Photo by Kazuyuki Funaki
2018年7月23日(月)東京・高円寺HIGHで『灰野敬二エレクトロニクス&ハーディ・ガーディ・ソロ』公演が開催される。膨大なエレクトロニクス機材と世界でもレアな楽器として知られるハーディ・ガーディによる長時間ライヴを体験できる機会はめったにない。その予習を兼ねて、100作を超えると言われる灰野関係作品の中からエレクトロニクス及びハーディ・ガーディによるソロ・アルバムをまとめてみた。筆者の所有するLP/CDに限るので、万が一抜けがあってもご容赦いただきたい。太字はCD帯/ブックレットの表記。
天乃川 1973 Live
CD: Mom 'N' Dad Productions – MoM-019 (1993)
LP: Black Truffle – BT026 (2016)
聖なる響の成就
こいつを ノイズミュージックと呼ぶのはふさわしくない
ハードロックの突然変異と名づけることにしよう
1973年の秘蔵音源。現DOMMUNE代表・映像アーティストの宇川直宏のレーベルMom 'N' Dadからリリースされた秘蔵音源。当時ロスト・アラーフで活動していた灰野が自作楽器や発振器を使って京都で行ったソロ・ライヴ・パフォーマンス。ホワイトノイズの中からリード楽器の甲高いサイレンが鳴り響く冒頭部は今でも時々ライヴで吹くチャルメラ演奏に通じる。粒子の荒い騒音で塗りつぶされた演奏は音楽と空間/時代の摩擦により、そうならざるを得なかった灰野の心情の現れかもしれない。
手風琴 The 21st Century Hard-Y-Guide-Y Man
CD: P.S.F. Records – PSFD-68 (1995)
この古めかしくて派手な物に
出逢いしは20数年前の事なり
いまだに初めて私の中に入ってきたと同じように
私の脳髄を犯し続けてくれる響きなり
帯のコメント通りだとすると灰野がハーディ・ガーディと出会ったのは70年代初頭である。もしかしたら『天之川』を録音した頃かもしれない。爆弾を思わせる形とゴシック様式の装飾、手回し式のレトロ感。中世時代の謎の楽器から紡ぎ出される異界の旋律は、灰野の手にかかると無限の可能性に満ちた魔法の箱になる。これまで3作あるハーディ・ガーディ・ソロCDの第1作。「The 21st Century Hard-Y-Guide-Y Man(21世紀のハードな導きの男)」という英題は"魂の司祭"と呼ばれる灰野の全作品に共通する。
こんなになってもまだ考えている The 21st Century Hard-Y-Guide-Y Man - Even Now, Still I Think
CD: J-Factory – TKCF-77023 (24 Jun 1998)
憂いを帯びている 紫の黄昏に
誘われて みようか
それとも 紡ぎ出される 沈黙(しじま)を
待つことに しようか
ハーディ・ガーディ・ソロ第2段。徳間ジャパンからのリリース。73分ノンストップのハーディ・ガーディ演奏は、筆者にとって灰野の全作品中もっとも聴き通すのに覚悟を要するCDと言える。かつて法政大学学生会館で觀た不失者の8時間ライヴの中盤の爆音ハーディ・ガーディ演奏中、朦朧とした意識の中で地獄絵図さながらの悪夢に襲われたトラウマが蘇る。しかしそれは同時に抵抗できない甘美な体験だったことも間違いない。
一度すべての言葉を捨てよう、祈るがあふれて来られるように Abandon All Words At A Stroke, So That Prayer Can Come Spilling Out
2CD: Alien8 Recordings – ALIENCD27 (19 May 2001)
Disc 1: Hurdy-gurdy
Disc 2: Electronic percussion
終局という名のこの香しい響きをどこに投げ入れれば
あっち側からの目覚めを引き寄せることが出来るの?
Whereto Can I Cast Away This Fragrant Echo Called The End, So That I May Summon An Awakening From The Other Side?
君を引き裂くことに決めた
君が闇になってしまうか輝きになるかは君次第 君はどっちかな
I Have Decided To Tear You To Pieces. Whether You Become Light Or Darkness Depends On You. I Wonder, Which Shall You Choose?
前半(Disc1)がハーディ・ガーディ、後半(Disc2)がエレクトロニック・パーカッションによるライヴ録音。どちらも闇の中で囁くような気配の演奏で、タイトル通り「祈り」が溢れてくる。特に他ではDisc2はパーカッションの電気的波動に彩られた灰野ワールドが堪能できる唯一の音源である。
宇宙に 絡みついてる 我が痛み Uchu Ni Karami Tsuiteiru Waga Itami
P.S.F. Records – PSFD-8020 (10 Mar 2005)
あやうく あっちに いってしまいそうだった
こぼれ落ちそうな 時の記憶を 胸に抱いたままで
ひとつと 呼ばれてしまっていることと
次の ひとつと 呼ばれてしまっていることとの 間に
たたずみ続けている こわがりの今
「もはや ここには もう二度と
全てが 生まれてくることのないことを 望む」と
彼等が祈り
それだけが 本当に たったひとつの 答えならば
『自爆する』 という行為は
此処の時間の内に 浮かび上がって来るだろう
---寓意的な誤解の章 より----
エアシンセのみによる唯一の作品。テレミンの原理をシンセサイザーに応用し手を翳すことでサウンドが変化するエアシンセこそ、灰野の司祭的イメージを最大限に発揮する。視覚的要素を廃した音だけのエアシンセは意外なほどダイナミズムを誇示せず魂の奥底に沈殿した気のわだかまりを撹乱し拡散する効能がある。
これが未だに誰にも知らされていない
生きながらにして意識を消失してしまうやり方
Reveal'd To None As Yet - An Expedience To Utterly Vanish Consciousness While Still Alive
2CD: aRCHIVE – archive14+15, Important Records – imprec074 (01 Jan 2006)
CD1: Electronics
CD2: Hurdy-gurdy
深遠なる今の果てに宿る時間軸の一時的な凍結
A Temporary Freezing Of The Time Axis That Turns At The End Of This Profound Now
ここのこの香りを抱きしめながら
「この与えられた形を使い切る」と言って
宇宙に滲んでゆくもの
次はどこにどのような形になり
編み出されるものやら
That, Which While Enfolding This Now And Present Perfume, Speaks, "I Will Use To The Fullest Extent This Form Bestowed Upon Me" And Blurs Into The Firmament - Ah, Where And In What Form Will It Next Be Devised
2005年4月7日六本木スーパーデラックスでのエレクトロニクス&ハーディ・ガーディ・ライヴの完全録音盤。Disc1はエアシンセとエレクトロニクス、Disc2はハーディ・ガーディ。ライヴ空間のリヴァーブ効果を活かした広がりと深みのあるサウンドは、前作と異なり外部のあらゆる事象を混濁した体内に取り込むデトックス効果がある。
21st Feb.2008
DVD: Purple Trap – PURPLE TRAP 001 (2008)
2008年2月21日小岩eM SEVENでのソロ・ライヴDVD。収録時間53分の前半がエアシンセ、後半がギターによる演奏。ジャケット通り暗闇にシルエットが浮かび上がり、髪の毛が雨のように光る神秘的な映像。手や身体の慄きや震えがそのままサウンド化する様子がダイレクトに伝わる映像は、2008年横浜トリエンナーレに出品され、2017年映画『サラバ静寂』で使われた。
こいつから 失せたいための はかりごと
P.S.F. Records – PSFD-8029 (15 Oct 2008)
ハーディ・ガーディ・ソロ「The 21st Century Hard-Y-Guide-Y Man」第3弾。2017年11月7日中野Plan Bでの石原志保独舞「昭和の体重」其の六でのライヴ録音。冒頭で聴かれる風の中の摩擦音は、魂の奥底への侵入ではなく、聴覚細胞を再醒する自然音に聴こえる。起伏に飛んだモノローグは、舞踏の伴奏という背景もあるが、これまでの作品が邪神降臨の儀式だとしたら、本作で収穫祭の境地に至ったのではなかろうか。
電子楽器
伝統楽器
異能体験
Photo by Kazuyuki Funaki
明日開催!
7月23日(月)東京 KOENJI HIGH
KOENJI HIGH 10th ANNIVERSARY
灰野敬二 エレクトロニクス&ハーディ・ガーディ・ソロ
KOENJI HIGH 10周年企画として、KOENJI HIGHで初の灰野敬二ソロ・ワンマン・ライヴを開催する。ソロ、グループ、コラボレーションなど多様な形態で国際的に活動を展開し、様々な楽器・機材の性能を独自の演奏技術で極限まで引き出す灰野のパフォーマンスの中でも、特異性が際立つエレクトロニクスと、楽器の特殊性ゆえに滅多に観ることの出来ないハーディ・ガーディを中心としたライヴは、音楽の秘密を露にする貴重な体験となるに違いない。
open/start 19:00/19:30
adv/door 4300円/4800円+1D
-Live-
灰野敬二
-チケット-
KOENJI HIGH電話予約 tel.03-5378-0382 (受付時間 17:00-22:00)
当日券あり
-入場順-
1.KOENJI HIGH店頭
2.e+
3.当日券
ハーディーガーディーの音もすごかったのですが、
灰野さんの声が本当に凄くてこんなボーカリストがいるんだと衝撃を受けました。
灰野さんのエレクトロなアルバム出てほしいです。
Stones Throw Recordsあたりから。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=128&v=ZQoJpVhLfKo
https://www.youtube.com/watch?v=uT20aS-NvOo
とはいえ私がオリヴェロスを知ったのはごく最近で、最後の来日となった2005年当時は現代音楽にも電子音楽にも興味のないボンクラでした。
http://d.hatena.ne.jp/crossovers/
これ、いまだったら金沢だろうが沖縄だろうが北海道だろうが絶対行くのになあ! と切歯扼腕しても、彼女はもう彼岸の人です。
というわけで、こういう後悔をしないために難波ベアーズまで足を運んでまいりました。「昔、ベアーズって有名なライヴハウスあったんだけど、行きたかったんだよなあ・・」と愚痴るジジイにはなりたくないので。
で、内容はというと、まず一発目のエアシンセの音が凶暴過ぎた! なにあれ? ベアーズという魔窟に棲むゲニウス・ロキが、呪われたエフェクトをかけたとしか思えない。とにかく凄かった。
ライヴ全体の印象を端的にいうと、宇宙とタイマン張った灰野さんが問答無用で圧勝したという感じでしょうか。灰野さんがだんだん宇宙に、宇宙がどんどん灰野さんに近づいて、がっぷり四つに組んだ末灰野さんの圧勝。その闘いをポカーンと、涎垂らしながら観てた感じ。
そして今回の関西行きのもうひとつの収穫は、ある女性のInstagramを発見したことです。
https://www.instagram.com/p/BnBvNO8BSfd/?taken-by=stopfishing_
これには本当に瞠目しました。この人、Forever Recordsの東瀬戸氏に連れられて楽屋に挨拶に来ていた16歳の女子高生(!)の方なんですが、PAやハコの鳴りまで含めたライヴ音響の分析力、そしてそれを文章で伝える際のヴィヴィッドな表現力、まったくもって素晴らしく、僕の駄文では太刀打ちできないので、是非彼女のライヴレポを読んでください(興味を持たれた方はツイッターも覗いてみてください。ライヴ通いの足マメさと、リスナーとしての感度の高さと、音楽知識の幅広さに驚くはずです)。
安倍政権(て書くのも不快だけど)は最低に最低ですが、こんな16歳がいるんなら日本はまだまだ大丈夫だな、と少しだけ元気を貰った関西遠征でした。
最後にPAの保海さん! お会いできて本当に光栄でした。サインは家宝として永久保存します。