A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【The Art of the Record Groove】レコードの溝の美しさ~バルトーク/レジデンツ/19 JUKE/野鳥/ゾルタン・イェネイ/エヴァン・パーカー/シュトックハウゼンetc.

2020年10月18日 03時01分48秒 | 素晴らしき変態音楽


「米国でアナログレコードの売り上げがCDを上回る」ーー9月10日にアメリカレコード協会(RIAA)が発表したニュースが話題になっている。しかし筆者にとっては、90年代は確かにCDに夢中になったが、常に中古レコード店をチェックしてアナログレコードを買い続けていたし、2000年代に入って以降は完全にレコード中心の音楽ライフを送っている。では筆者はなぜレコードに惹かれるのだろうか?アナログならではの音に温もりがある/レコードをプレイヤーに乗せて針を落ろすという手作業が楽しい/ジャケットが大きくてアートっぽい、などなどいくつかの理由がある。しかしそれ以上に大きな理由は「溝」が好きだからかもしれない。レコードを聴く行為は多分にエロティックな要素がある。レコード盤の中心の穴にターテーブルの突起を挿入する行為はもちろんだが、刻まれた溝を針で摩擦することで音が出るという原理自体がかなり性的である。愛するレコード盤をやさしく愛撫しながら溝の奥の襞のスイートスポットを刺激するダイヤモンド針になりたい、と願うヴァイナル愛好家は少なくないに違いない。

世の中にはレコードの溝を見るだけで収録曲がわかる特殊能力を持つ人がいるらしいが、我々凡人は溝を眺めてその造形を楽しむことしか出来ない。そのために溝を電子顕微鏡で拡大してミクロの世界を楽しむ方法もある。
アナログレコードの魅力に肉薄するフェティッシュな写真集『針と溝』
アナログレコードの溝をプレーヤーの針がうねうね動く様子を顕微鏡で見るとこんな感じ

Electron microscope slow-motion video of vinyl LP


しかし筆者は、そんな特殊器具を使うことなく、肉眼で溝を見るだけで得も言われぬ歓びを享受することが出来る。中古レコード店で検盤(レコード盤の状態を確認すること)するとき、予想外の素晴らしい溝に出くわしたとき、思わず「あはん」という喘ぎ声を漏らしてしまって店員に怪訝な目で見られたことも一二度ではない。そんな「溝フェチ」の筆者が出会ったセクシー(素敵)な溝を持つレコードたちを紹介したい。とはいっても彼らの魅力を写真に写すことは難しい。やはり実際にレコード盤にそっとやさしく手を添えて、宥めたり賺したりしながら、いろんな角度で嘗め回すように視姦することでしか「溝」の魅力は分からないことを前もって申し上げておこう。

●バルトーク Bela Bartok / ミクロコスモス Mickrocosmos
197? / Hungary : Hungaroton ‎– LPX 11405-7 / 3 × Vinyl, LP Box Set


ハンガリーの作曲家バルトーク・ベーラが1926年および1932年から1939年にかけて作曲した全6巻、153曲の小品からなるピアノのための練習曲集。父親のレコード・コレクションの中にあった。3枚のLPに153曲、片面に平均25.5トラックの細かい溝が刻まれているレコード盤を見て、当時中学生だった筆者は、生まれて初めて「溝萌え」を感じた。無味乾燥な練習曲の羅列がシュールな前衛色を帯びて聴こえる。ただし曲ごとにトラック分けされていないレコードもあるので要注意。



Bartok - Mikrokosmos (complete, with score)



●ザ・レジデンツ The Residents / コマーシャル・アルバム Commercial Album
1980 / US : Ralph Records ‎– RZ-8052-L


アメリカの前衛音楽グループ、レジデンツが80年に発表したアルバム。1分間の曲が40曲収録されている。高校の頃一番好きなバンドだったので輸入盤の入荷日に買った。片面20トラックの溝が5曲ずつ均等に整列する構成美は、CMソングというコンセプトに相応しく、規制された工業製品(レディメイド)を意味しているように思える。



Residents - Commercial Album



●19 / Juke
1980 / Japan : LM-1213


現代美術家の大竹伸朗が70年代末に結成した前衛音楽ユニット19 / Jukeの1stアルバム。6秒から2分48秒までの曲がA面26曲、B面19曲収録されている。レジデンツの構成美とは違って溝の幅は様々。レディメイド/ポップアート風のジャケットと好対照をなす。スタジオ録音をずたずたに切り張りしたようなサウンドと共に、筆者の音楽嗜好を方向づけたレコードである。



19/JUKE 'S/T' 1st LP 1980 (FULL ALBUM/COMPLETE) Japan Experimental No Wave Punk



●Jac Holzmon / Authentic Sound Effects vol.6
1964 / US : Elektra ‎– EKS-7256


サウンド・エフェクト(効果音)集。A面20トラック、B面18トラック。30秒前後のスポーツ、乗り物、ストリートノイズなどの音源の中に、メジャーリーグの試合と飛行機の着陸がそれぞれ4分、8分長めに収録。そのため溝が不均衡になっているのが味わい深い。



Jac Holzman ‎– Authentic Sound Effects Volume 6 [12"]



●野鳥の歌 Birds Concert
1969 / Japan : ビクターレコード JV-201-7


最近のマイブームは鳥の鳴き声レコード。メーカー違いで5~6枚集めたが、鳥の種類ごとに分けて片面に12トラックずつ収録された日本野鳥の会収録のこの2枚組がジャケットがシンプルでお気に入り。溝の幅の微妙な違いが、自然の摂理を表しているのかもしれない。



野鳥の歌:谷間に響く:wild bird calls



●Evan Parker ‎/ At The Finger Palace
1980 / US : The Beak Doctor ‎– The Beak Doctor 3, Metalanguage ‎– ML 110


イギリスのフリーミュージック界を代表するサックス奏者エヴァン・パーカーのソプラノサックス・ソロ。1982年に来日、筆者は観に行かなかったが、気になって明大前モダーンミュージックで購入したのが本作。循環呼吸奏法で切れ目なく続く高周波数のフリークトーンはサックスではなく謎の怪鳥の囀りのように聴こえる。写真では分かりにくいが、これほどギザギザで暴力的な溝は他に見たことがない。



Evan Parker - St Michael And All Angels, Chiswick, London, 11 October 2001



●シュトックハウゼン Karlheinz Stockhausen ‎/ ヒムネン<賛歌> Hymnen
1969 / Germany : Deutsche Grammophon ‎– 139 421/22


ドイツの現代作曲家カールハインツ・シュトックハウゼンが1966-7年に制作した電子音楽/ミュージック・コンクレート作品。世界各国の国家を素材に電気変調した長尺作品。片面1トラックの中で、次々と曲調が変化する様がランダムな溝の模様に刻まれていて、見ているだけで世界旅行をしている気分になる。



Karlheinz Stockhausen - HYMNEN (Elektronische und konkrete Musik) Region 1 + 2



●Den Nørrejyske Øs Stororkester For Opløst Mønstermusik
2009 / Denmark : Yoyooyoy ‎– Mønstermusik 01 / 4 × Vinyl, 12", DVDr, DVD-Data


デンマークの即興演奏家集団による音源・素材集LP4枚組。中古レコード店で4枚組で1480円という安値で発見。検盤して溝の面白さに一目ぼれして内容も確かめないで即購入した。400曲がLocked Groove(針が進まないで同じところをリピートする閉じた溝)になっているが、トラックによって1回転~数分と異なっているので、盤面の溝が信じられないほど面白い模様を描いている。音源はアコースティック楽器の即興なので、どこを切っても興味深い。封入されたグラフィックスコアでこの音源を使って作曲ができるらしい。



Stororkester



●Zoltan Jeney / Impho 102/6, Orpheus' Garden, A Hundred Years' Average, End Game
1979 / Hungary : Hungaroton ‎– SLPX 12059


ハンガリーの現代音楽家ゾルタン・イェネイの作品集。Discogsで購入し、届いたレコードを取り出してあまりの美しさに昇天した。A面鐘の合奏/室内楽、B面リングモジュレーター/ピアノ・ソロ、溝が綺麗に二つに分割されている。ミニマルを極めると溝も静寂の色を帯びるのだろう。

 

Zoltán Jeney - A Hundred Years' Average



●Zoltan Jeney / OM
1986 / Hungary : Hungaroton ‎– SLPX 12708


同じくゾルタン・イェネイの超ミニマリズムが100%発揮された超絶作。AB面各26分、2台のオルガンによる反復フレーズが情け容赦なくリピートされる。思考も感情も聴覚以外の五感もすべて無に帰するしかない残酷さは、しかしレコード盤面に刻まれると、上質なビロードかなめし革のように艶のある光沢を放つ。レコードの溝とは思えない滑らかな美肌は”The Art of the Record Groove”(レコードの溝芸術)のひとつの究極に違いない。

 

OM - két elektromos orgonára - 1. rész


溝の中
異能音楽
飼育する

●Burton Greene Quartet / Burton Greene Quartet
1966 / US : ESP Disk ‎– 1024


アメリカのフリージャズ・ピアニスト、バートン・グリーンのデビュー作。Marion Brown(reeds)、Henry Grimes(b)などが参加。82年に手に入れて以来、ESPの中でも5本の指に入るほど好きなアルバム。当時一緒に即興ユニットOther Roomをやっていたギタリストの高島暁(タカシマサトル)君に貸したら「なに、この溝?」と驚かれた。確かに光に透かすと盤面に波打つ模様が浮き出る。しかし、アブストラクトな即興ジャズだから、反復ビートの波動ではないだろう。かと言ってノイズは全く出ないので傷や汚れでもない。他にこんな模様が出てくるレコードはない。何らかの秘密のメッセージが込められているのだろうか?わかる方がいたら教えてください。

 

Burton Greene Quartet - Cluster Quartet
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