マーベラスS

King Of Western-Swing!!
歌と食と酒、それに声のページ。

トロ専門店 in南方

2007-01-08 23:39:37 | 

         
         鮪の刺身を食いたくなったと
         人間みたいなことを女房が言った
         言われてみるとついぼくも人間めいて
         鮪の刺身を夢みかけるのだが
         死んでもよければ勝手に食えと
         ぼくは腹だちまぎれに言ったのだ
         女房はぷいと横にむいてしまったのだが
         亭主も女房も互いに鮪なのであって
                (「鮪と鰯」部分 山之口獏)

沖縄の詩人、山之口獏さんの詩で、高田渡が歌っていた。
そういえば母の友人に娘獏さんがいて、エキゾ美人で、昔そこの子供たちに「お兄様」とよばれ、どぎまぎした記憶がある。
鮪というと、ふとこの歌を思い出してしまう。

南方にある鮪のトロ専門店「とろ家」。本鮪が貴重だ、獲れなくなるだのと言われてるのに、こんな店ができるとは、世の中どうなってるのだ。

大トロの冷しゃぶ。薄くスライスしたのをさっと熱湯をくぐらせシモフリ状態にしてレタスと共にドレッシングで食べさせる。上等のハムのよう。

トロつくねステーキ・オリジナルソース。早い話がハンバーグ。醤油ベースのソースにぶちゅっと潰した鶏卵の黄身がこってりしてクセになる。
生なのかな、玉ねぎのシャリッとした歯ざわりもよろし。こういうのが全て居酒屋価格なのだから、トロ好きならば笑いが止まらない。

トロのコロッケ 火を通しすぎると勿体ないでしょ~と言われたが、揚げもんで中がぬるいレアはどうかと思う。ここはアッチッチでお願いしたい。

春巻き パリパリ。これもおおよそ予想できる範囲内の味だ。
鮪のとろなんてものはそもそも下品なものだった。江戸時代は捨てていたし、江戸っ子先輩作家に話を聴くと、ねぎま鍋なんてものはドロドロのトロを使う安直な食い物だったといふ。志賀直哉の「小僧の神様」に出てくる屋台の鮨はあれ、黄色く見えるほど脂の乗った鮪だったな。

戦後、脂っこいものが求められるようになり、トロが成り上がってしまった。アプレゲールであり、バブル期に土建屋が寿司屋で「とろ、とろ、とろ」と注文しまくってた鮨種であり、恨みにも似た思いがとろにはある。ま、いいや。

こだわり五貫にぎり。シメはやっぱり鮨、鮪はやはり鮨だ。本鮪の赤身はヘモグロビンのミネラル分を感じる辺りがいい。中トロあたりが一番旨い。メバチの赤味なんぞを醤油漬けにすると、そこいら辺の本鮪とかインドそこのけの旨さである。

どういうわけか南方には他にも鉄火丼専門店があったりして、鮪人気が高い地域のようだ。
「まだまだ鮪安心してていいんですかい?」と訊くと、店主は不敵な笑いを浮かべたので、まず無くなることは無いのだろう。鯨肉だってどこでどうなってるのか、無くなったという話は聴かないもんな。
『とろ家』 南方、天満橋、垂水にもあり。