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「こころ教」の代替案

2019-06-16 | 森本あんり『異端の時代─正統のかたちを求めて』

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2019年 6月16日(日)12時00分47秒

マックス・ウェーバーの「宗教音痴」問題はひとまず置いて、

「こころ教原理主義」(by 池内恵氏)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/8fd2209300d2f81a43fa3927ffa7cb5b

で引用した池内恵氏「日本の「こころ教」とイスラーム「神の法」」(『中央公論』2019年1月号)の続きです。(p38以下)

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 この日本的な「こころ教」にとって理解しがたい、あるいは受け入れがたいのは、人間の「こころ」からは対極にある、絶対的な他者としての神が律法を下し、人間に何を信じ、何をするべきかを命令する、という考え方である。この律法の要素を全面的に体系化し、宗教信仰の主要な要素としているのがイスラーム教であり、だからこそ日本ではイスラーム教が理解されにくい。イスラーム教の律法はアラビア語で「シャリーア」と呼ばれる。これは「シャルウ」すなわち「啓示」という語の派生形である。つまりアラビア語ではイスラーム教の啓示はそのまま法なのである。そのため「シャリーア」は神による啓示に基づく「啓示法」と訳してもよい。
 イスラーム教の観点からは、人間は神が命じる法を受け入れるか受け入れないかを選ぶ立場にはない。神はムハンマドを通じてこの法をすでに下してしまっている。受け入れないのであれば人間は死後に地獄に落ちるしかない。受け入れて啓示法の命じるところに従って生を送れば、死後に最後の審判でそれを認められ天国に行けるかもしれない。
 ここには人間、それも個々人が「こころ」に従って、神の啓示法のある部分あるいは全体の当否を判定したり、快・不快を論じたりするような余地は、全くない。そのことがあまりに杓子定規であると感じるのであれば、あなたはすでに幾分かは「こころ教」の信者であると言える。人間の側が神の啓示する法を拒否する、あるいはその一部分を選んで受け入れるといったことは、一神教の観点からは矛盾であり、人間側にはそのような権利がないどころか、そもそも「できない」ことである。
 しかし日本では、各人の「こころ」が、その感じるところに従って、当人にとって必要な宗教を取捨選択できるという、ある種非常にラディカルな信念が行き渡っており、これが一神教の前提を知らず知らずのうちに覆している。
 このことを一神教徒、特に啓示法の要素が明確に信仰の中核に位置づけられ体系化され現代においても教育によって広められているイスラーム教の信者には、敏感に、驚きをもって感じ取る。日本側はそのような受け止め方の存在を感じ取らない。ここに非対称性があり、ギャップがある。
 今のところはこの非対称性とギャップは、相互の無関心によって、問題化することが回避されているが、それはいつまで続くのだろうか。日本が実質上の移民国家となり、これまで以上にイスラーム圏から、当面は特に東南アジアから、移民を受け入れれば、やがてはイスラーム教の規範と、日本社会で無意識のうちに強固に信じられているこの「こころ教」の乖離は、摩擦や衝突に発展するかもしれない。
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ということで、多くの日本人は「当人にとって必要な宗教を取捨選択できる」ことが「ある種非常にラディカルな信念」であることを自覚できていない、という池内氏の指摘は非常に鋭いと思います。
さて、ここまで読むと、やはり「こころ教」という無色透明・無味無臭・価値中立的なネーミングが「信じるものを選べる─日本人固有の宗教観」を全然反映していない点が気になりますね。
「こころ教」の核心は「取捨選択できる」ことですから、例えば「取捨選択可能教」とすると法然上人の『選択本願念仏集』なども連想され、格調が高くて良さそうですが、反面、これでは硬すぎて融通無碍な感じが出ません。
そこで、私見では、融通無碍であり、かつ庶民的な雰囲気を醸し出すものとして、「ええじゃないか教」ぐらいで良いのではなかろうかと思います。
ま、幕末の民衆運動のパクリじゃろ、と言われたら敢えて否定はしませんが。

「ええじゃないか」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%88%E3%81%88%E3%81%98%E3%82%83%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%8B

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