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「「室町幕府」の代案はあるのか、という、ささやか過ぎる疑問に対しても、一応お答えしておきたい」(by 東島誠氏)

2019-07-15 | 東島誠「「幕府」論のための基礎概念序説」
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2019年 7月15日(月)10時02分44秒

>筆綾丸さん
>渡辺氏は「幕府」否定論の黒幕で、東島氏はこの黒幕の傀儡(puppet)

「幕府」は後期水戸学が一般化のきっかけをつくり、幕末、じゃなくて「江戸時代末期のあの政治状況の中」で流行語となった「皇国史観の一象徴にほかならない」のだと説く渡辺浩氏の「幕府」論の射程はもちろん近世以前に及んでいて、渡辺説に素直に従うならば「鎌倉幕府」「室町幕府」は全廃し、江戸期の「公儀」に対応する別の呼称を考案しなければならないはずですが、東島氏の立場はずいぶん中途半端ですね。

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 以上のことから、本章では、中世史において「幕府」という用語を用いること自体を再審に付することとしたい。いささか結論先取り的に言えば、中世の「幕府」用例には、佐藤の言う「抽象的な歴史的存在」としての「幕府」用例もまた確かに存在するし、さらには、中世の「幕府」用例の特有の文脈に着目するならば、おそらく鎌倉幕府は「鎌倉幕府」と呼んでよいが、室町幕府を「室町幕府」と呼ぶのはおよそ正しくない、という結論に逢着しうる。近年「公武統一政権」が盛んに論じられ、論者によってはすでに「室町幕府」に替えて「室町政権」の語を用い始めている者もいるが、そうした状況を踏まえても、もはや「室町幕府」という概念は必要ないのではないか、それが本章で論じたい点である。


と暫定的な結論を出した後で(p30)、東島氏は「ⅱ武家政権としての「幕府」用例」と「ⅲ「関東幕府」と「東関柳営」」に関する史料を検討した後、

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 「東関柳営(幕府)」「関東幕府」に相当する語がない以上、室町幕府なる語を使用することには大いに躊躇される。それが前節より得られる結論である。東国国家論に立つならば、「〇〇幕府」は、鎌倉幕府、鎌倉府のようにあくまで関東に樹立された軍政府のみを指して用いるべきであろう。
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という結論を出します。(p35)
渡辺氏によれば「幕府」は「皇国史観の一象徴にほかならない」邪悪な概念なのだから「鎌倉幕府」概念も追放するのが当然であるのに、東島氏は「鎌倉幕府」概念の存続を許すばかりか、「鎌倉府」も「幕府」として認めるのだそうです。
しかし、「鎌倉府」の名前はどうするのか。
「後期鎌倉幕府」とでもしなければ通常の「鎌倉幕府」と区別がつかなくて大混乱になりますが、それもずいぶん面倒な話です。
そして、肝心の「室町幕府」の代替案ですが、これに関しては東島氏が何を言っているのか、私には全然理解できません。
即ち、

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 そのことを踏まえた上で、本章の最後に、では「室町幕府」の代案はあるのか、という、ささやか過ぎる疑問に対しても、一応お答えしておきたい。もっともこの問いは本来、足利将軍家の権力機構を、義満以前も以後も同じ呼称で通すという、きわめて乱暴な前提を容認しないと答えられないはずなのだが、そこはあくまで余興である。じつは史料上の語は皆無ではない。なぜなら、『花営三代記』の「花営」とは「花洛」における柳営の意であるのだから。そもそも元「花亭」にして「花御所」となった「伏見殿御所」を「故大樹」義詮が「買得」し、義満が「大樹上亭」とした周知の事実も 「花洛」における御所(花営)として象徴的な場所たりえたからであろう。ならば、室町幕府に替えて「花幕府」とでも呼ぼうか?―もちろん否であろう。だがもしも否であるならば、論者は真剣に呼称を、しかも権力の各段階に相応しい呼称を考えるべきであろう。
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とのことですが(p35以下)、東島氏は本来は「足利将軍家の権力機構を、義満以前も以後も同じ呼称で通すという、きわめて乱暴な前提」を容認しない立場のようですから、義満以前の「室町幕府」と義満以後の「室町幕府」を別々の呼称にすべきだと考えているようです。
しかし、「そこはあくまで余興である」として、両者をひとまとめに「花幕府」と提案するのかと思ったら、「もちろん否であろう」とひっくり返します。
この一人芝居はいったい何なのか。
そして、更に「だがもしも否であるならば、論者は真剣に呼称を、しかも権力の各段階に相応しい呼称を考えるべきであろう」と言われるのですが、ここに出てくる「論者」とはいったい誰なのか。
「室町幕府」概念の追放を狙う「論者」は東島氏以外誰か存在するのか。
東島氏自身が「真剣に」考えていないのに、いったい誰が「真剣に」考えるのか。
ということで、この部分は酔っ払いか、それとも変なクスリをやっているヤバい人の戯言としか読めません。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

灰色の猊下(Éminence grise) 2019/07/14(日) 15:57:16
小太郎さん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E5%B9%95
不遜な言い方を敢えてすると、渡辺氏は「幕府」否定論の黒幕で、東島氏はこの黒幕の傀儡(puppet)、ということになりますかね。
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