関西はアーント・サリー(PHEW)、少年ナイフ、赤痢、メスカリンドライヴなど個性派女子バンドの産地という印象があるが、今年全国デビューした二つのバンドも他には無いアイデンティティをもったWILD WILD WEST女子を擁する女子バン界の注目株である。どちらも女子二人フロント+男子ドラマーの混成ユニットというのも少子化時代の落とし子らしい。バンド界では徐々に女性上位時代に移行しているのかもしれない。
●バレンタインズ『バレンタインズ』
大阪の男女混成3ピース脱力系パンクロックバンドの初公式音源!ガールズツインボーカルによるコーラスワークの妙と、スカム感が漂う演奏が奇跡的に融合した、スウィートでポップな完全一発録り作品!
戸川純のmixiコミュニティで知り合って結成されたという逸話から真っ当なバンドじゃなさそうと予想できるが、その『普通なのに普通じゃない』存在感は、リスナーの常識を大きく覆すものかもしれない。演奏はヘタウマ、というより天然肥料のオーガニック野菜に近い素朴さと素直さが溢れていて、バンドを組んで初めて一曲通しで演奏できた時のトキメキと歓びをみんなに伝えたい、という表現行為の本質に貫かれている。これほど自然なバンド演奏は、シャッグスや少年ナイフに共通するが、パンク衝動をガーリーなメロディで包んだロリポップは、UK女子ギターポップの金字塔ドリー・ミクスチャーに最も近い。1978〜84年に活動したドリー・ミクスチャーが再発見・再評価されるまで20年間埋もれていたように、バレンタインズの素敵な世界を今聴かなければ、年寄りになるまで待つことになるかもしれない。ギタポ好きなら今すぐポチって手に入れるべき。ブックレットの小動物の写真があなたの心をユルめてくれるだろう。
小学校で倣った輪唱を思わせるちょっと投げやりなツインボーカルは"なんでもかんでもやっていいよ"(ハッピーエンド)、"自分の足で探して"(歩く)、"眠っていたい/聞いてたい/キレイでいたい/飛んでいたい"(恋はTHE END)、"会いたくて 会いたくて 会いたくて 眠れない 眠れない 眠れない”(ときめき寝不足)といった単純な言葉の繰り返しが多い。特に、"ポーリエーステールそーざいー"(ポリエステル)の中毒性はハンパなく、今日もTIF2016のステージ間を灼熱の太陽の下歩いて移動するとき頭の中で無限ループしていて、そのおかげで暑さが緩和された気がする。熱中症から身を守る魔法の言葉かもしれない。さっそく夏フェスの転換時のBGMとして流すことを提案したい。
【MV】 バレンタインズ - ハッピーエンド
【Trailer】 バレンタインズ - バレンタインズ
⇒OFFICIAL SITE
●くつした『きのうみたゆめ』
京都の男女混成3ピースインディロックバンドの初公式アルバム!ラモーンズとパフィーの間を目指すと宣言する、パンクでロックンロールな極上ポップチューン満載の衝撃盤!
京都は大阪と一緒くたにされることを嫌がると言われるが、この一足の「くつした」を聞けばその秘密が分かるに違いない。バレンタインズと似た素直な歌だが、脱力感より倦怠感が支配するロックンロールは、古都に生まれてしまったことへの歓びと恨みのアンビバレンツの賜物といえよう。少年ナイフ直系のスピードパンクもふわふわしたヴォーカルの異化作用で、都会の喧噪ではなく哲学の道の新緑のざわめきに聴こえてくる。
興味深いのは、アルバムの前半は現実逃避的なあっけらかんとした歌が多いのが、後半に行くにしたがって仄かな光が見えてきて、「ノーフューチャーノークライ」で諦念の時代に生きる決意をユルく口にして、ラストナンバー「ANOTHER TOWN」ではギターではなくチープなキーボードに乗せて新たな希望が歌われていることである。退廃的な「ヘロイン」に始まり「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」から「ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト(光が見えてきた)」と変化したヴェルヴェット・アンダーグラウンドがニューヨークのロックンロールであるように、くつしたは古都京都のロックンロールと呼んで然るべきだろる。しかし街並は古くてもこのくつしたは、使い古しではなく新品同様。今しか味わえない履き心地を楽しみたい。
【MV】 くつした - きのうみたゆめ
【Trailer】 くつした - きのうみたゆめ
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PVは
どちらも脱力
ゆるふわなう
▼関西女子(スケ)バン少年ナイフ
Shonen Knife - "Jump into the New World" [Official Video]
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