A Challenge To Fate

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【地下ジャズ Disc Review】『フランツ・ロリオ/渦巻きながら(Frantz Loriot / While Whirling)』~サディスティックなヴィオラ・ソロ

2022年04月15日 00時53分32秒 | 素晴らしき変態音楽


Frantz Loriot / While Whirling
LP/DL : Thin Wrist Recordings, TW-S

Frantz Loriot : Viola

1. the world lifts the heart
2. while whirling
3. through westless rains
4. on the lawns of insomnia

5. a throbbing whisper
6. smiling with unseen weight
7. those exiled belongings
8. of many others whirling

All music by Frantz Loriot, Viola

Artwork by Mark Younkle
Album and track title poem by Eliot Cardinaux

Recorded and Mixed by Philipp Schaufelberger in Zürich, Switzerland
Mastered by Kevin Gray, Cohearent Audio

Frantz Loriot Official Website
Bandcamp

弓と弦とボディの間で渦巻く音たち
フランツ・ロリオは日系フランス人のヴァイオリニスト。フランス・パリでクラシックと即興音楽を学び、ヨーロッパとニューヨークの即興・実験音楽シーンを中心に、様々なプロジェクトやダンス、映像、演劇、ポエトリー、インスタレーションとのコラボレーションで国際的に活動している。日本の森重靖宗や磯端伸一などとも共演している。

ロサンゼルスのBlack Editions Group(以下BEG)の中のソロ即興音楽専門レーベルThin Wrist Recordingsからリリースされた2枚目のソロ・アルバムが本作。エンボス加工美麗ジャケットに高品位紙のインサートが挿入された装丁は、レコードを商品ではなく美術品と定義するBEGの信念が貫かれている。使った楽器はヴィオラ1本だが、収録された音のヴァラエティは、トレックごとに異なり、まるで8つの異なる楽器または音具を使って製作された音響サンプラー作品のように聴こえる。弓弾きのドローンがミニマルなフレーズに変化する1曲目はヴィオラらしいが、鳥の羽搏きか馬の嘶きのようなM2、溜息がハアハアいう嘆息に変わり、息を潜めた環境音に同化するM3,掘削機のドリル音が鳴ったり止んだりするM4、レコードのカートリッジノイズとスクラッチのM5、高周波パルス音が続くM6、ネジやバネが転がる音に指弾きの弦の音が架空の民俗音楽を奏でるM7、そして1曲目のドローンに変調ノイズが加わるM8からの終わりがないエンディング。弦楽器の形をした音響発生装置と化したヴィオラから生み出された具体音は、演じ手・聴き手ともに余計な抒情に惑わされることなく、音は音として接種(聴取)されうることを詳らかにする。

しかしながら是は機械音や電子音と同じ無機的な変温物質ではない。フランツ・ロリオの超常的に人間的な肉体酷使により生み出された(下記動画参照)渦巻く隠されたエモーションは、詩人でありピアニストでもあるエリオット・カーディノーが創案したタイトルに籠められた詩情が見事に具現化しているのである。

“不眠症の芝生で 西から降る雨の中を渦巻きながら 世界は心を持ち上げる。見えない重さで微笑む脈打つ囁き 追放された多くの人の遺品が渦を巻く。”

FIM - Frantz Loriot (Zürich), Viola


弓と弦とボディの間で渦を巻くのは音楽ではなく人間の情感なのかもしれない。それはあたかも楽器と人間の深い情交である。(2022年4月15日記)

弓を持ち
弦に触れずに
じらしたい

Frantz Loriot : live at A Race In Space 2020



コメント
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