A Challenge To Fate

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【地下音楽への招待】LLEレーベル特集 第3回:ジャジー・サイド・オブ・LLE:実吉國盛UNIT/宇江須文左衛門GROUP/Kaleidoscope

2020年01月19日 02時45分54秒 | 素晴らしき変態音楽


創造的ミュージシャンのネットワークとして年齢や経験を問わず様々な演奏家が集まったLLEは後にプログレッシヴロック専門誌となった音楽雑誌『Marquee Moon』が宣伝・配給を協力していたため、プログレやアングラロックのイメージが強いが、一方でジャズや即興音楽に特化した活動も盛んだった。筆者がことあるごとに触れて来た<地下ロックと地下ジャズの近そうで実は遠い関係>が、ほぼ同一線上に並んだ希有なレーベルがLLEだった。その意味では、アンダーグラウンド・ロックの象徴・灰野敬二やノイズ・インダストリアルの先駆者NORD等と同時に阿部薫の弟子と言われる即興サックス奏者・芳賀隆夫のアルバムをリリースしていたピナコテカレコードと共通した精神がある。

TAKAO HAGA 芳賀隆夫 - A. Piyo


ピナコテカのオーナー佐藤隆史はフリージャズが好きで、1978年にジャズ喫茶として吉祥寺マイナーを開店。約1年後に「Free Music Box」と名乗って逸脱的・解体的・混沌的な音楽創造の場に変わって以降も、吉沢元治や板橋克郎などフリージャズ系ミュージシャンが出演していた。同様にLLEの創設者のひとりである実吉國盛は即興ジャズ・トランペッターであり、LLEに集まったミュージシャンの中にもフリージャズ志向の演奏家がいた。さらに注目すべきは、参加ミュージシャンの間でジャンルを超えた交流が行われたことである。ロック志向のミュージシャンがフリージャズとセッションしたり、ジャズのプレイヤーがプログレバンドに参加したりと、自由な交配によりユニークな音楽が産まれた。オムニバス盤『LUBB-DUPP 精神工学様変容II』にフリージャズユニット犬狼都市(キュノポリス)が収録されたことに象徴されるように、LLEでは当初からフリーミュージック、フリージャズ、ロック、プログレなど異なる体質を持つ音楽家同士が、音楽を意識し合い、広い意味での音楽制作を行うことが目的だったという。そんなLLEのJazzy Sideを代表する2枚のアルバムを紹介しよう。

●Kunimori Saneyoshi Unit ‎/ Free Association LLE Label ‎– LLE/IMI-1004 1982


実吉國盛(tp), 石井千尋(ds), 原宏樹(p), 宇江須文左衛門(g), 細田茂美(g), 嶋田博之(b)

A1 Made In J. J.
A2 R. Army Poisened Pie Drums – Senjin Ishii
A3 Inner Switch Guitar – Wess Monzaemon
A4 All Work And No Play Makes Jack A Dull Boy Piano – Hiroki Hara
B1 Scissorstone Guitar – Shigeyoshi Hosoda
B2 Uncle A.A. N.Y. River Piano – Hiroki Hara
B3 The Far East Bass – Hiroyuki Shimada
B4 So What Why Not

LLEはコンサートシリーズ『精神工学様変容』の他に、『IMI=Improvisation Music Institution』と『DUAL COSMOS』というふたつの企画コンサートを企画していた。LLEの中心メンバー実吉國盛のリーダー・アルバムとして制作された本作『Free Association(自由連想法)』では、曲ごとに異なる楽器プレイヤーを迎えデュオ演奏を繰り広げる。実吉のトランペットは、極端に先鋭的なプレイを避け、共演者の個性を活かす包容力のある演奏を聴かせる。70年代終わりにINCUSやFMPといったヨーロピアン・フリーミュージックのレコードの日本盤が発売され、アメリカのフリージャズとは異なるシリアスかつストイックな演奏が一部のミュージシャンやファンやファンに衝撃を与えた。実吉たちも影響を受けたことは確かだが、お互いをリスペクトする「和の心」が感じられる演奏は極めて日本的である。個人的には細田茂美のオブジェ感のあるギタープレイB1や原宏樹のスケールの大きいピアノ演奏A4,B2、何よりも実吉のトランペットの多重録音デュオB4が気に入っている。ちなみに『IMI』とは、より個人的な音楽、まだ未分化の音を自由に発表する場とのこと。しかしレーベル名に『IMI』と入った作品はこれ1作のみである。実吉國盛は俳優として活動し、現在は「ちゃんサネ」という芸名で鹿児島でタレントとして司会・ナレーター等の活動をしつつ、Art Scramble Of Kagoshima名義で演奏活動も行っているようだ。

アート・スクランブル・オブ・カゴシマ

Art Scramble Of Kagoshima:実吉国盛(Trumpet,ちゃんサネ,etc...)/内薗恵理子(Piano,Keyboard,etc…)/森田孝一郎(Drums, Percussions,etc...)


●宇江須文左衛門Group/Kaleidoscope / ‎Dual Cosmos LLE Label ‎– LLE-1002 1982


WES SIDE:宇江須文左衛門Group
A1 Dizzy
A2 I Remember Bird

KALEIDO SIDE:Kaleidoscope
B1 Empty Storm
B2 Halcion Drift
B3 Product Mix
B4 Praha Lady

『DUAL COSMOS』とは2つのバンドの演奏時間を拡大した私的なコンサートである。名前からしてジャズ好き以外何者でもない宇江須文左衛門(as,ss,g)を中心にしたクインテットバンド宇江須文左衛門GROUPと、サックス奏者・山崎慎一郎を核とするジャズロックバンド、カレイド・スコープによるスプリット・アルバム。案山子の写真が懐かしくも宇宙的なスケールを感じさせる。当時荻窪グッドマンや吉祥寺GATTYで宇江須の演奏を観たが、ジャズ・ギタリストのウェス・モンゴメリーをもじった名前に反してギターではなくサックスで、過激なフリージャズでもラウンジ・リザーズのようなフェイクジャズでもなく、比較的真っ当なジャズコンボだったと記憶している。このアルバムでは、シンセの電子音が飛び交うモンド感と、某有名ロックナンバーのフレーズが飛出す遊び心が面白い。カレイド・スコープは後期ソフト・マシーンやブラッフォードに通じるジャズロックだが、逸脱する山崎のサックスプレイがスリリング。プログレバンド、ネガスフィアのキーボード奏者・川崎薫が参加。
山崎慎一郎は現在も即興演奏家として精力的に活動している。宇江須文左衛門は暫く荻窪グッドマンを中心に活動していたが、現在の消息は不明。

宇江須文左衛門 Group / Kaleidoscope - Dual Cosmos (1982, LLE Label) full album


全てがスピードアップした現代に聴くとLLEの大らかな即興ジャズは、コンピューターの喧噪から逃れるリゾートミュージックかもしれない。DIYインプロ精神の発露が正しく結晶したダイヤモンドの原石である。

ジャズるには
自由な心
あればいい

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