【ネクロ魔 瑳里ちゃんの地下音楽への招待 Vol.5】アート編
NECRONOMIDOL 『NEMESIS』
VELOCITRON / Specific Recordings - SPCFC022-2016 (30 Sep 2016)
イラスト:丸尾末広
ネクロ魔のシングルのジャケットは市場大介、駕籠真太郎、千之ナイフ、前田俊夫、長岡建蔵、氏賀Y太といった個性派イラストレイターや漫画家が手がけている。1stアルバム『NEMESIS』のジャケットは、レトロ/エログロ/怪奇幻想漫画イラストで知られ、THE STALIN、AUTO-MOD、筋肉少女帯、ジョン・ゾーンなどレコードCDジャケットも手がける丸尾末広。ネクロ魔メンバーもファンだと言う。ちょいとサブカル/アングラな芸術が似合う瑳里ちゃんに素敵なアート系ジャケットを紹介してもらおう。
タコ 『TAKO Second (LIVE)』
Chaos - CHAOS 00002 (1984)
イラスト:霜田恵美子
80年代地下音楽シーンを象徴する不定形ユニット「タコ」の2ndリリース。ゲストを多数迎えた企画盤の1stに比べ、EP-4の佐藤薫人や元ガセネタの大里俊晴など固定メンバーによる法政大学学生会館でのライヴ録音の2ndは「タコ」本体の作品と言える。ジャズとも現代音楽とも異なる野性味あふれる実験音響に、痙攣した言葉を吐き出す山崎春美のヴォーカルは、あの時代あの場所あの人々にしか創り出せない地下の香りに満ちている。「草葉の陰から一生呪ってやる」「ごめんなさい、本当にスミマセン」というフレーズは一部の地下音楽愛好家の間の合言葉になった。当時大人気の霜田恵美子のレトロなイラストが見事に時代にハマっている。
タコ 抗体兵
太田蛍一 『太田螢一の人外大魔境』
Yen Records - YLR-28010 (24 Aug 1983)
イラスト・装丁:太田蛍一
戸川純と上野耕治のユニット「ゲルニカ」に作詞とアートワーク担当で参加したイラストレーター太田蛍一のソロ・デビューアルバム。ゲルニカの二人に加え細野晴臣、鈴木慶一、巻上公一などが参加し、ノスタルジックな冒険音楽活劇を展開している。トレードマークのぐにゃり歪んだ人物像はヒカシュー、少年ホームランズ、ハイテクノロジー・スーサイドなどのジャケットにも描かれた。ヨーロッパを中心に海外でも高い人気を誇る。
人外大魔境 1
WHITEHOUSE 『Quality Time.』
Very Friendly - VFSL12 (Nov 1995)
イラスト:Trevor Brown
1980年イギリスでウィリアム・ベネットを中心に結成されたノイズバンド。エレクトロニック・ノイズとヒステリックなヴォイスを組み合わせたパワー・エレクトロニクスと呼ばれるスタイルの創始者。初期はモノクロコピーを貼ったチープなジャケットがトレードマークだったが、90年代以降ジャケットにお金をかけるようになった。イギリスのグラフィックアーティスト、トレヴァー・ブラウンが手がけたジャケットが2作ある。眼帯や包帯をして血を流す少女のグラフィックはアーバンギャルドなどサブカル系にファンが多い。
whitehouse- A Cunt Like You
The Mothers Of Invention『Weasels Ripped My Flesh』
Bizarre Records – MS 2028 (Sep 1970)
イラスト:Neon Park
アメリカのサイケデリック〜ジャズロック〜アヴァンポップの親玉フランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションのアルバム。邦題は『いたち野郎』。アヴァンギャルドな即興演奏を多数含めた前衛ロックは、ザッパの作品中でも人気が高い。男性向け三文雑誌の電気剃刀の広告をパロディにしたジャケットを手がけたのはリトル・フィートのアルバムで有名なイラストレーター、ネオン・パーク。
The Mothers of Invention - Oh No / Orange County Lumber Truck
吉野大作&プロスティテュート 『死ぬまで踊りつづけて』
Japan Record - JAL-15 (1981)
画:山下菊二
80年代横浜オルタネイティヴ・シーンを代表するニューウェイヴバンド。高校の漢文講師でシンガーソング・ライターの吉野大作を中心とする。ザ・ポップ・グループなど同時代の前衛ロックに影響されたアグレッシヴなサウンドは、他の日本のパンク/NWとは一線を画す本物感がある。昭和のシュールレアリズムの代表的画家・山下菊二の絵画『葬列』を使ったジャケットも含め、借り物ではない日本的乱調を讃える卓越したアルバム。
Daisuck & Prostitute - 死ぬまで踊りつづけて
19/JUKE 『JUKE』
No Label - A-011, LM-1213 (1980)
デザイン:大竹伸朗
日本の現代美術を代表するアーティスト大竹伸朗が学生時代に結成したノイズバンド「19/JUKE」のデビュー・アルバム。メンバー表記がなく記号性の高いアートワークは、1分前後の野蛮な即興ノイズ音響が45曲も収録されたレコードと併せてアート性が極めて高いとともに、俺でも出来ると勘違いさせる初期衝動にあふれている。彼らがリリースした4枚のアルバムと1枚のEPは、筆者の現在(地下音楽愛好家/アイドルヲタク)の礎を築いた恩人といえる。
Juke/19 - Under The Moon
A-Musik 『e ku iroju』
Zeitgenossische Musik Disk DI-830 (1984)
イラスト・装丁:ヤギヤスオ
音楽評論家/大正琴演奏家の竹田賢一が80年代初頭に結成した「反ポップ・バンド」の1stアルバム。地下音楽界の有能ミュージシャンが集まって世界の反戦歌や抵抗の歌を演奏するプロジェクト。世界の抵抗歌の歴史や反アメリカ主義を詳細に記したブックレットは驚くほど豪華。中途半端なメジャーよりもインディーの方が遥かに自由であることを証明したアルバム。アートワークはザッパ・フリークのイラストレーター八木康夫(現ヤギヤスオ)。雑誌『Player』の八木の連載「PIPCO'S」は筆者の地下音楽の重要な入門書であった。
A-Musik 不屈の民
多加美 『-天使行- Y.DE NOIR II』
LLE Label - PM1006 (1983)
画:多加美
80年代前半に音楽雑誌『マーキー・ムーン』と恊働してプログレッシヴ/ゴシック/ポジパン/テクノ系の知られざるアーティストの作品を多数リリースした自主レーベルL.L.E.の女性アーティスト多加美の1stアルバム。pneumaによるダークなエレクトロニクスに乗る気紛れなメロディの歌声は「日本のニコ」の異名を持つ。混沌ではなく静謐が支配する世界は多加美自身が描いたカラフルな精神世界のペインティングこそ相応しい。
TAKAMI: Tenshi kou (Y De Noir II) / 01 - Saigo no Yume / LP, 1983, JAPAN
陰猟腐厭 『陰猟腐厭』
cragale records - MB-1003 (1984)
ペン書き:増田直行・原田淳・大山正道
横浜サイケデリックシーンの急先鋒・陰猟腐厭の1stアルバム。全曲即興で展開されるつかみ所のない曲展開は、魑魅魍魎の地下音楽シーンの真の良心と呼びたくなる。真っ白なジャケットで制作したところ「これじゃ売れない」と苦情が来て、メンバー三人が一枚一枚手書きのマジックペンで書き込んだというエピソードは、奇しくも究極の「アンチアート」ジャケット誕生秘話として語り継がれるべき。瑳里ちゃんも気になったようで、撮影終了後お気に入りのジャケットとして選んでくれた。
陰猟腐厭 Inryo fuen - グランド・ロック Ground Rock
瑳里ちゃんは
歌うアートの
博覧会
▼ブログ連載『ネクロ魔 瑳里ちゃんの地下音楽への招待』はこれにて完。未発表写真ありますがご了承ください。