いま、日本で一番食べられている漬物はキムチである。
ボクらが子供の頃までは朝鮮漬といって、まだマイノリティな食べ物だった。
ひっくり返ったのは、おそらく88年(パルパル)のソウル五輪ぐらいからだろう。
キムチ鍋当たり前、お好み焼きなどにも当たり前に入る。
ラーメン屋にはキムチがないと、間が持てないようなところもある。
中華でキムチ、ミスマッチには違いないんだろうけど。
だが、まだまだ日本人には熟成の進んだキムチはなじみが薄い。
酸っぱいキムチを炒め物に使ったり、キムチの汁を料理に流用したりもする。
キムチを縦横無尽に使う知恵はまだまだ追いつかない。
さて、鶴橋。
鶴橋を歩いていて、渇望するのは美味いコーヒーである。
路地に漂うキムチの香り、いりこや雑節の香りから脱して、ほっと一息と思うのだが、
適当な喫茶店が見つからない。あてずっぽうで入って失敗はしたくない。
ということで、マスコミが何度も取材しているあの店へ。
あれだけ使っておいて、実は初めて入った。
コーヒーは一杯ずつサイフォンで淹れる。
深煎りでなかなか香り高い。
そして有名すぎるほど有名、この店「ロックヴィラ」の看板メニューがこれ!
キムチサンド600円。
これが、今さらながら、めちゃくちゃ美味くて驚いた。
パンはこんがりと表面を焼いた、アメリカンクラブサンドイッチ風。
中にはキュウリ、玉子、ハム、そして、たっぷりのキムチ・・・!!
キムチから水分が浸み出したら台無しになる。
あらかじめギューギューに水気を搾ってあるのが解る。
パンと具との間はもちろんバターを塗って、ガードする。
キムチは地元豊田商店のものとチラリ聞いた。
少し酸味のあるキムチがなかなかいい仕事をする。違和感なし。
厚めのロースハム、食べ応えのある玉子(柔らかく焼いてある)、たっぷりのキュウリ。
どれを抜いてもバランスが崩れてしまいそうだ。
テイクアウトもあるにはあるが、これは是非ともこの場で、できたてにかぶりつくべし。
持ち帰ると、どうしてもパンが湿気を帯びて、形もしまらないことになることだろう。
考案したのは女性オーナーの岩村さん。
てっきり、キムチを無理やりひねったウケ狙いメニューだと思っていたが、
とんでもない、見事に完成しているメニューだった。
これ、他の店でも出して、鶴橋中に広がってもいいメニューだと思うのだが、
そうはならないところをみると、なかなか扱いが難しいのだろう。
ヘタに個性を出そうとすると、失敗しそうな予感がする。
千日前通りから11班通りを南へ向いて行くとスグ。
とにかく鶴橋は説明しにくいので、時間に余裕のある時に来て、何度も迷うがいい。
おっつけ、この戦後の市場の姿を残すエリアも大きく変わることになる。