そもそも堺はメタリックな臨海工業地帯ができる前は、
すぐ近くに浜があり、小魚があがった。
堺の名産は穴子だった。
よって、今だに穴子の寿司で聞こえた「深清鮓」なんて店がある。
堺でちょっと雁首揃えて飲む会があったので、ギリギリなんだけど、
マキで、となりの駅まで寄り道。
長いことご無沙汰の、ここに来たかった。
いわゆる酒屋の中のカウンターで飲ましてもらう、角打ち。
ビールで喉を湿らせたあとは、すぐさま酒。
燗酒は灘の生一本、桜正宗。 申し分ございません。
カウンターの目の前には、本日できるもの。
おっ、ワタリガニがある。 さすがは泉州。
泉州は海底が砂地なので、底ものはアカシタ(舌ビラメ)、アナゴ、カレイ、
ガッチョ(メゴチ)などがあがる。
魚場として知られる淡路や明石とも地続きともいえるのだから、
地形にもそれほど大差は無いのだろう。
型は小さいが、いい魚があがるのだ。
黒板に「あなごキモ」。
実はこれがお目当て。
深清を中心に、ここいらは何軒もの穴子屋があった。
寿司ネタに作る加工場があり、そこでは当然のことながら肝も残る。
この肝をネギと一緒に小鍋立てにするというのだから、たまらない。
どこを探しても、こんな酒肴出てきやしない。
シャコの塩茹で これも泉州名物だ。
泉南の小僧はとろ箱で買ってきて、おやつ代わりにしたという。
おおまかに剥いてくれているが、まともにやろうものなら、指先の皮が何枚あっても足りるまい。
子持ちだったりして、うへへへへ…
にんまりして、酒をグイ。指先をペロ。
一人目尻を下げて、アホのおっさんである。
アツアツの穴子鍋ができあがる。 豆腐を入れて、溶き卵が入る。
これをつつきながら、なんぼでも飲める。
だしを吸ってはグイ。
穴子の肝がまたいいアクセントになる。
葱がまたいいんだわ。
泉州堺。 堺は港町だったんだ、の思いを深く持つ。
横では一日汗かいて仕事したであろう、アンちゃんたちが一杯やってる。
たいして汗などかいていない自分としては肩身が狭いが、そんなこと言ってられない。
利休でも晶子でもない、政令指定都市関係ない、堺のもう一つの素顔に触れられる。
これだぁな、堺で飲む醍醐味とは。
口の中ヤケドしながらたいらげ、勘定。
たまらなく安い。
この後行った、活魚料理店のことは高かったことしか記憶に残っていない。
こういう地元にポツンとあって、地物でサクッと飲ませてくれる店こそ、そっとしておきたい町の宝ぢゃわい。