A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【地下音楽の新たな波】ノイエ・シズオカ・ヴェレ ~atomicfarm(アトミックファーム)の新作2作『utaneue(うたのいえ)』『usoneue(うそのいえ)』を聴く。

2020年05月20日 01時21分24秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


Neue Shidzuoka Welle - Aus Grün Atomic Ranch
~ノイエ・シズオカ・ヴェレ(新しい静岡の波) - 緑色の原子の牧場から


atomicfarm(アトミックファーム)は静岡で2010年に当時19歳の女性もよぽん(vo.b)と41歳の男性もたん(g)を中心に原子力牧場という名前で活動を開始した。地元でライヴ活動をしつつ自主制作CDRをネットを通じて配給。偶々入手した1stアルバム『原子力牧場I』は70'sハードロックと80's日本のニューウェイヴを通過しつつ、マヘルシャラルハッシュバズや初期ゆらゆら帝国に通じる裏日本的妖怪気質が幽かに漂う、しかしながら100%ポップに振り切れた快作だった。⇒静岡から奇才バンド登場!~原子力牧場「原子力牧場I」

徐々に話題になり東京にも年数回ライヴで訪れるようになった。GS/ガレージ系ガールズバンドのイベント出演も多く、当時ガレージ女子にぞっこんだった筆者とっては一挙両得だったが、雑多な音楽要素と内に秘めた情念を捻じれたポップに込める彼らのサウンドとスタンスは、前向きなR&Rで突っ走るガレージパンクとは別次元だった。その異物感は、2015年にatomicfarmと改名してサザナミレーベルから全国デビューした後も変わらない。前作から3年ぶりの3rdアルバムが、エレキ盤『utaneue』とアコースティック盤『usoneue』の2バージョンでリリースされると聞いたときには、正直言って驚いた。地上・地下含め日本のロックの流れとシンクロしない突然変異種であり、ネオアコ/ガレージ/パンク/サイケ/プログレ/アイドルロックetc.どの売り場に置いても居心地の悪いホームレス感。コロナ禍の緊急事態で同調圧力が異様に高まる中、彼らのような反乱分子、反動主義、異議申し立ての作品を世に出そうとする支援者がいるという事実は、ポストコロナの世界に向けての希望の光である。

”異議申し立て”と書いたが、それはあくまで傍観者側の視点であり、主体であるもよぽん、もたん、こうずけ(ds)の三人には、世界に挑戦状を叩きつけようなどという気負いは全くない。極めて自然体の音と言葉の異種交配から生まれる歌の子供たち。デビュー当時に感じたハードロックやニューウェイヴ色は見事に消化・吸収・代謝され、表面上には現れない。代わりに音の狭間から気泡のように湧き上がるフォークとジャズとエスノの香りは、聴覚に留まることなく、耳の奥から脳髄に滲み亘り、血液中に流れ込む。吸収されず未消化のまま身体を巡り続ける音の残滓の痼(しこり)は、裏を返せば社会に順応することを良しとしない地下生活者の勲章と言えるだろう。

●atomicfarm『utaneue』DIW/Sazanami SZDW-1082


エレキ盤、とはいってもデビュー当時標榜していたShock Pop/Venom Rockバンドはここにはいない。激しいビートやラウドなロックではなく、飄々としたフォーキーなジャズロックという感触。ジャジーなフレットレスベースとクリアな音色のギター、ビート感より歌心を重視するドラムに、幼児のキュートさと老女のドゥームさを兼ねそなえた両性具有ヴォーカルが重なるドリームポップは聴きやすいが、進むにつれて墓場の鬼太郎の世界へ迷い込むような浮遊感に包まれる。さり気なく超絶テクニックを誇示するギターや、非共鳴和音のコーラスのレイヤーは、行き過ぎることを恐れない地下音楽精神の発露と言える。

【Trailer】atomicfarm / utaneue **5/20 on sale!!DIW/Sazanami SZDW-1083

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●atomicfarm『usoneue』


アコースティック盤。ヴォーカル曲の間にインストナンバーがサンドイッチされたコンセプチュアルな構成になっている。アコギやジャンベを使った演奏は確かにアコースティックだが、いわゆるアンプラグドとは全く異なり、ライヴでは再現できない実験やエスニックな冒険に挑戦した"Other Side of atomicfarm"を提示している。音数が少ない分、詩情豊かなもよぽんのヴォーカルが強調され、カネコアヤノや角銅真実を思わせる部分もある。感情の起伏の穏やかさで考えれば、こちらのほうが万人向けかもしれない。ただしサブリミナルな中毒度は高いので要注意。

【Trailer】atomicfarm / usoneue **5/20 on sale!!

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静岡県は、ノイズユニット庭や轟音サイケバンドUp-Tightなど、一癖ある地下音楽が育まれる土地であり、80年代からCurrent 93やNurse With Woundといった秘境インダストリアル/リチュアル系の大御所と繋がりのあったバンドMagic Lantern Cycle(MLC)を生んだ土地である。どこにも収まり切れないatomicfarmの音楽は、この土地だからこそ生まれ得た奇跡と言えるだろう。もよぽんの描く奇妙な物語と変幻自在のヴォーカルは、まさしくMLCの世界を継承している。80年代にドイツでDAF、Palais Schaumburg、Der Plan、Einstürzende Neubautenなどが推進した新たなパンク、ニューウェイヴの波を意味するノイエ・ドイチェ・ヴェレ(Neue Deutsche Welle, N.D.W)のように、atomocfarmが起こした静岡の新しい波(ノイエ・シズオカ・ヴェレ)が、徐々に世界中に滲み亘る未来が楽しみだ。

atomicfarm公式サイト

【参考動画】
Magick Lantern Cycle - Cities Of The Red Night


Plan - Space Bob


Einstürzende Neubauten (Halber Mensch 1985) [01] Armenia


この二枚
聴けばあなたも
アトミックファーム市民

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