A Challenge To Fate

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【地下音楽入門】第4回:阿部怪異~関西地下音楽の雑種交配から産み落とされた闇鍋音楽

2017年04月05日 01時28分39秒 | 素晴らしき変態音楽


東京で地下音楽の胎動が起こった70年代後半、大阪・京都に置いても特異な地下音楽が発生していた。その詳細な経緯と歴史に関してはJOJO広重、美川俊治他著『非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE』や加藤デヴィッド・ホプキンス著『Dokkiri! Japanese Indies Music 1976-1989 A History and Guide』に詳しいので参照いただきたい。

東西の地下音楽の間には一風変わった交歓模様があった。当時東京の現場「吉祥寺マイナー」と京都の現場「どらっぐすとぅあ」の間を行き来して橋渡し役をしたという工藤冬里の言葉を借りれば「ノイズのコンサートをやって、録音したテープを彼らのところに持っていくと、翌日にはどらっぐすとぅあで、「ナイズ」とかいうパロディ・バンドの録音が完成して、それがまた送られてくるみたいな、そういう対抗(笑)。だから、こっちが何かやると、向こうがパロって、っていう交流があった」という。

80年代初頭にピナコテカからカセットのみでリリースされていた作品『阿部怪異』が、アルケミーレコードから35年ぶりに初CD化された。このアルバムもそのような交歓から産まれたに違いない。同じ関西のユニット『リフォーム』もピナコテカでカセットリリースされており、元マイナー店長で同レーベルのオーナー佐藤隆史が関西シーンに興味を持っていたことも確か。ちなみにピナコテカレコードは(中略)主として資金的な問題と機動性の優先から”(アマルガム#8)カセット作品を制作した。コクシネル&サイイングPトリオ(東京)、阿部怪異(関西)、リフォーム(大阪)、スレドニ・ヴァシュタール(北海道)といった日本の地下音楽に加えて、LAFMS(ロサンゼルス・フリー・ミュージック・ソサイティ)のジョン・ダンカンやトム・レッション、フランスのPPP(Ptôse Production Présente)といった海外アーティストの作品も含まれる。実際のリリースには至らなかったものの、当初は『LAFMSライトバルブ・マガジン』や『YPCインターナショナル・サンプラー』といった海外レーベルとのコラボ作品がカセットでリリース予定されており、世界的なコミュニケーション・ツールとしてカセットが選ばれたことがわかる。(松崎順一編著『ラジカセforフューチャー』掲載「めくるめく地下音楽 幻のカセットレーベルをめぐって/剛田武」より)

その一方で東京に比べて規模が小さいこともあり、関西の地下音楽家同士の交歓はよりプライベート且つ濃厚だったと想像される。どらっぐすとぅあ常連の自宅で行われていたHIDEガレージコンサートを始め、上記の東京のパロディ音源の制作も、常連仲間の密かな楽しみの一環として行われていたのではなかろうか。”どらっぐすとぅあ、そして(天王寺のライヴハウス)マントヒヒに巣食っていた変なバンドの面々が緩くセッション的に集まって音を出していた集団(T.美川『阿部怪異』ライナーノーツより)”「阿部怪異」をその延長と考えていいかどうかは当事者に聞いても答えが出ないだろうが、このアルバムで聴ける演奏には、個性も好みも様々なメンバーがそれぞれの趣味志向を可能な限り発揮して思う存分楽しむポジティヴなエナジーが溢れている。その一因は、いくつかのライヴレコーディングやスタジオ・セッションをカットアップして繋ぎ合わせた手法によることは確かだが、工藤冬里が「京都の方は東京に比べてみんな仲がいい」と羨ましがっていたという特有の交歓姿勢の現れでもある。

アルケミーレコード通販購入特典のCDRに収録された1980年4月13日大阪・蛍池クルセードでのライヴでは「ワンツースリーフォー!」のカウントで数十秒で演奏が切り替わる<人力カットアップ演奏>が展開されている。これは2012年11月29日渋谷WWWでの30年ぶりの再結成ライヴでも披露された演奏手法。メンバーそれぞれがカウントを担当することで、参加者意識の共有と過剰になりがちな自意識の平準化が図られる結果になった。

演奏の端々に、吉祥寺マイナーを思わせるサウンド(白石民夫のフリークトーン、浜野純の高速ギターカッティングなど)を聴き取ってほくそ笑む関東地下音楽愛好家も居るに違いない(俺だ)。また電子音楽(シュトックハウゼン)やジャーマンロック(ファウスト、タンジェリン・ドリーム)、『NO NEW YORK』やインダストリアルの影響が濃厚に感じられる一方で、ジャズ的要素が殆どないことは、関西シーンの成り立ちに権威主義的なジャズやフリージャズとの距離があったことを仄めかしている、と断定するのは下衆の勘ぐりかもしれないが、あながち的外れではないような気がする。



Profile
阿部怪異:
美川俊治 electronics(非常階段、インキャパシタンツ)
林直樹 key(NG) 
猪狩亘 ds(Metaphysics、Eel Ghost)
海保有子 b(非常階段、イラスト)
JOJO広重 g(非常階段)
岡俊行 ds(非常階段)
八太尚彦 syn(ジュラジューム)
藤本勝士 g(ペコちゃんはエロティックス)
坂本葉子 sax(LD50)
森田聖 b(リフォーム)


京都どらっぐすとぅあの常連客により1980年頃結成。1980年4月13日蛍池クルセード、1982年6月26日天王寺マントヒヒ、1983年3月6日京都dee-bee'sと合計3回のライヴ活動、それ以外にスタジオ・セッションを数回行った。その時々で参加メンバーは異なっており、ライヴでは、ワン、ツー、スリーの掛け声でぐしゃぐしゃの即興を開始、30秒程度でパタッと終わり、すぐに違うメンバーの掛け声で次ぎに行くという展開で、途中にやや長尺のインプロを挟みつつ、掛け声がメンバーを一巡したら演奏終了というようなことをやっていた。リリース作品はピナコテカレコードからカセット『阿部怪異』と、フランスのPtôse Production Présenteのコンピレーション・カセット『Assemblee Generale 3』(1曲提供)のみ 。2012年11月にJOJO広重(g)、T.美川(electronics)、吉田達也(ds)、Isshee(b)で一度限りの再結成ライヴが行われた。

阿部怪異 Live@渋谷WWW 2012.11.29 (thu)

阿部怪異/集団投射@渋谷WWW 2012.11.29 (thu)
アルケミーレコード公式サイト
コメント
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