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歴史学研究会大会

2012-05-26 | 歴史学研究会と歴史科学協議会
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2012年 5月26日(土)06時18分4秒

今日・明日と歴史学研究会大会なんですね。
「特設部会」の「災害の「いま」を生きることと歴史を学ぶこと-3・11以降の歴史学はいかにあるべきか-」は興味深いテーマです。

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(前略)
 災害が大規模化し,複合化するにつれ,被災地の復興は長く,複雑な経緯をたどらざるをえない。それは,甚大な物的損害だけでなく,肉親や知人の死と向きあうことから生じる心理的喪失感を伴う非日常性からの回復でもある。この道のりに歴史研究者はどう関わることができるのか。災害史研究の立場からは,歴史上,復興に際して人びとがいかなる障害に直面し,それらをどのように解決したのかを比較したうえで,今回だけでなく将来の災害からの復興のための帰納的モデルを提示することが考えられる。日本中世における災害と復興を研究してきた西谷地晴美氏の報告は「災害における所有と依存」と題されている。災害は地域社会を崩壊の危機に直面させ,非日常的な依存関係を発現させる。既存の秩序はそこから再構築され,日常性を回復する。報告では,従来の所有論にこの「依存」という視点を加味することで,災害と復興に関する理論的な考察を展開していただく。
 これらの道が災害史研究者にのみ開かれているからといって,すべての歴史研究者が災害史に転向するのは現実的ではないし,望ましくもない。では,どういう道が可能なのか。災害史研究の成果が広く社会に浸透しなかった理由の一つは,災害と復興という要因を組み込んだ歴史像をつくってこなかった歴史学のあり方に求められる。戦争と平和と比べれば,それは明らかだろう。これからの歴史学は,災害と復興という問題系を組み込んだ新たな歴史像を構築し,通史や歴史教科書の形で発信することで,災害史研究の成果を社会の知的共有財産にすることを,集団的課題の一つとすべきではないか。
 他方で,研究者個人が災害のいまに関わる形で研究を展開する可能性も探らねばならない。災害を天災と人災の複合体として捉えるとき,特定の地域に被害が集中するのは偶然でなくなる。災害が起きる以前に,それぞれの地域社会がどのように構造化されてきたのか,自然環境との関わりでいえばいかなる開発の産物であるのかという歴史的・人為的な要因が,被害のあり方を規定するのだから。研究蓄積のある地域社会論に,外部環境の改変とそれがもたらす潜在的な災害リスクの増大という次元を取り込むならば,被害が集中する確率の高い地域を生み出すメカニズムの解明につながるだろう。中嶋久人氏には「原発災害に対する不安・批判の鎮静化と地方利益──電源交付金制度の創設をめぐって──」と題し,原発立地という特殊な開発モデルの導入が,今次の複合災害による被害の福島県浜通りへの集中を招くこととなった経緯を検討していただく。原発事故という災害リスクに対する地域住民の意識を抑圧する地方政治システムが,結果として災害リスクへの対処能力を低下させた側面に焦点をあてることは,原発依存という開発モデル──私たちの多くがその受益者だったことを忘れてはならない── からの脱却を構想するための第一歩となりえよう。
 日常性の回復への道のりに歴史学が寄与しうるとはいっても,災害に終息の見通しがつかない現状では,帰納的な手法に依拠する歴史研究者に荷が重いのは否めない。そこで環境社会学の原口弥生氏には「災害回復(レジリエンス)の再検討──自然・社会・技術──」と題し,自然災害と技術災害の比較という観点から,まず2005年8月末に米国南部を襲ったハリケーン・カトリーナによる複合災害に即し,災害までの不均等な開発の経緯,災害の実態,そして災害からの復興という三つの局面を包括的に考察するための参照枠組みを提示していただく。報告の後半では,この枠組みに依拠しながら福島第一原発事故を検討される。原口報告は,社会学と歴史学の間での災害や環境という問題系をめぐる対話のためのきっかけとなりうると考えている。
 生存維持の条件の変化が歴史学に課している課題を,これら4本の報告でカバーすることはできない。けれども,ここでの報告と討論を通じ,参加者一人ひとりが,災害のいまを生きる歴史研究者として何ができるのかを考えるためのヒントを得るならば,そしてそれが災害と生存維持を組み込んだ歴史学の持続的な展開につながるならば,本部会はその目的を達成したといえよう。(
http://rekiken.jp/annual_meetings/index.html#tokusetu


去年は執行部が非常に程度の低い総会決議案を提出したために混乱が生じたようですが、一年経って、さすがに研究者の姿勢にも変化が生じたのでしょうね。

「歴史学研究会の研究」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/5873
「提案の責任者」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/5875
「決議案と決議の異同(その1)」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/5876
「決議案と決議の異同(その2)」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/5880
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