A Challenge To Fate

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【今、日本のフリー・ジャズを聴く】吉沢元治『インランド・フィッシュ』新装ライナー

2015年04月06日 00時15分15秒 | 素晴らしき変態音楽



高校時代、ブラスバンド部でサックスを吹いていた。マーチや映画音楽に飽きたらず、ラジオで聴いた渡辺貞夫に憧れて、ジャズの教則本を買ってきたが、譜面通りに演奏するのがもどかしい。そんなときサン・ラやアルバート・アイラーに出会い「好き勝手にやっていいんだ」と勘違いして、バリトン・サックスのフリークトーンでブラバン仲間の顰蹙を買った。

大学に進むと中古のアルト・サックスを手に入れ、吉祥寺のライヴハウス「ぎゃてい」を拠点に出鱈目な即興演奏を始めた。カウンターの後ろの壁に『愛欲人民十時劇場』というLPが飾ってあった。高校時代に東京ロッカーズ系パンクバンドを観に何度か通ったライヴハウス「吉祥寺マイナー」で、夜10時から開催されたシリーズ企画のライヴ演奏を収録したオムニバス・アルバムで、その企画を最後に閉店したマイナー店長の佐藤隆史が設立したインディー・レーベル「ピナコテカ・レコード」から1980年にリリースされた。おまけとして三角に畳んだアルミホイルが入ったEPサイズの封筒が付いており、何だろうと剥がしてみたら、糞の臭いがしたので慌てて元通りに包み直した。

肝心の音の方は、サックスの悲鳴、脱力テクノ、疑似タンゴ、轟音ギター、狂気の叫び声、行方知れずのジャムセッション等、言葉では説明できない陰鬱且つ淫靡なサウンドの集積体。おまけは別として、即座に筆者の愛聴盤になった。

灰野敬二、白石民夫、山崎春美、竹田賢一、工藤冬里といった現在でも活動する地下音楽家に交じって、ピアニストの板橋克郎とのデュオでヴォイス・パフォーマンスをしているのが吉沢元治だった。翌1981年にリリースされたLP『北<NORD>』に阿部薫とのデュオでクレジットされている吉沢元治と同一人物だった。録音時期に5年の隔たりがあるとはいえ、伝説のサックス奏者と魂の交感を繰り広げるストイックな『北<NORD>』と、崩壊寸前の地下音楽の宴で奇声を上げるエキセントリックな『十時劇場』の落差は著しい。(余談だが、ピナコテカ・レコードの2枚目のアルバムは『NORD(ノール)』というノイズユニットの作品だった。)

確かにマイナーは78年の開店当時は普通のジャズ喫茶だったそうだが、有象無象の自称アーティスト連中が出入りするうちに、徐々に解体され崩壊の途を辿ったと言われている。如何わしい魑魅魍魎が跋扈する空間に、正統派フリージャズ演奏家が最後まで関わったことは極めて特異な行為と言えまいか?

それ以降90年代にかけて吉沢は、フリージャズ/即興演奏と並行して地下音楽家との共演を重ね、1990年に三上寛と灰野敬二とのトリオで『平成元年ライブ・上』および『下』の2枚のアルバムを日本一アンダーグラウンドなミュージックショップ「モダーンミュージック」のレーベル「PSFレコード」からリリース。以降も同レーベルからソロ・アルバムを発表するとともに、三上寛や友川カズキといった個性的な詩人歌手のライヴやレコーディングに参加し、フリージャズに留まらないヴァーサタイルな活動を1998年に亡くなるまで続けた。念のために付け加えれば、90年代の諸作には、『北<NORD>』の厳格さと『十時劇場』の奇矯さを融合・昇華した創造性の極みが横溢している。

60年代に誕生し、70年代に隆盛を誇った日本のフリージャズは、80年代を迎えて変貌し、ニューウェイヴ的なアヴァンポップ路線に活路を見出した。その潮流に迎合せず、一匹狼として反主流(オルタナティヴ)の道を歩んだ吉沢の生き方は、多様化する一方の現代に於ける表現者の理想形のひとつに違いない。

得てしてオリジナル解説の鼎談のような70年代の思想潮流の中で語られ、本作『インランド・フィッシュ』(74)、『割れた鏡または化石の鳥』(75)、今回同時再発される『アウトフィット』(76)のいわゆる「ベース・ソロ・インプロヴィゼーション三部作」ばかり評価される吉沢の唯我独尊・独立独歩の活動が本当に花開いたのは80年代以降であることを再認識し、PSFレコードからの『From The Faraway Nearby』(92)、『Empty Hats』(94)、『Play Unlimited』(97)等後期作品により光を当てるべきだというのが筆者の持論である。

そのためには35年間封印したままのアルミホイルを再度開封する必要があるかもしれない。

2015年1月25日 剛田武(JazzTokyo)







フリージャズ
唱えることで
自由になれる?



今、日本のフリー・ジャズを聴く
~豪華執筆陣が語るそれぞれの”フリー・ジャズ”~


現在活躍中のDJやミュージシャンの方々に、各作品にまつわるエッセイや感想文を依頼。 あらためて"今”のリスナーに向けて、日本のフリー・ジャズの魅力を伝えていきます。

●新装書き下ろし。豪華執筆陣(15名)が語る、それぞれの“フリー・ジャズ”
V.A. 『インスピレーション&パワー』: 黒田征太郎(イラストレーター)
阿部 薫 『スタジオセッション1976.3.12』: 橋本徹(音楽プロデューサー/カフェ・アプレミディ)
阿部 薫 『暗い日曜日』: 纐纈雅代(サックス奏者)
阿部 薫 『風に吹かれて』: 上田知華(シンガーソングライター)
阿部 薫、佐藤康和デュオ 『アカシアの雨がやむとき』: 沖野修也(DJ、プロデューサー/Tokyo Jazz Massive)
沖 至 『しらさぎ』:Taigen Kawabe(ロック・ミュージシャン/Bo Ningen)
沖 至 『ミラージュ』: 尾川雄介(DJ、ライター/Deep Jazz Reality)
吉沢元治 『インランド・フィッシュ』: 剛田武(ブロガー、ライター/JazzTokyo)
吉沢元治 『アウトフィット』: 佐藤えりか(ベーシスト)
高木元輝、加古 隆 『パリ日本館コンサート』: 仲野麻紀(音楽家)
高木元輝 『モスラ・フライト』: 橋本孝之(サックス奏者、ギタリスト/.es/ドットエス)
山下洋輔トリオ 『LIVE 1973』: イリシット・ツボイ(DJ、プロデューサー)
富樫雅彦、佐藤允彦 『双晶』: スガダイロー(ピアニスト)
豊住芳三郎 『サブ=メッセージ・トゥ・シカゴ』: 大塚広子(DJ、ライター)
豊住芳三郎 『藻』: 美川俊治(ノイジシャン/非常階段、Incapacitants)

【完全初回受注生産限定盤】
・紙ジャケット仕様
・オリジナルのライナーで作品解説付
・オリジナルの帯復刻
・総合監修:Kenny稲岡
・協力 尾川雄介(Deep Jazz Reality)
2015年4月8日 15タイトルが一挙発売!
【集中連載】70年代フリージャズの動向・後編『今、日本のフリージャズを聴く』


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3 コメント

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Unknown (プッカホワイト14世)
2015-04-06 06:40:24
これ、アナログもっているんですが、CD買おうかな。このシリーズ、ライナーで新たな視点を与えるというところがいいですよね。
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ライナー (miro)
2015-04-06 18:05:22
プッカホワイト14世さま

ありがとうございます。美川さんや橋本さんのライナーも面白そうですね。ブッカさんも機会があれば。。
返信する
名盤! ()
2015-04-06 22:11:27
名盤ですね。いつかアナログで手に入れたいと思っているのですが。

最終トラックで不失者の小沢さんを想起しました。
色んなとこでつながっているなと思いました。
返信する

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