レコード評:宇田川岳夫(フリンジカルチャー研究家)
●春日井直樹&剛田武 - Walk 2020 / 1 / 30
DAYTRIP RECORDS:番号<DTR-LP013> 200枚限定
定価¥2800 (税込)
LP盤(限定100枚のみ3曲入りカセットとQRコードポストカード付)
A1 Walk 2020/1/30 Am11:38-pm12:21
B1 Walk 2020/1/30 Am11:38-pm12:21
Takeshi Goda : Walk, Noise Doll, Baby Duck, Flute-sax
Naoki Kasugai : Walk, Electronics, Noise
*recorded data - 2020/1/30 am 11:38 - pm 12:21
*recorded point - nagoya shi nakaku nishiki from nakaku osu
春日井直樹はデイトリップレコードを主宰する孤高のミュージシャン。その活動歴は長く、かつてはサイケデリックな楽曲に絶望の匂いを染み込ませたサイケデリックデスフォークともいうべき作品を発表したり、80年代メールアートを彷彿させるコラージュワークとデスインダストリアルな音の塊が見事にマッチした架空のサウンドトラックfilmmusicシリーズ、日課としている散歩の際のフィールドレコーディングを素材にして道端に廃棄されたカセットに録音し、廃棄物をコラージュしたパッケージに包んで毎日一回一作品をリリースするWalkシリーズなど、多種多様な音源を発表している。一個一個の音源はスカムな雰囲気でありながらどこかレトロな旧東欧の新聞から切り抜いて来たようなコラージュアートに包まれている事が多く、パッケージを含めて一つ一つがコレクターの心理を刺激する。本作品はWalkシリーズの特別編として、地下音楽愛好家剛田武とのコラボレーションとなっている。2020年1月30日、市街地にコロナウィルスが流行し始めた名古屋の町を春日井と剛田が夢遊病者のように彷徨い、二人の会話らしき肉声と道路を疾走する自動車の騒音や街角の雑踏、剛田の演奏するフルートやサックスとノイズドールやベビーダックといったガジェット、春日井の放つアンビエントでミニマルでありながらもどこかザラついた不安感を醸し出すエレクトロニクスとノイズが、レコードの両面を埋め尽くす。A面は取り止めのない会話から始まり、ノイズドールとベビーダックの高周波のノイズを配しながら、自動車の騒音や春日井の放つ低音のノイズが絡み合って、名古屋の町のだだっ広い道路や人気の消えたオフィス街、鬱蒼とした森を都会に展開する熱田神宮など、名古屋の街頭が脳裏に蘇る。ただしそこに流れている空気は既にウイルスに汚染されていて、何とも言いようの無い不安感が聴く者にのしかかって行く。B面はより暗く重さを増した電子音の反復に加えて、軽やかなフルートの演奏とフリーフォームなサックスの演奏が響き渡り、混沌とした風景は大須観音商店街の一角にあるケバブ料理屋やイスラム教徒の経営する雑貨店といったアジア的な無国籍の光景を見ているようだ。個人的にはB面の展開がより重々しく暗さを増し、その後に降りかかるであろう厄災の予兆のように聞こえて、80年代のMBの作品Symphony for Genocideを思い起こすような箇所もあり、非常に楽しめた。
●春日井直樹&剛田武 - Walk 特典カセット
A-1 Walk remix remixed by DJ Necronomicon 2020/4/25
A-2 Euqisumorih 1981 Mix taken from “Hiromisique”(1981/4) and “You KISS Molly”(1981/9)
B-1 Dual Improvisation Bogus recorded in Goda’s room 2020/1/26 & 2020/4/25
A-1はアルバムをサンプリングしたDJ Necronomicon aka Takeshi Goda によるDJプレイ。フリーフォームな演奏とストリートノイズ、地下アイドルなどの自由自在なサウンドコラージュ。
A-2は剛田武の80年代音楽へのオマージュに満ちた作品。自らの演奏になるであろうサイケからパンクスピリッツ溢れるギター、TGやストーンズなど若き日の剛田の心の裡に鳴り響いて止まない音楽、フリーフォームなフルートサックスの演奏は一瞬阿部薫を思い起こさせる。そういった様々な音源は遠き日の日曜日の午後のモダーンミュージックの西陽に照らされた店内に流れていたようでもあるし、吉祥寺マイナーの黒づくめの内装やギャッティのまばらな観客に向かって激しくドラムを打ち鳴らすドラマーだった秋田昌美や、その後ろでドリンクの注文をとったりしていた剛田武の気配さえ浮かんでくる。一瞬パワーエレクトロニクス的展開もあり、曲調は千変万化するのだが、なぜか全体はCome Orgの作品のようだ。
B-1はおそらくフリーフォームなインプロビゼーションを行ったものを合成して出来たトラック。ここで剛田のフルートサックスの演奏が聞けるのだが、即興演奏したものに後で剛田自身がギターを即興で演奏して、全体としての曲を構成しているようだ。ほんの一瞬だが80年代初頭に阿部薫とデレク・ベイリーがアケタの店で共演しているとしたらこのような光景が脳裏に浮かび上がり、脳内麻薬が滲み出るような感覚があったが、何処かの血管が切れたのかもしれない。
個人的にはA-2が楽しく聞けた。
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Naoki Kasugai(春日井直樹) / Takeshi Goda(剛田武)– Walk 2020 / 1 / 30
●春日井直樹 - VINYL MASOCHISM
DAYTRIP RECORDS:番号<DTR-LP012> 30枚限定
定価¥1000 (税込)
LP盤
これはレコードの形をした春日井直樹のコラージュアートである。昭和戦前から戦後の雑誌や新聞から切り抜かれた写真や文章が春日井直樹のマニアックな感性によって、1ミクロンの隙もなく配置され、貼り付けられ、紐で縛られている。紐はレコードジャケットを貫通してレコードの中心の穴を通っているので、レコードを出そうとすると紐を切らなければならない。取り出してみると、レコードは表面に縦横に傷が付けられ、音を聞くということはできないオブジェとしてのレコードであった。音のしないレコード。まさに80年代メールアートが40年の時を経て復活したような気にさせてくれる。MBもメルツバウもかつてのスカムなコラージュワークは陰を潜めてしまった現在では、春日井直樹の活動に期待したい。
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これらの素晴らしい作品を作りあげた春日井直樹そして奇跡のコラボを見せた剛田武に深い感謝を捧げたい。君たちの作品はパンデミックの中で生き延びる希望を与えてくれる。私はこの作品をステイホーム中の我が家のリビングにあるターンテーブルに乗せて、音量をいささか高めにして聴きたいと思っているが家族の理解が得られるかどうか心配なのでミキサーからヘッドフォンでモニターしながらこの文章を書いた。
春日井直樹と剛田武の作品は心ある者にはぜひ購入して欲しい。
レコードは
聴けば聴くほど
味が出る