キノコホテル 『マリアンヌの革命』
Kinoco Hotel - La Révolution De Marianne
King Records – KICS 93394
Vocals, [Electric] Organ, Chorus, Strings, Theremin, Other – Marianne Shinonome / マリアンヌ東雲
Electric Guitar, Chorus – Isabel = Keme Kamogawa / イザベル=ケメ鴨川
Electric Bass, Chorus – Giulietta Kirishima / ジュリエッタ霧島
Drums, Chorus, Percussion – Fabienne Inawashiro / ファビエンヌ猪苗代
1. 反逆の季節
2. おねだりストレンジ・ラヴ
3. 回転レストランの悲劇
4. てのひらがえし
5. 遠雷
6. 籠の中のアラステア
7. 愛はゲバゲバ
8. 赤ノ牢獄
9. 流浪ギャンブル
10. 月よ常しえに
Written-By – マリアンヌ東雲
Arranged By – キノコホテル, マリアンヌ東雲
Producer – マリアンヌ東雲
憂鬱から革命へと至る「彼女」の生き様
2年前は首に大蛇を巻きつけて氷の微笑を浮かべていた生娘が、皹割れたガラスの向こうから不敵な笑いを投げかけるポートレイトを見たとき、私は彼女の変心を確信し、「嗚呼この女(ひと)もまた自分を生きる決心をしたのだな」と胸を撫で下ろした。憂鬱に始まり、休日を経て、恍惚と誘惑の季節の後に逆襲と呪縛の試練を経験したひとりの感受性豊かな乙女音楽家が『自己革命戦争宣言』をした背景に追憶の時間(とき)があることは余り語られることは無い。9年と言う年月は如何に頑固な意志を持つ女戦士でも、その信念の行き先に迷いを覚えるには十分な時間である。いち演奏家、いち表現者、いちエンターテナーだけではなく、キノコホテルという旅荘に模した音楽集団を律する支配人として9年間を過ごしてきた彼女にとっても、この月日は筆舌に尽くしがたい様々な人生経験の灰汁が恰もゴミ集積地のように堆積した発酵物の中から、掃き溜めの宝石を摘み出し、ひとつひとつ積み上げる賽の河原の儀式の連続だったかもしれない。いわば年月の大蛇に首を絞められる呪縛に苛まれた彼女の転機は、未知の世界への旅立ちと自らの過去への禊だった。
2015年5月15日〜23日全5公演のUKツアーはありがちなアニメやゲームに便乗したショーケース公演ではなく、地元の熱心なプロモーターの親身な連携による手弁当のツアーであった。彼女たちの出自であるガレージロックの国境を越えたコネクションが実を結んだ結果、ギミックなしの裸のロックで各地のハードコアなガレージシーンに爪痕を残すことに成功した。そして何よりも彼女たちが経験として得た物は大きかったに違いない。
⇒Bang The Noise Website
UKツアーに先だつ2015年1月に初期レパートリーを現行メンバーで再レコーディングしたのがミニアルバム『マリアンヌの追憶』。現在も実演会に欠かせない代表曲ばかりだが、改めてスタジオでじっくり向き合うことで過去の自分の存在理由を再認識した意義は決して小さくない。このアルバムと、UKツアーの後2015年9月にリリースされたEP『夜の禁猟区』はいずれもインディレーベルVoltageレコードからの会場限定リリース。メジャーレーベルに所属しながらも自主独立を貫くD.I.Y.精神を再確認した。
キノコホテル、KING RECORDS移籍後初となるアルバム『マリアンヌの革命』リリース!―Skream!動画メッセージ
9年目の浮気を自主精神の復権で乗り越えた彼女たちが新天地(新レーベル)から発表した『マリアンヌの革命』は「革命 Revolution」とは破壊ではなく、創造に他ならないことを証明した。楽曲自体は複雑になり混沌の度合いを増しているにも拘らず、音の感触はこれまでになく風通しが良く、何の軋轢も感じさせること無く聴き手の耳から心に突き刺さる。キノコホテルの形容詞として付いて回る「昭和歌謡テイスト」は、今や大多数の昭和を知らない世代が憧れる近未来性に置き換えられ、『こち亀』ではなく『シン・ゴジラ』と同じ斬新な輝きを放つ。
「反逆の季節」はジャックスの「裏切りの季節」(68)に通じ、「おねだりストレンジ・ラヴ」はスタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情(Dr. Strangelove)」(64) を仄めかす。「回転レストランの悲劇」は「回転ベッドの向こうがわ」(12)の後日談、「てのひらがえし」は○○○、「遠雷」は「砂漠」(11)以来の情景描写長尺サイケ、「籠の中のアラステア」は「キノコノトリコ」(11)と化した胞子の末路を示唆している。「愛はゲバゲバ」は「恋はモヤモヤ」(15)の姉妹曲、「赤ノ牢獄」は「真っ赤なゼリー」(08)を口にした罪と罰。歌謡ポップ「流浪ギャンブル」はネクロ魔・瑳里ちゃんにカヴァーさせたいし、アシッドフォーク「月よ常しえに」は青葉市子とのデュエットを希望する。
キノコホテル / おねだりストレンジ・ラヴ(short version.)
マリアンヌ
革命起こして
愛し合おう
『革命女子に捧げる散文詩』(Miro Kristel作)
彼女が求めていたのは生半可な革命ではない
校門の横の駄菓子屋で二束三文で売っている
得体の知れない食玩のヴィニール臭いフレグランス
電気仕掛けのオレンジの皮を剥いて舌先の痺れる快感に酔う
一人の部屋の隅に蟠(わだかま)る暗闇に似た倦怠感
憂さ晴らしに舐めるタブレットのミントの香りに吐き気を催し
駆け込むバスルームの床にばらまかれた薔薇の花びら
足を滑らせ頭から倒れ込む咄嗟の瞬間に思い出す
夢の中でしたあの人との約束は確か
3年前に時効になった殺人事件の犯人の行方
赤い夕焼けの向かう側の雲の彼方に去ってゆく
胸に秘密を胸に締まったままで
その重みに耐えかねた地球の軸が
14分の1だけ左に傾いたまま回転運動を続ける羽目になる
誰も知らないエンジンルームに
ガソリン注ぐ斜向いの家から忍び出てくる人の影
その後を音を立てずに近づいて背中から一突き
だけどやっぱり愛してるなんて決まり文句を呟く
冷たくなった彼女の左目には高性能ターボエンジンが仕掛けてあった
貴女は冷たい息を吐き
僕等は生温い反吐を吐く
【参考音源】
頭脳警察 『彼女は革命家』
ぼくのとなりに座っているマルクス片手にブルージーン彼女は革命家ランラランラー
ぼくはあいつに狂っているもう闘争なんかどうだっていいさ彼女は革命家ランラランラー
クスリもやらない(やらない)オトコもしらない(しらない)闘争だけがあいつの命でもぼくはぼくはぼくは
そんなあいつが好きなんだいつか飛び込もうあの渦の中へランラランラー
ぼくはいつもさがしてるあいつの笑顔を彼女は赤軍派ランラランラー
頭脳警察「世界革命戦争宣言」
ブルジョアジー諸君!我々は君たちを世界中で革命戦争の場に叩き込んで一掃するために、
ここに公然と宣戦を布告するものである。
君たちの歴史的罪状は、もうわかりすぎているのだ。君たちの歴史は血塗られた歴史である。
君たち同士の間での世界的強盗戦争のために、我々の仲間をだまして動員し、
互いに殺し合わせ、あげくの果ては、がっぽりともうけているのだ。
我々はもう、そそのかされ、だまされはしない。
君たちにベトナムの仲間を好き勝手に殺す権利があるのなら、
我々にも君たちを好き勝手に殺す権利がある。
君たちにブラック・パンサーの同志を殺害しゲットーを戦車で押しつぶす権利があるのなら、
我々にも、ニクソン、佐藤、キッシンジャ―、ドゴールを殺し、ペンタゴン、防衛庁、警視庁、
君たちの家々を 爆弾で爆破する権利がある。
君たちに、沖縄の同志を銃剣で突き刺す権利があるのなら、
我々にも君たちを銃剣で突き刺す権利がある。
君たちの時代は終りなのだ。
我々は地球上から階級戦争をなくすための最後の戦争のために、
即ち世界革命戦争の勝利のために、 君たちをこの世から抹殺するために、最後まで戦い抜く。
我々は、自衛隊、機動隊、米軍諸君に、公然と銃をむける。
君たちは殺されるのがいやなら、その銃を後ろに向けたまえ!
君たちをそそのかし、後ろであやつっているブルジョアジーに向けて。
我々、世界プロレタリアートの解放の事業を邪魔する奴は、
誰でも容赦なく革命戦争の真ただ中で抹殺するだろう。
世界革命戦争宣言をここに発する。
⇒真夜中のヘヴィロック・パーティーにPANTA+騒音寺、灰野敬二新バンドら