A Challenge To Fate

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【地下ジャズDisc Review】レント・ロムス・ライフス・ブラッド・アンサンブル&ヴィニー・ゴリア / サイド・スリー:ニュー・ワーク

2019年03月07日 08時37分48秒 | 素晴らしき変態音楽


Rent Romus' Life's Blood Ensemble with Vinny Golia / side three: New Work
CD/DL : Edgetone Records EDT4202

http://www.edgetonerecords.com/catalog/4202.html
https://edgetonerecords.bandcamp.com/album/side-three-new-work

Timothy Orr, drums, percussion
Safa Shokrai, double bass
Max Judelson, double bass
Mark Clifford, vibraphone
Rent Romus, alto saxophone
Heikki "Mike" Koskinen, e-trumpet
Joshua Marshall, tenor & soprano saxophone
featuring special guest Vinny Golia, baritone & sopranino saxophones, alto flute

1.The Humming of Trees
2.Cosmovision
3.Area 52
4.Three Rites of Recombinance, Movement I - Fred Moten
5.Three Rites of Recombinance, Movement II - Jamie Delano
6.Three Rites of Recombinance, Movement III - A.A. Attanasio
7.Downbeat for the Forgotten

Recorded: May 12, 2018 by John Finkbiener at New, Improved Recording Oakland California
Cover art: “Three” ink on canvas by Collette McCaslin
Photo: Ryan Pate
Special thanks to Suki O’Kane

伝統主義と前衛思想と奇妙イズムの三面体

2018年5月カリフォルニア州アルバニーのIvy Roomでドラマー/パーカッション奏者のSuki O’Kaneのキュレーションによるレジデンシー公演が開催された。その最後のライヴがレント・ロムスのライフス・ブラッド・アンサンブルにゲストとしてマルチ木管奏者のヴィニー・ゴリアを迎えた『三面:新作品』と題されたこのアルバムになった。60年代末~70年代の映画や市民権運動、映像ポエトリー、サイエンス・フィクションなど様々なものにインスパイアされたオリジナル楽曲が折衷的にクロスするこの録音にふさわしいタイトルである。

ヴィニー・ゴリアは1946年3月1日ニューヨーク・ブロンクス生まれ。作曲家として映画音楽を中心に活躍する一方、マルチ木管楽器奏者としてアヴァンギャルド・ジャズ・シーンで活動している。その活動は1982年に結成したヴィニー・ゴリア・ラージ・アンサンブルから、様々な混在五重奏曲、サックス四重奏団、デュオ、セクステット、そしてジャズとクラシックのオーケストラのアレンジまで幅広い。1977年に自分のレーベルNine Windsを設立し、自分のプロジェクトを中心にリリースしている。

近年はロサンゼルスのフリー・ミュージック・シーンのミュージシャンからなるヴィニー・ゴリア・セクステットVinny Golia(woodwinds)、Gavin Templeton(アルトサックス)、Daniel Rosenboom(トランペット)、Alexander Noice(ギター)、Andrew Lessman(ドラム)、Jon Armstrong(ベース)を率いて、サンフランシスコのOutsound New Music Summitやニューヨークのストーン等で活動している。

2010年10月にサンフランシスコのミュージシャンズ・ユニオン・ホールでレント・ロムス率いるローズ・オブ・アウトランドとヴィニー・ゴリアが共演した。その模様は2011年にEdgetoneレコードからRent Romus' Lords of Outland w/ Vinny Golia名義で『Edge Of Dark』としてリリースされた。ロムスのアルト、フルートに、CJ Borosqueのトランペットとエレクトロニクス、そこにゴリアのソプラノが絡むアンサンブルは、フリー・インプロヴィゼーションではあるが、イディオムの解体に執着することなく、音と音が呼吸を重寝るような、協調した自由旋律の遊び場であった。

フリー・インプロヴィゼーションを主眼とするローズ・オブ・アウトランドに比べ、オーソドックスなフォルムのコンポジションも演奏するライフス・ブラッド・アンサンブルは、作曲家でもあるゴリアにとってより親和性のある環境と言えるかもしれない。

冒頭の「The Humming of Trees(木々のハミング)」のロムスのアルト、ジョシュア・マーシャルのテナー、ヘイッキ・コスキネンのE-トランペットにゴリアのバリトンが加わった四管アンサンブルによる厚みのあるテーマは、モード・ジャズの伝統を引き継ぐオーセンティックな響きがある。

もちろん正統主義に留まらないのが「Weirdness(奇異さ)」を座右の銘とするロムスたち異端主義者の生命の血筋(Life’s Blood)である。前作『Rogue Star』で宇宙空間を拡張する効果を発揮したマーク・クリフォードの ヴィブラフォンの端正な響きに導かれて管楽器と二本のベースが淡々とソロを紡ぐ「Cosmovision(宇宙世界観)」、ロムスのラリって足元が覚束ないフレージングが渦巻く「Area 52(地域52)」は、サン・ラと彼の銀河研究団の『太陽中心世界』や『世紀の終焉』を進化させる逸脱スウィング・ジャズ。

「Three Rites of Recombinance(組換えの三つの儀式)」と題された三楽章のミニ組曲では、フレッド・モートン(黒人詩人)、ジェイミー・ディラーノ(イギリスの作家、アメリカン・コミックスHellblazerの原作者)、A・A・アタナシオ(米作家)の三人の文学者にインスパイアされた物語/映像/音響の三つの断章が提示され、アルバム・タイトルの『三面』性をミニマルな視点で再構築する。

追尾を飾る「Downbeat for the Forgotten(忘れられたものへのダウンビート)」では、ダウナーなファンクリズムに合わせて享楽的な管楽器のソロがあたかもドルフィーとコルトレーンとマリガンとマイルスの四頭コンボのようにくんずほぐれつの叫喚模様を描き出す。而して下品な技の張り合いにならないのは、コンポジションを形而上に置いた血の誓い故であろう。

70年代から続くアメリカ音楽の前衛性を継承するロムスたちの奇妙な音楽は、映画音楽を得意とするゴリアの才能との組換えにより、新たなる第三面へと発芽したのである。

西海岸
地下ジャズ進化
三面記事

Vinny Golia Large Ensemble 9-17-16 Finnish Kaleva Hall

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