrew Scott Young, basses
Ben Billington, drums

1. Exoskeletal
2. Not Chill
3. Drawing Down the Moon
4. Breathing in the Walls Pt. I
5. Pothole Pleasure
6. Scorch the Earth
7. Triple Penny
8. Don't Tell Your Doctor
9. Breathing in the Walls Pt. II

”養虎場”が継承するESPパワー・ジャズ。
60年代後半~70年初頭の激動の時代にESPディスクが世に送り出したアルバート・アイラー、マリオン・ブラウン、ファラオ・サンダース、ジュゼッピ・ローガン、ガトー・バルビエリ、チャールズ・タイラー、バイロン・アレン、フランク・ロウといったフリージャズのサックス/リード奏者のレコーディング作品を言い表すとすれば「パワー・ジャズ」または「ハードコア・ジャズ」という言葉が適切だと思う。ESP特有の荒々しいモノクロ・ポートレートやアクションペインティング風ドローイングを全面に配し、ゴシック体のタイプ打ちのレタリングが刻まれたレコード・ジャケットは、同時代、いや後世まで含めて他のレコード会社には太刀打ちできない”ナマの音楽”の感触を視覚化したドキュメントに他ならない。そして録音スタジオ(またはコンサート会場)のレベルオーヴァー気味の熱気をそのまま録音テープに写し録り、電気加工ほとんどなしで塩化ビニールディスクに刻み込まれた音楽は、度重なる再発に摩耗しながらも、半世紀以上経っても「現場」の空気を色濃く伝えている。

Breathing in the Walls, Pt. 1


「ESPディスクのフリージャズの伝統を誇りをもって受け継ぐシカゴのパワー・ジャズ・トリオ」と紹介されるタイガー・ハッチェリーは、正真正銘ESP特有の熱気に満ちた空気を内包したインプロヴァイズド・ミュージックを体現する演奏体である。マイク・フォーブスのテナーサックスが割れるほどの爆音を発し、ベン・ビリントンのアグレッシヴなドラムが雷鳴で攻撃する。アンドリュー・スコット・ヤングのディストーション・ベースは、重低音でトリオの土台を固める端から大地震で地割れをもたらす。ノイズ・ジャズという陣地があったなら、この「虎の孵化場=Tiger Hatchery」こそ最右翼に陣取るべきだろう。しかしそれは雑音としてのノイズではない。アルバート・アイラーが黒人聖歌隊の最高潮の歌声に我慢できなくなって精神解放の雄たけびを上げたように、自己表現の歓びを三者三様の魂が軋む音として重なり合う摩擦音を凝縮し結晶化した録音作品として残されたのである。

Exoskeletal


オハイオ州クリーヴランド出身のベン・ビリントンは2004年秋にシカゴのデポール大学に進学。シカゴでノイズ・ロックに目覚め、ドラム/ギター/エレクトロニクスのトリオDruids of Hugeを結成し、2006年から積極的にライヴ活動を行う。一方マイク・フォーブスとアンドリュー・スコット・ヤングはテキサス州デントンで出会う。バンド・メンバーを探していたフォーブスが、キャンパス内のジャズ・バーで演奏していたヤングを発見し、「アルバート・アイラーを知っているか?」と質問をしたのである。この一言が人生を変える魔法の言葉となり、2人は意気投合、共に音楽の道を歩き始める。難解なジャズやノイズへの情熱は、テキサスの田舎町では収まり切れず、2007年に二人は南部を脱出してシカゴへ向かうこととなった。シカゴではフリージャズやインプロよりも、ノイズ/パンク/ロック・シーンに可能性を見出した。必然的にDruids of Hugeで活動するベン・ビリントンと出会うこととなり、最初はジャム・セッションから始まり、すぐにビリントンの「フリー・ロック」とフォーブス&ヤングの「フリー・インプロヴィゼーション」が共感しあってタイガー・ハッチェリーとして活動を始めた。彼らが中心となってシカゴ近郊の巨大な倉庫を使ってアンダーグラウンド・ミュージックとアートのイベントを開催するようになった。その成果で地元のレーベルから作品をリリースし始めた。

2013年にESPディスクと契約、スタジオ録音作品『Sun Worship』をリリース。インディシーンで高い評価を得る。2015年には伝説的サックス・プレイヤーPaul Flahertyとコラボ・アルバムをリリース。そして2017年にリリースされた現時点での最新作が『Breathing In The Walls』。直訳すると「壁の中で呼吸をする」という意味。全9曲で30分強。短い曲が中心だが、その分込められたパワーをダイレクトに伝える意欲作である。勿論ただ我武者羅に走るのではなく、聴き手に考える余地を与えるストイックな寡黙さが漂うトリオの空気は、演奏の饒舌さとバランスを取るための黄金比率から導き出したかのような、表現行為の深層意識に満ちている。波乱の海の底の深海の静けさを湛える慎ましやかな美を強く感じる。

Tiger Hatchery with Paul Flaherty Live in New Haven, CT


本作以降あまり活動の記録がないが、解散することなくESP精神を伝えて行ってほしいと願っている。

自由人
自由生活
ご自由に

Tiger Hatchery @ ESP-Disk' 50th Anniversary Party - Part 1



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